ちょっといい話

この間、大多喜町の人に話しかけられました。
その方は、「いい光景を見かけたよ。」とおっしゃいます。
県立高校の入学試験が行われた日のことだそうです。
朝、いすみ鉄道の列車の中に、数人の受験生が乗っている光景を目にしたそうです。
大多喜高校を受験する中学3年生です。
みんな表情は硬く、緊張している様子でした。
列車が大多喜駅に到着して、受験生たちが下車しようとすると、その列車の運転士がマイクを取って
「みなさん、自信を持って試験を受けてきてください。大丈夫ですよ。きっといい結果が出ますから、落ち着いて頑張ってきてくださいね。」
と、そう言ったそうです。
受験生たちは、「はい! ありがとうございます。」と言って降りて行ったそうです。
「ああいう運転士さんはいいよね。不安そうな中学生にとって見たら、心強いし、受験に行く列車の運転士さんから励まされたことは、一生思い出に残るよ。」
そう言ってくれました。
いすみ鉄道では、もちろんそんなアナウンスのマニュアルはありません。
アナウンスした運転士は、国鉄からJRで40年以上も勤務している強面(こわもて)のおじさん。
でも、人の気持ちがわかる人なんですね。
不安そうな中学生を見たら、思わず応援したくなる。
私は、そういう人間としてのプラスアルファ―の仕事は、マニュアルに載っていなくても、どんどんやるべきだと考えています。
鉄道会社に勤務するということは、決められた仕事を決められた手順でミスなくやっていればそれでよいわけです。
だけど、それだけやっていればよいという時代は、特にローカル線では、とっくの昔に終わっているわけです。
働くスタッフ1人1人が、決められた仕事以外に、それにプラスアルファ―で何ができるかを考えていくことが必要なんだと思うわけです。
決められた仕事だけを黙々とこなしているだけで、「私のどこがいけないんですか?」というような人は、いすみ鉄道には向いていないのかもしれません。
でも、私は、社長として、スタッフにプラスアルファ―の仕事をしろとは言いませんよ。
なぜなら、自分で考えることが大事だから。
言われたからやる。マニュアルに書いてあるからやる。
そういうことじゃなくて、自分で考えて、自分ができることをお客様に提供することが大事だと思います。
ところが、鉄道会社に長く勤めていると、この「自分で考える」ということをしなくなる人が多いと思いますし、「余計なことをしない」、という風習というか、思考回路というのが、いろいろな鉄道会社で社員に根付いているように感じることが多々あるからです。
受験生に思い出を作ってくれた運転士さん、ありがとうございました。
それをほほえましく思って私に教えてくれた大多喜住人さん、ありがとうございました。
ローカル線は、やっぱ、ローカル線じゃなければ出せない、いい味があるんですよね。
都会の人々がローカル線にあこがれるのは、そういうところなのかもしれません。