BCPという考え方。

関東南部に雪が降るとか降らないとかの予報が出ています。
先週は予報が的中して一部でかなりの積雪があったようですが、こういう時に私がいつも思うのは、BCPという考え方が日本人にはまだなじんでいないということです。
BCPというのは英語で(Business Continuity Plan)の略です。
どういうことかというと、災害などが発生してもきちんと業務を継続できるようにあらかじめ計画しておく会社ごとのプランのことです。
東京地方に大雪が降ります。
すると、交通機関がマヒします。
どうしてかというと、東京の電車は雪に弱いからです。
どうして雪に弱いのかというと、雪に対する準備がされていないからです。
ポイントが凍結したり、信号回路が働かなくなったり、雪の重みでパンタグラフが下がって架線との間に隙間ができるとスパークが発生し架線が溶融してしまう。
そういうことが電車が動かなくなる理由です。
でも、北海道では札幌という大都市でも10~20センチ程度の雪では電車がストップすることはありません。
それはなぜかというと、雪が降っても凍結しないポイントを装備し、雪の重みでも垂れ下がることのないパンタグラフを取り付けているからです。
では、どうして北海道の電車はそういう設備があるのに、東京の電車は雪に対する設備を持っていないのか。その理由は雪が降る頻度と、それに対するコストの問題です。
東京の電車も10~20センチぐらいの雪ではびくともしないような雪対策を線路や車両に持っていれば、雪が降っても止まることなく走れるわけですが、では数年に一度あるかないかの大雪に備えて、鉄道の設備をすべて耐雪構造にすることが現実的かどうかというと、それは誰が考えても不要設備に入ることになると思います。
これから気候変動で東京も毎年深い雪に覆われるような時代になれば話は別ですが、現段階で何万両もある東京の電車すべてに耐雪設備を持たせることは無駄な投資と考えられるのではないでしょうか。
では考え方を次のステージに移してみましょう。
つまり、雪が降ったら通常通りのオペレーションができなくなるという前提で鉄道会社はその降る雪の量によって、間引き運転を行うことになります。
これが、鉄道会社のBCPになります。
2分ごとに15両編成の列車をオペレーションすることは、通常の天候では可能ですが、大雪の時にはできなくなる、という前提で、事前に計画し、その計画を実行するわけです。
最近では大雪の予報が出ると、前日の夕方ぐらいに翌日の電車の運行予定を各鉄道会社は発表することが多くなりました。
これに対し、「降るか降らないかわからないのに、前日の段階で間引き運転を決めるとはけしからん。」という意見をよく見かけますが、そういう人はBCPという考え方に対する知識を持ち合わせていない人だということになります。
そして、実際に雪が降り始めると、その雪の降り方によって、4割減便、6割減便、通常の2割程度の運転というように段階を追って列車の本数を減らしていき、何とかBusiness を Continue しようと努力するわけです。
ところが、不思議なことに、利用者の方はこういうことに対する対応ができていません。
テレビのインタビューに「いつもより早めに出勤したのですが、2時間余計にかかりました。」などと言うことを恥ずかしげもなく言っているのが日本のサラリーマンです。
どうしてかというと、電車が通常の半分しか動かないということは、ただでさえラッシュ時には乗せきれないほど混雑しているわけですから、乗せきれないお客が駅構内にあふれて改札規制をするのは目に見えているわけで、まして雪の降り方が予想以上だったり、何かトラブルがあったりすれば、その半分程度運転の電車も来なくなるわけです。
では、そういう時はどうしたらよいのかと言えば、各会社ごとに最低限度の業務を行うのに必要な人数を算出して、少なくともその人間は会社に泊めるなり会社の近くのホテルに前泊させる。それ以外の人間は自宅待機をさせるなど、それぞれの会社のBCPに従えば良いのです。
でも、実際の日本の会社では、そもそもBCPの考え方すらないところがほとんどだから、各自の判断と自己の努力で、何とか出勤しようと頑張るしか方法がないのです。
私が成田空港に勤めていた時は、当然BCPがありましたから、翌日雪だということになれば、最低限度の必要スタッフを前泊させるか、そのスタッフの自宅に翌朝出勤用のタクシー配車を手配します。それ以外のスタッフは自宅待機か、または努力目標として、「状況を見てこられるようであれば出勤する。」という態勢を整えます。
前泊やタクシーの手配などは、会社として余分なコストがかかるわけですから、本当に業務を行うために必要な最低限度の、いわゆる少数精鋭を集めます。
ところが、こういう時になると急に張り切るスタッフもいて、「僕も泊まりましょうか?」という人間も出てきますが、そういう人はたいていこの少数精鋭には入らないんですね。
だから、気持ちだけありがたく頂戴して自宅待機をお願いするわけですが、雪が降るたびに自分は召集される側に入らないということは、その人なりにいろいろ考えなければならないことですから、そういう意味では自分の業務態度や能力を見直す良いきっかけになるということです。
だから、大雪が降って、それでもがんばって会社へ行って、4時間遅れで到着したとか自慢げに話しているおじさんたちは、「お前さんはBCPに入っていないよ。」と言われていることに、本当なら気付かなければならないんですよね。
ということで、今夜も東京地方に雪の予報が出ています。
明日は日曜日ですからラッシュの混乱はなさそうですが、少なくとも一つだけ言えることは、東京の電車が大雪が降ってもオペレーションできる設備を持っていない以上、大雪の時は鉄道会社のBCPで間引き運転を行うわけですから、通勤のサラリーマンの人たちもいつも通りに通勤できるはずがないということで、前回の雪の時に3時間も4時間もかけて会社に行ったような人は、まず前の日に上司に「私は会社に泊まったほうが良いでしょうか?」と質問してみるべきでしょう。
そして、その時、あなたの上司が「そうだな、ホテルを取って泊まれ。」と言ってくれるか、「いや、無理して来なくても良いから自宅待機するように。」と言われるかどうかで、とりあえず会社のあなたに対する期待度がわかるというものですから、これがあなた自身の人生のBCPのきっかけになると私は考えます。
ということで、雪の予報の中、私はこれから秋葉原で新年会です。
そしてこれが私のBCPなのです。
えっ? どういうことかって?
とりあえず飲めるときは飲む、ということですよ。