がんばれ成田空港! その2

羽田の国際化でたくさんの報道がされていますが、どの報道も私には少し偏って見えます。
空港のサービスを良くしてたくさんの飛行機に飛んできてもらい、たくさんのお客様に利用していただくことが、国益につながるという内容の報道ですが、そのサービスアップのために中心になっているのは国交省と航空会社、そして空港の運営会社である、というとらえ方をほとんどのマスコミがしていますが、少々的を得ていないのです。
国際空港ですから、一番大きな要素は何でしょうか?
同じ空港でも国内線用の空港と大きく異なるところ、それはCIQと呼ばれる国の機関の存在です。
C:Customs 税関
I:Immigration 入国管理局
Q:Quarantine 検疫所
この3つの国の機関が国際空港には配置されて大きな力を持っているのです。
成田空港の場合、国交省がイニシアチブをとっていろいろプランをしても、NAA(成田空港会社)がどんなに設備を改善しても、航空会社がいくらサービスを良くしても、お客様にアンケートを取ると「不合格」とされることが多々あります。
それは、出入国手続きに長蛇の列ができたり、税関の通関検査にやたら時間を要したりすることに起因します。
セキュリティー検査(ボディーチェック)でも時間がかかりますが、こういう時代ですからお客様はセキュリティー検査に関しては大変協力的ですが、国の機関が行う検査には日本人ばかりでなく、外人も閉口しているのです。
羽田の国際化の各種報道の中で、この点を指摘しているものは、私が見た限りではNHKだけでした。あとは皆、新しいお土産物屋さんが出来て、中国人が好む商品をたくさん取り揃えたなど、エンターテイメント的な要素を視聴者に見てもらうものが多かったのです。
税関は財務省。入国管理局は法務省。検疫所は農水省と厚労省とそれぞれ役所の管轄が違います。役所の縦割り行政の中で、それぞれの機関が、お客様や貨物の通る通路にたくさんの検問を設けて、まるで江戸時代の関所さながらに、できるだけ通さないようにとしか思えないような旧体然とした業務のやり方を平然と行っているのです。
税関、入管、検疫と、それぞれに役割があります。そして、その役割を忠実に実施しようと任務についているのですが、空港全体として、お客様の流れや利便性について、トータルにコーディネートするような存在が、成田をはじめとして、日本の国際空港にはありません。
世界からの人やモノの流れを、できるだけスムーズに通過させよう。それにより国益を図ろうという意識が、税関にも入管にもほとんど見られません。それどころか、外国との交流が増えると、日本に変なものを持ち込もうとする人間が増えるので、外国との交流はこれ以上多くなってほしくない、というスタンスすら感じるのです。
税関や入管は不正な人間を取り締まることが正義だと思っていますから、そもそもお客さんの利便性などを考えるという発想すらないのです。
自分たちは限られた人数で業務をこなしているのだから、おまえたちは黙って並べば良いのだ!
そういう、数十年も時代遅れの「官憲意識」が、成田空港に蔓延していて、それに対して、NAAも航空会社も表立って口答えできない業務上の 「不文律」 があるのです。
まるで闇の将軍のように。
では、実際に税関、入国管理局がどのように業務を行い、それがどれだけお客様の利便性のネックになっているか、私が実際に遭遇し、憤りを覚えた件を、いくつか例を挙げてお話ししましょう。
【税関とのトラブル】
麻薬や拳銃を持ち込もうとする人たちを捕まえるのが税関の主な仕事であると思っている人は多いでしょうね。
それだけが税関の仕事ならば結構なことなのですが、成田空港内のすべてのことを税関は仕切りたがります。
たとえば、職員が身に付けているランプパスという身分証。飛行機の近くへ行くなど制限区域に入るためのものは税関が管理、発行します。
私たちはこれを「税関パス」と呼んでいます。
出入りの際は見せるのはもちろんですが、提示が悪いと「おいコラ!」となるわけです。
今どき、お巡りさんでも「おいコラ」なんてありませんが、税関は成田空港で一番威張っています。
でも、その「おいコラ!」と声をかける税関職員は、自分たちの身分を証明するパス(認識票)を付けていません。彼らは許可を与える側であり、管理する側だということ、税関の制服を着ているからという理由で、身分証は不要というのです。
つまり、「ここは俺たちの縄張りだ。だからお前達が入るためには俺達が許可証を出す。だけど自分たちの縄張りだから、自分たちは許可証はいらないのだ。」 ということのようです。
そして、税関職員はセキュリティー検査場の金属探知器がピーピー反応しても知らん顔で通ってしまいます。
航空会社の担当責任者だった私は、あるとき、身分証明書を付けず、保安検査もすり抜けている税関職員が、私の会社の飛行機に立ち入ろうとしたので、「ちょっと待て!」と言って入ることを断ったことがあります。
そうしたら「税関は本邦に上陸する船舶、航空機を臨検する権利を有する。」と、こう来たので、
「それでは身分証明書を提示してください。」
「それから、あなた方は保安検査を受けていませんので、今から検査官を呼んであなた方の身体をチェックします。そしてクリアになれば私の会社の飛行機に立ち入っても良いです。」
と言って、金属探知器を持った係員を呼んで、ゲートで税関職員のボディーチェックをしようとしました。
そうしたら、税関職員は、「自分たちは航空会社を検査する側であって、航空会社から検査される側ではない!」と憤慨して戻って行ってしまいました。
私は40代半ばでしたが、向こうは2人ともどう見ても20代後半から30代前半。
社会人だったら、もう少し口のきき方があるだろう、と思えるような態度です。
