明海大学 不動産学部

昨日は浦安市の明海大学不動産学部で先生をさせていただきました。

 

不動産学部って珍しいでしょう。

それもそのはず。不動産学部というのは日本ではここ明海大学にしかない学部だそうです。

 

不動産というのは、私たちバブルを経験した世代だと、あまり良いイメージはありません。

一攫千金だとか、成金だとか、投資目的だとか、お金もうけの手段のようなイメージが強いですよね。

でも、不動産というのは、もう少し学問として勉強する必要があるのではないか。

私は昔からそう考えていました。

 

 

▲明海大学不動産学部の学生さんたち。昨日はありがとうございました。

 

経済の原則を考えた場合、不動産を所有するというのは、通常は2つの利益を目的とします。

1つは「インカムゲイン」、もう1つが「キャピタルゲイン」です。

 

「インカムゲイン」というのは読んで字の如し、インカム、つまり収入が入ってくることを目的とします。

例えば5億円でマンションを1棟購入して、各部屋を賃貸に出した場合、いくらの利益が得られるか。

今から借金をしてやる人は自転車操業になりますから危険性が伴いますが、お金のある人なら、銀行にお金を預けていてもほとんど利子が付きませんから、5億円で50部屋のマンションを1棟購入して1部屋10万円の家賃で貸すとしますね。

満室でオペレーションできればひと月の家賃は500万円。1年で6000万円のお金が入ってきますね。

5億円で年間6000万円ですから利回り12パーセント。

まあ、常に満室ということはありませんから、稼働率7割だとして1年で4200万円。

これでも8パーセント以上の利回りになりますから、銀行にお金を置いておくよりはずっと良いということになります。

こういう計算をして家賃としてお金が入ってくるのが「インカムゲイン」です。

 

これに対して「キャピタルゲイン」というのは、その不動産そのものの値上がりによる利益のこと。

例えば5億円で購入した1棟のマンションが、10年後に6億円で売却できればキャピタルゲインとして1億円を得ることができます。

毎月毎月家賃収入を得ながら、そのマンション自体が値上がりすればキャピタルゲインの両方を得られることができます。

別に売却しなくても、資産としての価値が上がることで、例えば会社が所有している物件が上がれば会社の含み資産も上がることになります。すると、その値上がりした資産を元に銀行は今まで以上にお金を貸してくれますから、もう1棟購入することもできる。そうしてその物件から家賃収入を得ながら、さらにその物件の資産価値が上がれば、会社の資産がまた上がる。こういうことを繰り返してきたのがいわゆるバブルという奴ですね。

では、なぜバブルが崩壊したのかというと、不動産の物件価格が値上がりしすぎてしまって、例えば50部屋のマンションが50億円ぐらいになってしまう。計算上1部屋当たり1億円になるわけですが、そのマンションを8パーセントの利回りで貸すとなると年間800万円になります。ということはひと月67万円の家賃になるわけですが、どう考えてもその部屋の家賃はせいぜい20万が良いところ。こうなると採算が取れなくなりますね。自己資金でやっていたうちは良いけれど、値上がりした含み資産を元に銀行からお金を借りて不動産を購入したりしていると、借りたお金が返せなくなりますから、つまり、破たんするわけです。このあいだスルガ銀行で問題になったのもこれです。

 

まあ、こういうことがいわゆる不動産の2つのゲインなわけです。

 

ところが、こういう不動産の2つのゲインというものは、家賃収入が入るとか物件価格そのものが値上がりするとか、基本的には都市部でしか起きないことなんですね。田舎は関係ないことなのです。

でも、私が考えてきたことは、そういうバブリーな不動産のお話ではなくて、土地そのものの価値をどうやってあげるかというお話で、例えばローカル線をうまく使って地域を全国区にすることができれば、その地域全体の土地の価値が上がるでしょう。そうすれば、家賃収入とか地価の上昇というような直接的なことではなくて、いわゆる人気の土地になる。そうなれば、おもしろいことがいろいろできるのではないか。

線路が見えるところにあるお寺であれば、そのお寺に自分はお願いしたいと思う人もいるかもしれないし、出雲大社だって、上手に宣伝すれば、つまりは地域の価値が全体的に上がることになるわけで、これからはそういう時代であると私は考えているのです。

