必要なものを売る商売

北海道に来ています。

飛行機の中で機内誌を見ていたら、最新型の飛行機が導入されて東京-ニューヨーク線を飛び始めたという話が出ていました。

私は「たいへんだなあ。」と思いました。

何がたいへんかというと、常に新しく設備投資をしていかなければならないからです。

東京-ニューヨーク。
日本航空にとっても全日空にとっても最重要路線です。
アメリカの航空会社にとってももちろん最重要路線でしょう。

そういう路線は各社がしのぎを削っています。

飛行機の値段って、買い方とか、中の装備品とか、あるいは為替レートなどによって大きく変化しますが、1機300億とか400億とかするでしょうね。
もちろん航空会社が自腹で買う例は少なくて、商社が間に入ってリース契約を結ぶんですけど、それにしても時代の波が早く進んでいますから、せいぜい15年か20年契約。いや、それ以下かもしれません。
ということは、それだけの大きな買い物をしても、基本的には使い捨てになりますから、一生懸命稼いでリース料を払っていかなければなりません。
だからたいへんなのです。

大昔、と言っても50年ぐらい前のことですが、まだB747ジャンボジェットが東京から西海岸までしか飛べない時代がありました。エンジンの燃費が悪くて、航続距離が短かったんです。

その時代、じゃあどうしたらニューヨークまで直行で飛べるかと考えて、ボーイング社は同じB747ジャンボジェットの胴体を短くして、つまり、搭載する人数と貨物の量を減らせば軽くなりますからその分遠くへ飛べるということで、ちょっと寸詰まりのSPというジャンボを作りました。
キャパが小さくなった分、余分に燃料を積めればその分遠くへ飛べる。
つまり、ジャンボSPは東京-ニューヨークのノンストップ直行便のために作られたのです。

そして、当時のアメリカ最大の航空会社「パンアメリカン航空(パンナム)」がこのジャンボSPを導入して東京-ニューヨーク線に就航させたのです。

でも、当時の日本航空はこのジャンボSPを購入することができませんでした。
理由はいろいろあったと思いますが、日本航空が購入したのはダグラス社のDC10という飛行機でした。
そして、その飛行機を東京-ニューヨーク線に導入しました。
もちろん、ニューヨークまでノンストップで飛ぶことはできません。
途中、アラスカのアンカレッジで着陸して、一旦給油してニューヨークに向かいます。

それまで、パンナムもワンストップでニューヨークへ行ってましたので、どちらも所要時間は同じだったのですが、パンナムがジャンボSPを使ったことで所要時間に3~4時間の差ができました。
結果はもちろんパンナムの勝ち。
ドル箱路線だった東京-ニューヨークでしたが、日本航空はガラガラになりました。

1970年代の話ですから、まだ今のように外国旅行が自由にできる時代ではありませんでしたので、観光客も少なかった時代です。
東京-ニューヨーク線に乗るような人は皆さんビジネスマンです。
「タイムイズマネー」ですからね。

世界一の高需要路線であるロンドン-ニューヨーク間にコンコルドが飛び始めたのもこのころで、少しでも早く目的地に到着することが世の中の求めだったのです。

コンコルドには私も1度だけ乗ったことがありますが、料金はファーストクラスよりも高くて、座席はエコノミークラスよりも狭い。
それでも皆さん乗るんですから、ビジネスマンというのはそういうものなのです。

そういう路線に時間では対抗できませんから、日本航空はキャビンクルーに晴着を着せてお寿司のサービスなどを一生懸命やったんですけど、太刀打ちできませんよね。

だから、今回、日本航空が東京-ニューヨーク線に最新鋭の旅客機を導入する記事を読んで、私は「たいへんだなあ。」と思うのです。

東京-ニューヨーク線は必要な路線です。
世界中の政治経済から求められている路線です。

つまり、どういうことかというと、レッドオーシャンなんです。
赤い海、つまり血の海です。
血で血を洗う戦いの海。そのレッドオーシャンに漕ぎ出していくのが「必要なものを売る商売」なのです。

