四角い座敷を丸く掃く

千葉から上越に戻りました。

こちらの空気は良いですね。
帰ってきたぞという気になります。

東京駅からいつものように北陸新幹線「はくたか」に乗車しました。

「はくたか」が東京駅に入るのが発車の12分前です。
もちろん金沢からのお客様を多く乗せてきます。
列車が停車するのが11分前。

ここからが時間との勝負です。

前にも書きましたが、東京駅の新幹線ホームでの折り返し時間は到着から発車まで11分。
12分前にホームに列車が入ってきて、止まるまでに1分かかりますから正味11分です。

内訳はお客様が降りるのに2分。
清掃に7分。
ドアが開いてお客様が乗り込んでドアが閉まるまでに2分。

清掃時間は7分なんです。

「神田方、降車終了。ドアを閉めてください。」
でもって、清掃チームの人たちが車内に乗り込んで清掃完了まで7分ですから、本当に時間との戦いです。

で、わたし的にはホームから窓越しに清掃風景を見るのが楽しいのです。

7分でどうやって清掃するのかな? というところが。

タオルを持った係の人が窓枠、テーブルと拭いていくんですよ。
まるで神業のように。
サッ、サッ、サッと手際よく。

いつだったかテレビにも紹介されましたけど、それだけ絶賛に値する・・・

ということなのですが、ホームから見ているとどう考えても拭いているのではなくて、あれは正しい日本語で表現するとすれば「撫でている」ようにしか見えないのです。

窓枠をペロン。
テーブルをペロン。

どう見ても拭いているという行為ではない。

テーブルをさっと出して、ペロン。

テーブルって四角いんですけど、ペロンと一拭き円を描いて約1秒で終了。

私が古い人間なのかもしれないですけど、昭和の人間的には掃除してるとは言えない光景ですね。
子供の頃、あんな掃除の仕方をしたら大人から怒られましたよ。

というような拭き方。

まるで居候の掃除ですね。

「居候、四角い座敷を丸く掃き」

あれがテレビで絶賛されるんですから、世の中変わったもんです。

いずれにしても入線から発車まで12分でこなしているわけです。

発車して3分後には同じホームに次の列車が入ってくる。

ということは1ホーム当たりの発着数は1時間に4本。
ホームが4本ありますから、1時間当たりの列車本数は16本。
これが最大ですね。

絶賛されるとすれば、長距離列車をこの頻度で折り返し運転をしているということでしょうか。

通常、長距離列車というのは車内が汚れます。
長時間乗ってくるのですからごみがたくさん出る。
そのごみが、今の時代は車内に残されていないんです。

皆さんごみは全部持って、車端部のごみ箱に入れるか出口で待っている清掃係の人のビニール袋の中にポンと入れて降りていく。

これまた昭和の人間としては信じられない光景ですよ。
なぜなら、昭和の時代は弁当の食べがらや空き缶などは皆さん基本的に座席の下に押し込む。
これが正しいごみの捨て方でしたから。

「次のお客様のためにリクライニングは元に戻し、ごみはすべて捨てましょう。」なんてことはあり得ませんでした。
4人掛けボックスシートの客車だと車内にごみ箱などありませんでしたから、皆さん基本的に座席の下に押し込む。
読みかけの新聞や雑誌などは網棚の上に放置。

私が食堂車でアルバイトをしていた昭和51年当時、上野駅に到着して車内を回ると、座席や網棚の上に週刊誌が放置してある。
それを掃除のオジサンたち、たぶん国鉄職員のOBなんでしょうけど、掃除に入ったオジサンたちが、きれいなものばかりを集めていて、どうするのかと思っていたら上野駅の改札口を出たガードの下で半額で売ってるんですよ。

駅の売店で買った雑誌はたいてい新刊雑誌ですから、昨日今日発売されたもの。
列車の中で読み終わってそのまま車内に捨てていく。
そういうものを組織的に拾い集めて、横流ししていたんでしょうかね。
国鉄の敷地外で、路上で売っていたんです。

つまり、終着駅に到着した列車の中は、ある意味で宝の山だったのです。

その時代から見ると、皆さん車内を汚さなくなりました。
日本人は確実に進化していますね。
だから、折り返し7分間で車内の清掃ができるのです。

もし、絶賛されるとしたら、その部分ではないかと、今日も東京駅のホームでの作業風景を見ていて思いました。

毎日毎日時間との戦いで、きびきびと掃除をしていただいているスタッフの皆様方の、研鑽と努力があるからこそ、新幹線の過密ダイヤが守られているのであります。

四角いテーブルを丸く拭くと申し上げましたが、そもそも、今のお客様は車内もテーブルも汚しませんから、丸く拭こうが撫でようが、新しく乗車するお客様は快適に車内で過ごすことができる。

日本ならではの光景ですね。

皆様、毎日のお仕事ご苦労様でございます。

飯山トンネルを抜けたら積乱雲に囲まれた山々が見えました。
まもなく雷がやってきました。
そろそろ上越は冬支度の季節です。