こういう、人間としての基本的な教育も出来ていない職員が税関には多いのです。
すると次には私の不在時に到着したばかりの飛行機にやってきて、マネージャーがいないのを良いことに勝手に飛行機に入ろうとしたのです。
欧米の航空会社はテロや不審者にはとても厳しく対処します。乗務員も自分たちが管理する飛行機に、勝手に入り込もうとする人がいれば、それを排除します。
成田空港の認識票も付けていない人間がやってきて、中に入ろうとする。
当然、ドアのところで乗務員が「あなた達は誰ですか?」となるわけです。
乗務員は外人ですが、税関職員は満足に英語ができないのがほとんどだし、ポケットに入れている身分証明書も「財務省東京税関成田支署」なんて日本語で書かれているから、当然、機長をはじめ、乗務員全員からボイコットされるわけです。
そうすると「お前の会社はけしからん!」という怒りの電話が私のデスクにかかってくる。
私も負けてられないから「だからいつも言ってるだろう!」となるわけです。
こうなると当然、「ユニオンジャックの鳥塚というやつは要注意だ」と税関から目を付けられるようになって、何かにつけて「ちょっと来い」って呼ばれる。
ところがこちらはアメリカ、アジア、ヨーロッパの航空会社が、いつも成田で意見交換会という名目の飲み会で親睦をはかっているから、どの航空会社も同じ見解で意見統一している。
外国航空会社は「おかしいんじゃないの?」ということを素直に表現しますから、そのうち税関としても八方ふさがりになるわけです。
その中で、日ヘリさんと日の丸さんの2社だけは税関の言うことに一切逆らわずに長年やってきたのですが、日の丸さんもいよいよになってきて、「そういうやり方をいい加減に改善しましょう」となってきたところです。(私が退職した1年半前の時点で)
国際空港というのですから皆さんは365日当然無休だと思うでしょうが、税関という組織は本当に面白くて、平日の日勤時間帯しか業務をしないのです。
成田に到着したお客様が目の前にいるときは、休日でも夜間でも通常通り入国のための手荷物検査は行っていますが、それ以外では、夜間や休日に、例えば貨物や荷物の通関業務をお願いすると、「臨時開庁」と言って特別に通関をしてくださいというお願いを提出しなければならない。そしてそれには5000円以上の収入印紙を添付しなければならないのです。
例えば、金曜日の夕方6時に、成田に到着した荷物を、いそいでお客様に届けなければならないとします。
平日の5時までという彼らの業務時間帯はすでに終了しています。
次の通関は月曜日の朝まで待たなければなりません。
航空会社はコスト削減に努力しているとはいえ、スピードもビジネスですから、仕方なしに高い収入印紙を臨時開庁申請用紙に貼って持って行く。
すると、何が気に食わないのか、若い税関職員が偉そうな顔をして「収入印紙の張り方が悪い!」ってやり直しを命じるのです。
これ、航空会社の新入社員が必ず通る税関の嫌がらせ。
申請用紙の裏には「収入印紙はここにこのように貼れ」と書いてあるならともかく、全くの白紙のところに「縦に、金額の高い順から貼れ」というのですが、日本語ではこういうことを「いやがらせ」と言います。
収入印紙を縦並びにに貼らせる理由が、税関が使っている収入印紙を使用済みにする消印が「ローラー式」の物で、縦に貼ってあると消しやすいからというただそれだけ。
それを32年前の成田空港開港時からずっとやっているのです。
一度、申請書を突き返された若い女性職員が「あまりにも悔しい」と半泣きになって訴えてきたので、私が「よし!」って言って、わざわざ金額の細かい収入印紙を裏にいっぱい張り付けて、それも不揃いに張り付けて、その職員を連れて一緒に税関のパーサーカウンターに持って行った。
そしたら「ユニオンジャックの鳥塚はうるさい」というのを税関の上の方も知っているもんだから、生意気な若い税関職員が文句を言うのを制して、上官が黙って受け付けてくれたことがあって、その時は半泣きの職員がニコニコ顔になって「鳥塚さん、私、すっきりしました。」と感謝されました。
そしたらボンジュール航空もグラッツェ航空も北西航空もみんなやり始めて、結局その件では税関は何も言わなくなってしまいました。
こっちも大人げないけど、そうでもしなければ風穴は開かないし、自分たちが長年の慣習として権限を持って行っていることが、世の中から見れば「おかしい」ということを気付かせることができないのです。
航空会社も運送会社も1分1秒を争って外国からの貨物を取り扱っているのに、朝成田に着いた貨物が税関を通るのが早くて夕方。下手すれば翌日ですから、これでは航空貨物が商品としての競争力を失います。
自分たちの検査方法をかたくなに守り、職員が足りない内輪の事情を前面に出して、「だから通関を待て!」というような威張った態度が、国益にどれだけ反しているか、財務省の業務慣習ですから、国交省がいくら頑張っても改善されません。
税関としては輸入禁制品が入っていたらどうなるのか、という建前があるのでしょうが、そんなこと言ったら海外との貿易などできないわけです。
国の機関はサービス業ですが、彼らにはその自覚がほとんどなく、自分たちは不正の取り締まりのために存在していると思っています。今どき、警察官だってニコニコしているのに、税関は接客姿勢が犯人捜しなのです。
だから、たとえば、到着から通関まで2時間以上かかったらペナルティーを科すといった制度を導入して、パフォーマンス(処理能力)を上げることを強制的にやって、朝着いた生鮮食品が昼には東京のスーパーに並ぶなど、空港の業務処理能力で勝負できるようにすれば、成田空港は立派に存在感を主張できると思うのですが、それには国交省と航空会社だけの努力では成り立たないのです。
次回は入管とのトラブルについてお話しします。