がんばれ成田空港! その3

成田空港の利便性を高めるためには、国交省や成田空港会社(NAA)、そして就航している航空会社が、どんなに努力してもダメ。
国の機関である税関(財務省管轄)、入管(法務省管轄)、検疫所(厚労省、農水省管轄)がバラバラに関所を設けて、お客様や貨物などのスムーズな流れを阻害していることを改善しなければならないことは、空港に勤務する者ならだれでも持っている共通認識ですが、今日は、入管の仕事のやり方や、航空会社との間で発生するトラブルについてお話しいたします。
【入国管理事務所とのトラブル】
入管は法務省の管轄で、日本への人の出入りを管理しています。
出発時や帰国時にパスポートにスタンプを押すところといえばお分かりいただけると思います。
この入管が出発、到着とも成田のネックになっています。
まず、法務省の内部で、出入国管理についてどのくらい重きを置いているのかわかりませんが、「ようこそJAPAN」と国がスローガンを掲げて、外国からのお客様をたくさん迎え入れようとしているのにもかかわらず、それに見合う人数の職員が配置されていない。そして旅客数の増加に対応する十分な数の増員がないことが、長蛇の列ができる一番の原因です。
例えば、第1ターミナルには南ウイングと北ウイングがあって、それぞれに出発と到着があります。
そして、到着には「日本人用」と「外国人用」があります。
南ウイング出発、南ウイング到着日本人用、南ウイング到着外国人用
北ウイング出発、北ウイング到着日本人用、北ウイング到着外国人用
つまり、第1ターミナルだけでも早朝から深夜まで6か所に人員を配置しなければなりません。
ところが、十分な人数がいないから、出国のピークには出国手続きに長蛇の列ができる。
帰国のピークには入国手続きに長蛇の列ができるわけです。
年末年始やゴールデンウィークには、1か月以上前に、航空会社は予約状況を提出し、それに基づいて、「出国のピークは12月29日」、「帰国のピークは1月4日」などという報道がされていますが、あらかじめ需要予測を出しているにもかかわらず、それに見合った職員配置をせずに、ピーク時も、いつもと同じ人数で対応するから、長蛇の列に拍車がかかります。
こんな感じですから、業務をしている入管の職員にも精神的余裕がなくなります。
ただでさえ、一般社会人としてはどうかなあ、と首をかしげる職員が多くいるのですが、その職員が、眼の前の長蛇の列を見て、「なんでこんなに客が多いのか」と迷惑そうに航空会社に文句を言うのです。
だから、お客様にもパスポートを「フン」と投げてよこす。
私たちは日本人だからまだ良いけれど、外国人にしてみたら、日本は何てところだ!って思っちゃいますよね。
【到着(入国)でのトラブル】
とにかくかわいそうなのは長蛇の列に並ぶ外国人。中でも特に開発国の人たち。
そういう国から来る人たちの中には不法就労目的の人が多くいるのは事実ですが、入管職員は彼らを見ると最初から疑ってかかる。偏見の塊です。
彼らの態度を見ていると、こういう職業をやっていると、こんな人間になってしまいます。という人間の品評会をみることができます。
つい最近までは、「全員平等」の考えから、赤ちゃんを連れた人も、杖をついたお年寄りも、皆同じ列に並ばせて、何十分も平気で待たせる。
審査ブースを通過できないので、車いすだけは横を通ることを許されていましたので、航空会社の職員も、ちょっとでも具合が悪い人や、歩くのが不自由なお年寄りがいると、とりあえず車いすに乗せて入管を通過させて、手荷物を引き渡したら、お客様はさっさと自分で歩いて「さようなら」なんてことをやってました。
(今は少し改善されています。)
空港のお客様の流れを良くしようと、航空会社では協力して、帰国のピーク時に入国検査に人を張り付けて、最大何分かかるか、平均は何分で通過できるかを完全密着調査して、航空会社の連名で改善方法を入管に提出することを何度もやっていましたが、そのたびに所長とか副所長が「善処します」との返事。
ターミナルビルの拡張が続き、お客様が増えてますます行列が長くなってきたのに「善処します」と言ったきりで何もしないから、会議の席上で私が「あなたたちの代わりに航空会社の職員がパスポートのスタンプを押しますよ。」って提案したことがあります。
傍で見ているとアルバイトでもできそうな仕事ですし、簡単そうでしょう。
そもそも、本当に国家公務員がやらなければならない仕事なのかどうかも疑わしい。
国によっては、出ていく時にパスポートにスタンプを押さないところも増えてきていますから、そういう例をあげて、出国手続きならば、航空会社でできますよ、と言ったのです。
そしたら、「善処します」の副所長の顔色が変わり、「お客様のパスポートは法務省の職員でなければ取り扱ってはいけないことになっています。」って真顔になった。
だったらチャントやれよ!って、血の気が多い南国系の航空会社のマネージャーがブチ切れて、日ペリと日の丸以外の全部の外国航空会社がそれに同調したものだから、会議が収拾つかなくなって、どうしたものかと思っていたら、ちょうど年度の変わり目だったこともあってか、次の会議のときには新しい副所長が配属されてきました。
その新任のFさんという副所長はすごい人で、「お客様の利便性を最優先に!」って、どんどん改革を進めて、私たち航空会社もその副所長に一目置くようになって、初めて成田が少しだけ良い方向に向かい始めました。これが4年ほど前のこと。(その方は私が空港を辞める直前に転勤で成田を去っていかれましたので、その後、どうなっているか・・・)
とにかく、飛行機が到着しても、手荷物回転テーブルの所まで外国人のお客様が降りてこない。