航空路線ばかりじゃありません。
食料品などの日用品も毎日必要なものです。
そういう品物を売るスーパーマーケットのような商売も大変です。

仕入れ価格を下げて、在庫をコントロールして、少しでもお安い商品を消費者の皆様方にお届けする。
これがスーパーマーケットという商売です。
でも、他の店でちょっとでも安く売られてしまうと、お客様は皆そっちへ行ってしまいます。

世の中、必要なものを売る商売というのはどこも皆、レッドオーシャンなんです。

これに対してブルーオーシャンという言葉があります。

穏やかで広々とした真っ青な海。
つまり、競争相手がいない商売です。

なぜ、競争相手がいないかと言えば、それは必要なものではないからです。

「必要なものを売る商売」に対して、「要らないものを売る商売」、これがブルーオーシャンです。

では、要らないものって何でしょうか?

商品には大きく分けて2種類あります。
日用品と買回り品です。

日用品は毎日使うもの、つまり必要なものです。だから身近なところで買う。
これに対して買回り品というのは、わざわざそれを買うために出かけていくものです。

皆さんがわざわざ出かけて行って買うものって、どういうものがありますか?

趣味のものだったり、あるいは何年かに一度しか買わないようなものでしょう。

そういうものというのは、買おうか買うまいかという購買動機としては、あまり金額に左右されませんからブルーオーシャンだと私は考えます。

鉄道もそうですね。
首都圏や中京圏、あるいは関西圏など、JRと私鉄が競合しているところでは1分1秒を争うような熾烈な戦いが繰り広げられていますし、あるいは特定運賃などといって、競争相手より安い運賃を出してくる。
スーパーマーケットと同じですね。

でも、観光列車とか昨日話した夜行列車とか、どうですか?
あと1000円安かったら乗るんだけどなあ・・・
そんな人はいません。
なぜなら「乗りたくなるような商品」だからです。

でも、観光列車とか、夜行列車とか、必要ですか?と聞かれたら、とりあえずなくても毎日の生活には困りませんよね。

こういう商品がブルーオーシャンなのです。

ローカル鉄道も田舎の町も同じですが、リソースが限られています。
そういう会社や地域はレッドオーシャンの世界で勝負しても勝つことはできません。
ブルーオーシャンでどう展開していくかが戦略として必要なのです。

例えば、団体旅行でバスが20台やってきます。
「500円のお弁当を1000個お願いします。」と言われたとして、田舎の町でできますか?
できるかもしれませんが、疲弊するだけです。
だったら、バス1台のお客様にいらしていただいて、その方々に1万円のお食事をしていただくのはどうですか?

500円で都会から来る観光客の皆様が納得できるようなお弁当を作るのは難しいかもしれません。
でも、1万円いただければ最高のお料理が出せるでしょう。

これが田舎の町が取るべき観光戦略なんですよね。

1000人のお客様がワッと来るのがイベント観光で、30名のお客様がちらちらと毎日のように少しずつやってくるのが通年観光なんです。

今、上越市の中川市長さんが、本来上越市が展開するべきなのは通年観光であると言ってるのはこういうことなのですが、地元で市民の代表として活躍していらっしゃる皆様のうち、いったいどれだけの方々がこういうことを理解しているのか、そう考えたとき私は不安に思いますし、そういうリーダーがいる地域は、どうなんでしょうねえ、と思うのであります。

ということで、雪月花も観光急行も、1日に1000人にいらしていただこうなんてことはハナから考えていません。
地域の良さのわかるほんの一握りの方々が、毎日少しずついらしていただくという通年観光を何年も前から実施しているのがえちごトキめき鉄道のブルーオーシャン戦略なのであります。

と、日本航空の機内誌に「気づき」をいただいた本日でございます。

皆様、明日からの3連休、ごゆっくりと、そして楽しくお過ごしください。