東京は「えんがちょ」か。

東京に来ています。

明日、羽田から朝の便に乗るためには、新潟の人間は東京に前泊しなければなりません。
今まではこんなことは考えもしませんでした。
早起きすれば始発便にだって乗れましたから。
でも、新潟という所は東京をハブとした国内航空網からは完全に置いて行かれている地域で、まして私がいるところは新潟空港まで2時間以上かかる場所です。
新潟県はただでさえ航空網的にはへき地ですが、その新潟のさらに航空へき地のところに居ますから、最初から飛行機という選択肢がないわけでして、とりあえず夕方の新幹線に乗って、東京で前泊して、朝の便に乗るのです。

ところが、今、こんな時期でしょう。
なんとなく気後れすると言いますか。
何しろ新潟県の今日の感染者数は37人。
その数で「大変だ大変だ」と言っているわけですから、私としてもとにかく気後れがするのです。

幸い新潟県はどこかの県のように偉い人が率先して「東京の人間は来るな!」というようなところではありません。皆さん大人ですからね。
40年も前から新幹線で東京と直結しているわけですから、そんなこと言ったって無駄だということぐらいわかっていらっしゃるのですが、もともと東京の人間である私としては、はてさて、東京は勝手知ったる場所ではありますが、今は歩くのをやめておこうと思ってしまいます。

今日は、せっかく東京へ来るんだからと、友人たち数人と会合を持ちましたが、皆さん大人ですからそこら辺の居酒屋さんではなくて、ある程度のお店で、それも10名以上入れるような場所で集会規定以下の人数ですから全く問題ではありません。私はそう思っていたのですが、席に着くと、友人の口から「私たちはPCR検査を受けて陰性ですから安心してください。」との一言。

「えっ?」と私。

もちろん私はPCR検査など受けておりませんから。

つまり、皆さんそう言うレベルなんですね。

自分から「僕はえんがちょではありません。」と言わなければならないのです。
新潟の人間としてはそこまでの認識は持ち合わせておりませんので、驚きました。

さて、えんがちょの話。

日本には昔から穢(けが)れの思想というものがありまして、つまり不浄ということです。
うちのおばあさんはトイレのことを「御不浄」と言ってますが、つまり、汚らわしいもの、汚いものを忌み嫌う思想です。

外国の会社で働いていて、へえ、と思ったのは、ユダヤ人の思想にもこの穢れというものがあるようで、ユダヤ教の中には人が触ったものに触れてはいけないというような考えもある。
例えば、レストランで出される料理ですが、誰が作ったものかわからない料理は食べられない。
私たちなら、いつものお店に入って、いつものお店でご飯を食べる。
もちろん初めてのお店だって入ります。
でもユダヤ人たちの間では、そのいつものお店というのが問題で、自分と同じ信仰のシェフがきちんとお祈りをささげた食材を使って調理したものでなければ食べることができない。
こういう考えの人たちが多くいます。

例えば飛行機に乗って機内食が出てきますよね。
ある種のユダヤ教の人たちは、皆がパクパク機内食をおいしそうに食べていることが信じられない。
つまり、彼らにとっては私達が食べている機内食は不浄のもの。えんがちょなんです。

じゃあ、彼らはどうするかというと、自分たちと同じ宗教を信仰するシェフが、きちんとお祈りをささげた食材を使って、お祈りをした場所で作ったものでは無ければ食べられない。それも、機内食が入った箱や食器に封印がしてあって、その機内食をクルーが持ってきて、目の前で自分が封印を解かなければダメなのです。

まぁ、簡単にわかりやすく言うと処女性を重んじる思想と同じです。
衛生的であるとかいう以前の問題として、他人が触れたり開封したものをいただくことはできませんという文化なのですが、こういうめんどくさいしきたりも、なんとなく日本のえんがちょに通じるものがあると私は感じていますが、そういう宗教観が根強いからでしょうか。イスラエルでは早くからワクチン接種が進められていて、先月末の段階で国民のほとんどがワクチンを終了している。

それに比べると、日本はなんだかんだ偉そうなことを言って、まだまだじゃないですか。
すでにこの国は先進国ではないということを、国民は自覚しなければならないのです。世界から置いて行かれているのですから。

だから、私としては仕方なく東京を経由するとはいえ、えんがちょに触れないように今夜はこんなホテルに泊まっているのであります。

空いた電車を選んで乗ってたどり着いたのはこのホテル。
誰にも会わず、誰にも接することなく、お部屋にたどり着ける優れものです。

今夜もフロントのお姉さんの笑顔は素敵でした。

皆さん、決して東京はえんがちょではありませんよ。
大人の対応が求められるだけでございます。