外国人がファーストやビジネスクラスに多い傾向がここ数年続いていますが、優先的に回転テーブルに流しているファーストやビジネスの荷物が、いつまでも引き取られずにグルグル回っていて、あとから出すエコノミーのお客様の荷物がつっかえて出てこない。
税関検査場内は、外国人の荷物と日本人の到着旅客であふれかえることになります。
人も荷物もはけないため、税関の監視官も「どうしたんだろう?」と階段を上がって入管を見に行くけど、そもそも入管と税関で業務交流がありませんから、お互いに知らん顔で、お客様のフラストレーションがどんどん高まるのです。
【出発時のトラブル】
出国審査で多いのが外人のトラブル。
俗にいう「オーバーステイ」(超過滞在)というやつです。
ビザなしで日本を訪れることができる外国人には、3ヶ月間の滞在が許されます。
ビジネス客は数日で帰りますが、バックパッカーなどは3か月みっちり滞在します。
ところが、パスポートに押された滞在許可期間を良く見ると 「90days」 
ここが落とし穴で、本人が3か月だと思っていても、実際に滞在できるのは90日間なのです。
もうお分かりになりますよね。
7月8月など、大の月が2カ月続く時などは要注意。
6月20日に入国した旅行者が、3か月だと思って9月19日に帰国しようとすると、滞在許可された90日を数日間過ぎているわけです。
帰ろうという意志があるのだから1~2日のオーバーステイなどどうでもよいと思いますが、入管にとってみれば一大事。「入国管理法違反」となるようですからたいへんです。
ところが、ただでさえ忙しいところに持ってきて、仕事が増えるわけですから、担当者にとってみれば、余計な仕事。
お客様に対しても航空会社に対しても、終始迷惑げな態度。
普通の社会人なら、「自分の仕事」ですから、そういう内側の事情を相手に言うことなど常識では考えられませんが、入管の職員は「こまるなあ、こういうのは」とこういうお客様を手続きした航空会社に文句や嫌みを言うのです。
航空会社の若い職員は、理不尽だと思っても、黙って「申し訳ございません。」と頭を下げなければいけない雰囲気というか不文律があります。
こういうオーバーステイをする外人は、たいてい見送りにきた日本人のガールフレンドと別れを惜しんで最後までチュッチュッしているのがほとんどだから、飛行機の搭乗案内が最終案内になって、あと残り数名という頃になってようやく出国審査場に来るのです。
航空会社は定刻に飛行機を出さなければなりませんから、「時間がないから早くしてください」と入管職員のおじさんに言うと、ただでさえ面倒な仕事なのに、若い女性の航空会社職員から言われたことが気に障り、「飛行機が遅れるのは俺には関係ない!」って激怒。
そして次の問題が、オーバーステイの申請に4000円の収入印紙が必要なこと。
日本円を使い果たした外人客が入管事務所でクレジットカードを出そうものなら、激怒の火にさらに油を注ぎます。
(面白いのは税関同様に入管の職員も、英語ができる人が少ないこと。自分の能力が不足しているにもかかわらず、航空会社の職員が通訳をするのが当たり前だと思っているのです。)
私は、自衛手段でいつもポケットの中に4000円の収入印紙を入れて歩いていましたから、「これでやってあげて」と出して、お客様だけさっさとゲートに行かせて、飛行機を出してから、あとで入管事務所に一応謝罪とお礼に行く。
制服じゃなくてスーツを着たマネージャーが謝りに行くのだから、それでシャンシャン!となればいいけれど、中にはバカがいて、こちらに喰ってかかってくるから、大人げないと思いつつも「おい、おまえさん。いったい何を考えているんだ!」とこちらも最後には大きな声になる。
すると奥から上司が出てきて私の顔を見て「あっ! ユニオンジャックの鳥塚だ」ってわかると、若い職員に向かって、「お前もう止めとけ!」となって、これで本当にシャンシャン。
税関の時と同様に、若い女性職員が「あー、スッとした。」と仇を打ってもらってニコニコ。
通りすがりに他の航空会社の職員がトラブルに巻き込まれていじめられていると、相手が入管だと「どうしたの?」って首を突っ込んで解決してあげることが多かった。
だから税関同様、入管職員には煙たがられたけれど、私は航空会社の女性職員からは人気が高かったのです。
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何が言いたいかというと、成田国際空港では税関、入管ともに空港内の業務やお客様の流れの妨げになっているということ。
さらに本人たちは、業務の妨げになってでも、流れを止めてでも、不正を暴くことが自分たちの使命だと思っている。
不正を暴くのは使命だけど、スムーズにお客様にご利用いただくことや、物流に貢献することも使命なのです。
でも、貨物が遅れるとか、飛行機が遅れるとかいうことに対する認識がありませんし、そもそも国の機関の業務がサービス業であるという意識はまるでないから、目も当てられないのです。
もう一度言います。
日本では国交省、航空会社、空港管理者がいくら頑張っても国際空港は良くなりません。
縦割り行政の横の円滑化はもちろんですが、税関、入管の意識改革、職員の社会人教育が改められなければ、成田空港が本当に使いやすい空港になることはできないのです。
あー、今日も熱くなってしまった。
(検疫所につきましては、スムーズな流れの妨げになるほどではありませんので、今回は取り上げることをやめました。)
成田空港、頑張ってください!
税関、入管を改革するだけで、数段に便利で使いやすい空港になりますから。
長い文章を最後までお読み頂きましてありがとうございました。
ということで、おじさんは明日もお仕事頑張ります!