ビジネスクラスとビジネスホテル その3

この間、いすみ鉄道のファンの若い男性と話していて、面白いなあと思ったこと。
それは、「ビジネスクラス」というとあこがれの乗ってみたい座席になりますが、「ビジネスホテル」というとただ泊まるだけのコストを抑えた安宿という意味になりますから、「ちょっとねえ」という感じになることで、同じ「ビジネス」という文字が頭についても、受けるイメージが全く違うんですね。
外国旅行に出かけるときに注意しなければならないのは、国や地域にもよりますが、安いホテルはそれなりのところがほとんどだということで、それなりというのは、シャワーのお湯が出ないとか、ベッドのスプリングが飛び出しているとか、そういう設備面はもちろんなんですが、そのホテルが建っている場所が治安が悪いところだったり、ホテル自体のセキュリティーが悪かったりと、安全をお金で買うようなところが、どちらかというと海外旅行では常識になっています。
だから、私は、海外でホテルを選ぶときは、安いところには何か安いわけがあるはずですから、安心できる程度のホテルとなると、やっぱり値段に比例すると思って、比較的高めのホテルを予約するようにしています。
インターネットの普及で、例えば、高級ホテルの部屋が、期日限定で安く予約できたりするのはとても便利だと思いますが、先日も高級の部類に入るホテルが安い値段で予約できたので「しめしめ」と思って行ってみたら、窓がない狭い部屋だったりしまして、安いということは何か理由があるもんだと思い知った次第です。
これが日本を一歩出た時の常識なんですが、日本の国はどうかというと、「安かろう悪かろう」の常識は急速に消えていきつつあり、同時に「高かろう良かろう」という常識も過去のものになりつつあるようです。
ホテルだってビジネスホテルとはいえ、チェーン展開しているようなところは、築年数が新しいところが多く、ベッドにも羽毛布団が使われていたり、朝食無料サービスなんていうのは当たり前で、おにぎりとみそ汁で始まった朝食無料サービスが、チェーン店ごとの差別化のために、いまではしっかりとしたフルコースの朝食が無料で出されるビジネスホテルもありますから、烏骨鶏の卵を目の前でシェフがオムレツにしてくれる10万円の朝食は論外として、2500円の朝食を出すホテルは、ジャンボジェットではありませんが、正規料金では部屋が埋まらなくなっている状況です。
私はというと、海外旅行では安全安心のために高めのホテルを選択しますが、国内旅行ではもっぱらビジネスホテル派で、1泊1万円以上のホテルに泊まることはめったにありません。
なぜならば、こういうビジネスホテルはチェーン展開していますから、部屋が快適であるのはもちろんですが、システムが全国一律で、どこへ行っても戸惑うことがないからです。
チェーン展開といえば、1970年代に日本にはファストフード、コンビニ、ファミレスなど、チェーン展開する飲食システムの展開が始まりました。
それまでの日本では、例えば食堂へ入って「かつ丼」を頼んでも、店ごとにどんなかつ丼が出てくるのかわかりませんでしたが、(それが旅の楽しみでもあったんですが)、チェーン展開のお店はシステム化されていますから、日本全国どこへ行っても同じ味を楽しめるようになりました。
「それじゃ、つまらないよ。」
とおっしゃる人もいるとは思いますが、旅に出て楽しみの食事ならともかく、毎回毎回ご飯を食べたり、物を買ったりするときに、「冒険」しなければならないのですから、今思えば結構しんどい話だったんです。
そういうチェーン展開化された全国均一のシステムというのは、1970年代に始まったということは、何を隠そうまさしく私たちの青春時代であって、ファストフード、コンビニ、ファミレスは、私たちが第一世代なんです。
「夜中に急にお稲荷さんが食べたくなって」
コンビニに行ってみると、
「開いててよかった。」
と思っていた便利さが、
「開いてて当然!」
と、当たり前になっていったのが私たちの青春時代で、
(上記フレーズは当時のコンビニのCMのコピーです。)
ところが、よく見ると、そのチェーン展開均一システムの第一世代はすでに50代半ばになっていて、あれほどおいしいと思っていた「ご一緒にいかがですか」のフライドポテトが、臭いをかいだだけで吐き気がする年頃になってしまったんです。
そういう自分を振り返ってみた時に、国際線のビジネスクラスってなんだろうか?とふと思う時があります。
ビジネスマンが出張に出かけるときに利用するのがビジネスクラスの最初のコンセプトだったんですが、50代も半ばの人間としてみたら、ビジネスで出張するなんてことはせいぜいあと数年の話で、そのあとは引退生活が待っているわけですから、いまさらビジネスクラスもないわけで、飛行機の中でふんぞり返っておいしいお酒を飲むのがすっかり身に沁みついてしまっている50代半ばの自分を再教育しなければならない時期に来ているということに気づくわけです。
私は航空会社出身ですから、航空会社の営業方針や座席の販売の仕方、航空券のばらまき方法を知っています。だからビジネスクラスを利用するといっても、エコノミークラスよりも安い切符で乗っていますし、時として、航空会社にお願いして切符そのものを融通してもらうこともあります。
このところ続いている台湾への出張旅行も、2回に1回は理由を付けて航空会社から切符を提供してもらっているわけですが、そんな時は、航空会社の方も考えていて、社長である私にはビジネスクラスを用意してくれますが、同行の課長はエコノミークラスの切符です。
私としてはビジネスクラスには乗りなれていますし、もうそろそろそういう生活から足を洗う時期に来ていると感じていますが、同行の課長としてはまだ30代ですから、ビジネスクラスなんて乗ったことがありません。
だから、これは良い機会だと思って、搭乗口で改札を通った後、飛行機に向かうブリッジの中で、「おい」と課長を呼び止めて、「お前さん、こっちへ座っていけ。」と搭乗券を差し替えて、課長にビジネスクラスの座席をあげて、私はエコノミーに座っていったりするわけです。
国内出張でも、それまでは1000円払ってゆったりした座席に座っていたのですが、最近では後ろの方の座席に座るのがふつうになってきています。
そうすることで、自分自身を再教育しているわけですが、災難なのは同行の課長の方で、いきなりビジネスクラスの搭乗券を渡されて、棚からぼたもち的にその快適さを一度味わってしまうと、それ以後はエコノミーなんて馬鹿馬鹿しくて乗ってられなくなりますから、自分のこれからの人生、どうしたらビジネスクラスに乗れる人間になれるかを考えるようになります。
私としてみたら、それも一つのモチベーションだと思いますから、40代以降の人生でどう飛躍するか、楽しみでもあるわけです。
車も3年前に軽自動車よりもさらに小さなチョロQに変えて、誰が見ても体に似合わない滑稽な姿ですが、それでも年間3万キロ走っていて、6台目のメルセデスはすっかり車庫でほこりをかぶった状態で、おとなしくしています。
もう、メルセデスの時代でもなければ、ビジネスクラスの時代でもない。
これが私の年齢になってみて気付くことなんですね。
さしずめ、「さよならメルセデス、さよならビジネスクラス」といったところでしょうか。
60歳になった頃には、私は次は何に気が付くのでしょうか。
そう考えると、今から楽しみな今日この頃なんです。
(おわり)