例えば、田んぼオーナー。20万円で1反の田んぼのオーナーになって、地元の大規模農家に耕作をお願いする。通常1反(300坪)から6俵のお米がとれますが、5俵が耕作者の取り分で、1俵が田んぼオーナーに入る制度を作れば、毎年1俵、60㎏のお米が耕作者から送られてきます。おいしいコシヒカリだとすれば60㎏なら3万円になります。これだけで利回りとすれば15パーセントですね。これがインカムゲインですが、本当にそれだけでしょうか。

 

例えば春、田んぼに水が入る。そろそろ田植だ。

そうなると「家族で田植えに行ってみようか。」という気持ちになるでしょう。

初夏、稲が青々と大きくなってきた頃にも見に行きたくなるでしょう。

夏休み、稲刈りの季節には家族で稲刈り体験に来ることもできる。

収穫したお米を皆で味わうことで、わくわく感を得られることができるし、子育てや家族の思い出になる。

こういう、田んぼオーナーになることで通常では得難い体験ができるとすれば、インカムゲインでもキャピタルゲインでもない、もう一つの「ゲイン」があると私は考えています。

それが、田舎の価値なのではないでしょうか。

これが私の不動産論です。

 

では、なぜ私がこんなことを考えるようになったか。

その理由はこれです。

 

 

釧網本線茅沼駅。写真家の矢野直美さんと記念撮影。

 

 

この駅の土地を所有していることは以前からお話しさせていただいておりますが、冬はこんな感じで真っ白い世界になります。

 

 

そしてこの駅は丹頂鶴が来る駅なんです。

ホームや駅前を丹頂鶴が優雅に舞う。

その駅が私の駅なんです。

 

これはわくわくしますよ。

これからの季節は、「今頃、俺の駅に雪が降ってるかな。」なんて北の空を見ながら思うことができるんです。

 

言うなれば「エモーショナル・ゲイン」とでも言いましょうか。

 

田舎の土地には、そういう価値があるということを、私はいすみ鉄道の社長になるずっと以前から自分で経験していたのです。

 

 

田舎の駅で、こうやって駅弁を一生懸命売っているおじさんがいます。

1個800円の弁当が、1日10個か20個売れたとして、それで儲かるわけではありません。

でも、おじさんは小さな子供たちに喜んでもらいながら一生懸命駅弁を売っています。

 

毎週土日。

都会の人たちは、「ああ、今頃、あの駅でおじさんが駅弁売ってるだろうなあ。」

「べんと~、べんと~、って声が響いているんだろうなあ。」

そう思いを馳せることができる。

今ならSNSがあるから、リアルタイムでおじさんが駅弁を売っているのがわかる時代です。

 

「よし、明日行ってみようかな。」

 

そう思えば皆さんわくわくしますよね。

 

これが田舎の価値だと私は思います。

 

「そんなことやって何になるんだ。鉄道なんかどうせ赤字だろう。」

そう考えるならば、鉄道なんかやめちゃえば良いんです。

そして、赤字赤字って言うんなら、田舎は全部赤字ですから、田舎なんかいらないんです。

鉄道が地域のお荷物であるというならば、田舎は日本のお荷物ですから。

 

でも、私はそうじゃないと思います。

このおじさん、田舎の駅で駅弁を売っているから良いんです。

有楽町や東京駅でこんな被り物かぶってやってたら単なるバカですからね。

田舎って言うのは、都会人にとってあこがれの場所であって、わざわざこのおじさんに会いに東京から特急電車に乗ってやってくる人たちがたくさんいるのです。

それが、田舎の価値であり、田舎の土地全体の価値を上げてきたのがいすみ鉄道なんです。

 

なぜなら、いすみ鉄道は長年地域の皆様方の支援で成り立ってきたから。

だから、いすみ鉄道があることで、今、その田舎が注目され、観光客が来て、都会で特産品が売れて、そうやって土地の力が発揮されていく。

これが新しい不動産学なのであります。

 

よし、明日は国吉へ行こう。

 

そう思うと今夜はわくわくしますね。