技術の粋を集めた商品。

世の中が高度化して多様化して、いろいろな人たちがいろいろなものを求める時代になりました。

そういう時代になってみると、昔の昭和の発展途上時代を経験してきたおじさんとしては、サービスというのは一体なんなのだろうか、ということを考えてしまうものです。

 

お金さえ出せばなんでも手に入って、どんなサービスでも受けられる時代です。

それはお客様の側の話ですが、では、サービスや商品を提供する側はどうなのでしょうか。

お金さえ払えば最高の商品を提供できて、お金さえかければ最高のサービスを提供することができるのでしょうか。

確かにそういうサービスもあるかもしれません。

お金さえ払えばなんでも手に入ると思っているお客様に対して、お金さえかければ上等なサービスであるという商品を提供する会社があれば、お互いにビジネスにはなるのでしょう。

でも、私にはちょっと疑問です。

それじゃあまるで、売る側も買う側も成金趣味の権化のようではありませんか。

今日はそんなことを考えてみました。

 

 

私の古巣の航空会社は、世界一大きな会社で、日本航空も全日空も足元に及ばないと私は考えていました。

だって、私の会社にはコンコルドという世界一速い飛行機があって、それを運行していたんですから。

つまり、パイロットも、整備士も、アテンダントも、サービスの内容も、世界一だと考えていました。

そして、事実として、世界一のオペレーションを行っていました。

それが社員である私たちの誇りでした。

 

時を同じくして、世界的傾向として、航空会社は国際線の路線からファーストクラスを廃止して、ビジネスとエコノミーの2クラス化することを進めていました。ビジネスクラスが主力商品としてある中で、ファーストクラスとの差別化がだんだんと難しくなっていったのです。

でも、私の会社は、ファーストクラスを廃止しませんでした。

その結果として、同じ路線を飛ぶファーストクラスの無い2クラス制の航空会社からはお客様が減って、最終的には撤退してしまいました。

これはどういうことなのでしょうか?

 

お客様というのは、たとえ自分がエコノミークラスに乗るとしても、やっぱりファーストクラスが付いている会社の飛行機の方が、LCCのようなエコノミーだけの飛行機を飛ばしている会社に比べて、サービスに対する期待値が大きいのです。

エコノミークラスだけのサービスの会社と、ファーストクラスもついている会社とでは、現実は別として、出される機内食ひとつ取ってみても、「きっと良いものが出されるだろう。」というような期待がありますし、チェックインカウンターや搭乗口といった共用スペースだって、ファーストクラスが付いている会社と、LCCとではきっと違うだろうということを期待して、ファーストクラスが付いている航空会社のエコノミークラスを利用するのだと思います。

 

自家用車を買う時もそうだと思います。

どうしてカローラを買うのでしょうか?

そりゃあ、レクサスを作っている会社だからです。

どうしてサニーを買うのでしょうか?

そりゃあZやGTRを作っている会社だからです。

 

サービスやモノづくりというのは、ノウハウの蓄積の上で成り立っていますから、最高級の自動車を作る会社にはそれだけのノウハウの蓄積があるわけで、つまりは、「レクサスを作っている会社だから、カローラは間違いないだろう。」とお客様はその会社の商品に期待するわけです。

逆に言えば、いきなりレクサスを作れるわけではなくて、パブリカやカローラといった大衆自動車で長年培ってきた技術の粋を集めたものがレクサスでありますから、お客様は、そういうことを理解して大衆車を買うわけで、これがいわゆるブランドなのであります。

 

自動車会社が、例えばF-1に参戦するなんてのは、ある意味、そういう最高級の技術に挑戦するわけで、その技術が、末端の商品にまで反映されるという期待感があって、ブランドイメージが確立し、その会社のファンが生まれるのです。

 

さて、そう考えると、鉄道会社はどうでしょうか?

 

最高級の車両、最上級のクラスには技術の粋が結集しているのでしょうか?

 

私は、それはどうも違うような気がするのです。

 

今、大きな鉄道会社が一生懸命宣伝している超豪華列車は、技術の粋を集めたものではありません。

なぜなら、その下の列車でそういうサービスをやっていないからです。

食堂車はやめます。車内販売もやめます。寝台列車もやめます。

この30年間で、そういうサービスを次々と廃止してしまった会社が、ここへきて急に超豪華列車をやると言っていることが、どうも私には理解できないのです。

だって、現場でのノウハウが全くないんですよ。

車内販売のやり方、寝台車での各種サービス方法、食堂車での調理など、一般庶民が普通に乗る列車からそういうサービスをどんどん廃止している会社が、いきなり超豪華列車のオペレーションをどうやってやるのか。

これがとても不思議なんです。

たぶん、どこかのホテルに職員を研修に行かせて、最高級のサービスを学ばせました的な解説なんでしょうけど、それでは本物ではありません。そして、その本物ではないものを、会社の看板として、超高額商品として販売するということが、商売のやり方としてはいかがなものか、と思うのであります。

 

ふつうに考えたら、特急列車の普通座席車で、お客様への対応や、お客様のニーズをきっちり把握するような訓練を数年間行って、そういう職員がグリーン車のサービスをまた数年間担当し、食堂車でのお料理の出し方や調理方法など、顧客サービスをしっかりと叩き込まれたベテランが、その経験をもとに超豪華列車での各種サービスを企画して、実際に乗務してお客様に接する。これが本物であり、航空会社のファーストクラスの担当乗務員も、一流ホテルのコンシェルジュも、そういう何年にも渡る下積みを経て、プロとしての最高級のサービスを提供するのです。

ところが、JRの列車には、車内販売も食堂車も寝台車も、すべて「儲からないからやめます。」「面倒くさいからやめます。」と廃止しておいて、超豪華列車で最高級のサービスを提供しますと宣言しているのですから、車両本体は確かにお金をかけているかもしれないけれど、航空会社や一流ホテルのサービスに比べたら、下積み部分がありませんから、「技術の粋を集めた商品」ではないと、私は見ています。

 

例えば、航空会社には内外を問わず当然のように接地されている上級顧客用のラウンジというサービスがありますが、鉄道会社にはグリーン車のお客様が列車に乗る前に一休みするようなラウンジや専用待合室がありません。そういう会社が超豪華列車のお客様のために、駅の構内を改造して専用待合室を作りましたといったところで、箱モノとしてはできたかもしれませんが、ではいったいどういうサービスをするのですか? という点では甚だお寒いというのが、実際のところではないでしょうか。

 

A寝台はベッドの幅が90センチ。B寝台はベッドの幅が60センチ。だから値段が3000円違います。などという設備基準の違いがサービスの違い、料金の違いだと考えて長年やってきた会社ですからねえ。

 

超豪華列車で最高級のサービスを提供するということは、一般庶民が乗るふつうの特急列車だって、ちゃんとしたサービスを提供するというのが、本物のサービスを提供する会社のやるべきことだと私は思いますがいかがでしょうか。

こういうのを張子の虎と言うのです。

 

 

はい、はっきり申し上げてやろと思ってもできない会社の社長の「負け惜しみ」でございますので、お気に召さない方はどうぞスルーしてくださいませ。