チッキの時代 2

中国が旧正月の春節を前に国内移動が大変なことになっているようですね。
新幹線などもギューギュー詰めという報道がありましたが、確かにそうでしょう。
日本も昔はそうでしたからね。
乗れないお客は窓から出入りしていたし。
その原因はお客の数はもちろんですが、荷物が多いんですよ。
国が豊かになって金回りが良くなると、とにかく帰省するときにいろいろなお土産を買って帰るようになる。田舎では長男が家を継いで頑張っていて、自分は都会へ出て良い生活をしていると思われているから、せめてもの罪滅ぼしに、自分の両親にはもちろん、兄貴の嫁さんや甥っ子姪っ子にもいろいろなものをお土産に買いこんで大きな荷物を担いで帰省列車に乗る。だから列車はギューギューになるのです。
まして昔は地方と都会との格差というか、商品の品ぞろえが全く違っていましたから、都会で売っている商品に比べると田舎の商品はすべて見劣りがするわけで、ケーキのような洋菓子などというものは田舎にはないし、洋服だって都会の方がはるかにセンスがあるわけですから、とにかく東京から田舎へ帰るときは皆さんたくさん買い物をして大荷物を持って汽車に乗るわけです。
今のように宅配便などが発達していなかった昭和の時代ですからね。
中国人の民族大移動も50過ぎのおじさんから見たら、なんだか懐かしく見えるというものです。
さて、そういう時代でももう少しスマートに旅行する人たちも多くいたわけでして、そういう人たちは鉄道の手荷物、小荷物輸送サービスというものを利用していました。旅行者は「チッキ」と呼ばれた手荷物輸送システムを使って、旅行に伴う大きな手荷物を別便で目的地へ先送りしたり、個人的な荷物を知り合いへ送ったりしていたというお話を昨日させていただいたわけです。
そして、その当時は、荷物列車という手小荷物輸送のためだけの専用列車が大都市間を走っていて、新聞や郵便なども併せて鉄道で輸送していましたし、郵政省(現日本郵便の前身)に所属する郵便車両などというのもあって、地域によっては貨物列車とともに、鉄道は物流の主役の座にあったわけです。
房総半島というところは、東京から近い割には交通事情が悪く、自動車では時間が読めない地域が多くあった関係で、郵便や新聞の輸送を荷物列車で行っていました。
私が記憶しているのは、いつごろまでかは忘れましたが、両国駅からキハ35を数両連ねた列車が午後の時間帯に発着していて、それが新聞輸送をやっていました。房総半島の勝浦や館山などへ、夕刊を届ける列車です。だからほぼ毎日走っていたのですが、その頃はSLが全廃するなど、鉄道に関してがっかりすることが連続していた時代でしたので、残念ながら何も記録してないんですね。
ただ、そういう列車が走っていたことだけは記憶していて、キユニもあったかもしれないけれど、キハ35系が走っていたと記憶しています。そのうち、旧型国電のクモユニみたいなスカ色の電車になってけっこう最近まで113系代用で走っていたようです。

この写真は複々線化前の昭和44年ごろの総武線下総中山駅を通過するキハ17+キハ35の4両編成ですが、千葉からこちらの東京方面に入ってくる気動車列車は旅客列車ではありませんでしたから、新聞や郵便を輸送する列車だと思われます。
両国から千葉まで行って、千葉で3方向に分割されて、定期列車に併結されて各方面への新聞輸送を行っていたのでしょう。
館山道が開通して、今では内房方面は特急列車すら壊滅状態ですが、道路事情が悪かった時代には鉄道は大活躍していたということになりますね。

先月、台湾をぐるり一周鉄道の旅をしてきましたが、その時の光景です。
先頭の電気機関車に乗せてもらって前を見ていた時、向こうからやはり同じ電気機関車に聞かれた急行列車が到着しました。

その客車の編成を見ていたら、一番後ろの2両だけが色違いの車両が連結されています。この車両が荷物用の車両です。

ちょうどその荷物車が私のすぐ横に停まりましたので中を覗き込むと、荷物が搭載されています。
紐で縛って荷札を付けた箱は、昭和の国鉄時代の手荷物、小荷物の姿そのもので、とても懐かしくなってシャッターを切りましたが、台湾では、古き良き時代の名残というのでしょうか。昭和の国鉄風景がこういうところにも残っているんですね。

別の列車ですが、やはり急行列車の最後部に連結されている電源車には「行李」の文字が。
まさしく昭和の日本で旅行かばんという意味で使用されていた「行李」です。
つまり、荷物車なんですね。
こういうところが、台湾旅行のやめられないところなんです。
台湾を鉄道で旅をしていて、思わず日本の「チッキ」を思い出しましたのでご紹介させていただきました。
ちなみに、世界を見渡すと、発展途上国ほど旅行者の荷物は多く、先進国ほど少ない傾向があります。
また、航空旅行ではファーストやビジネスクラスなど、上のクラスになるほど預ける荷物が少なくなり、エコノミークラスの方がチェックインするかばん、つまり「チッキ」が多くなるというのが、昨今の傾向であると私は感じております。
旅慣れた人は、スマートに、身軽に旅行しているんですね。
皆さんはいかがでしょうか?
(おわり)