現代航空旅行用心集 その4

私の前職は航空会社の管理職。
在職中の経験を活かして、皆様方に少しでも快適な空の旅をお楽しみいただきたく、このコーナーを設けました。
お時間のある方はぜひご一読下さい。
ということで本日は第4回目。
このところ飛行機に乗れる、乗せてもらえない、なんて話が続きましたので、今日は少し景気の良い話、
アップグレードについて解説させていただきます。
アップグレード、つまりは上級座席への変更のことですが、これには2種類の考え方があります。
1:VOL  UG
 
VOLとはVOLUNTARYのこと。UGはアップグレード。
つまり自分の意思でアップグレードを申し出ることで、その際には航空券の差額が要求されます。
2:INVOL UG
INVOLとはINVOLUNTARYのこと。
つまり、自分の意思ではないのにアップグレードされることで、この場合、航空券の差額は要求されないのが普通です。
皆様にとってとてもラッキーなのがこのINVOL UG。我々は「インボラ」と呼んでいます。
【INVOL UG 発生の理由】
それは端的に申し上げてオーバーブックです。エコノミークラスがオーバーブックしていて座席が足りない場合に、誰かそれにふさわしい人をアップグレードしてビジネスクラスでお飛びいただくわけです。
ビジネスクラスからファーストへの「インボラ」もあります。
では、どういう人がこの「インボラ」の対象となるのかをお話いたします。
皆様も運がよければビジネスに座れるかもしれませんので、よーく読んでくださいね。
例えばエコノミークラスが30席オーバーブックしていると仮定しましょう。
ゴールデンウィークなど観光旅行のピークではよくある話です。
また、そういう時はビジネスの需要が少ないため、ビジネスクラスにはたっぷり空きがあります。
オーバーブックは予約があっても実際に空港にいらっしゃらないお客様の数も含んでいますから、30席オーバーしていても、アップグレードで対応するのはだいたい20人。
あとの10人は空港に来ない人と見込んで作業を進めます。
余談ですが、予約があるのに空港に来ない人を私たちは「NO SHOW(ノーショー)」と呼びます。
さて、本日の便で20人をビジネスにしなければならないとしましょう。
フライトのコントローラーがチェックインが始まる前にまずチェックするのは営業からのリクエスト。
営業上特定契約を結んでいる企業の関係者などがいれば、そういうお客様をUGの対象としてノミネートしていきます。
こういう関係者は1便あたりいてもせいぜい2~3人です。
次にカードの所有者。つまりその航空会社のメンバーの方です。後日別の機会で述べますが、航空会社のメンバーカードにもたくさんの種類がありますが、マイルだけをためる目的のカードはこの場合ほとんど対象になりません。対象になるのはどういうカードかというと、
上級メンバーカード。会社によって呼び名はいろいろ変わりますが、ダイヤモンド、プラチナ、ゴールド、エメラルドなど。何10回も高い運賃で飛んで始めて手に入るカードです。
アップグレードはこのような最上級のカードメンバーからノミネートされていくのが通例です。
ところが、実際問題として、こう言った最上級または上級カードをお持ちのメンバーの方は、たいていは既にビジネスやファーストに予約をお持ちの方がほとんどなので(いつもエコノミーで飛んでいる人はなかなか最上級カードに上がれない仕組みがあります)、エコノミークラスには、いても1便に数名程度。
そうすると20人中少なくても15人は一般のお客様の中から選ぶことになります。
ここで皆様にも十分にチャンスが回ってくるということになります。
では、選ばれるにはどうしたらよいかをご説明いたします。
1:事前座席指定を持っていること。
事前座席指定でお席が入っているということは、エコノミークラスでも比較的高い航空券をご購入されていらっしゃるということです。このような方がまずノミネートされます。
但し、次の基準を同時に満たしていなければなりません。
2:身なりがきちんとしていること。
上着にネクタイは必須です。ネクタイは無くても襟付きのシャツを着ていればOK。
丸首にジーンズは対象外となります。運動靴やサンダル、半ズボンもダメ。
そして旅なれた雰囲気がある方でしょうか。機内に入って、見るからにアップグレードと判るような場違いな方は選ばれません。
以前にアップグレードと知ったとたん、カウンターで「やったー! ラッキー!」と大声で万歳したため、すぐにエコノミーに逆戻りしたお客様がいらっしゃいました。
人は見かけで判断してはいけませんが、やはり外見は大事です。とくに外国旅行では。
3:子供連れでないこと。
子供連れはアップグレードの対象となりません。赤ちゃんでもダメですね。
いくらおとなしい子供でも、社内規定で12歳以下はダメと決まっている会社もありますので、無理ですね。
4:特別機内食(スペシャルミール)を頼んでいないこと。
意外に重要なのがこれ。旅慣れた方の中にはスペシャルミールを頼まれていらっしゃる方が多くいらっしゃいます。スペシャルミール(特別機内食)の解説は別の機会でいたしますが、
例えば糖尿病食や菜食主義者(ベジタリアン)などです。
こういう特別食は前日からすでに準備されているのが普通です。
アップグレードをするためには上級のクラスで再度準備しなければならないため、チェックインの時点では間に合わないのが普通です。また、予約されたクラスで用意した特別食が無駄になってしまいます。
従いまして、特別機内食を頼んでいたらアップグレードの対象からはずれてしまいます。
食事はエコノミーで座席だけビジネスということは機内サービス上、受け付けることはありません。
5:ナイスな人。
これも意外ですが、重要なファクターです。
チェックインカウンターで勤務しているのはたいてい若い女性です。
好印象をもたれれば、カードが無くても旅慣れて無くてもチャンスはあります。
フライトのコントローラーによっては、いろいろなコントロールの仕方がありますが、
「好みの人をインボラUGしていいよ」なんて指示を出す場合も多々あります。
とくにリゾート系のフライトではスーツにネクタイの人も探せそうにありませんから、こういう指示になります。
ジーンズをはいてきて「すみませんが普通のスラックスお持ちでありませんか?」なんて聞かれたらチャンスです。
履き替えてでもUGされたほうが得ですから。
逆にダメな人の典型的な例ですが、自分からアップグレードを聞いてくる人。
それも最初から露骨にインボラ(タダ)狙いの人はだめですね。
差額を払うという意思があれば、チャンスは回ってくるかもしれませんが、
カウンターの女性に好印象を持たれることが大前提になります。
【こんな方法が】
覚えておいて損は無いのが差額を払う方法。
一般的に格安航空券ではビジネスとの差額の計算ができない種類の航空券が多く、
「差額」イコール「買いなおし」となるのが実情ですが、航空会社によっては、当日、空港で、空席がある場合に限って特別格安料金で上のクラスに変更できる制度を持っているところがあります。
これは、航空機の座席という商品は、ドアを閉めて出発した瞬間に、商品価値を失うという決定的な特徴(供給の保存ができないということ)があるため、空いているならば、少しでも売り上げを伸ばそうという考え方。
正規料金でビジネスなどを御購入いただいている方の手前、あまり大っぴらにできませんが、さりげなくささやくと、「では5万円で」なんてことになる可能性があります。
その5万円が高いか安いかはその人の価値感によりますが、
一例として東京からヨーロッパへ、ビジネスだったら安い切符でも40万~50万円。それに比較して格安エコノミーでしたら5万円ぐらいからありますから、プラス5万で片道ビジネスになるとしたら、結構お買い得といえると思います。
混雑時など、チェックインカウンターで窓側、通路側など自分が希望する座席が取れない場合に一度お尋ねになってみたらいかがでしょうか?
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それでは皆様、搭乗手続きカウンターでのご幸運をお祈り申し上げます。