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興味深いニュースがありました。

リニア中央新幹線 2027年の開業は遅れる可能性高まる

JR東海の社長と静岡県の知事がリニアの建設問題で会談した結果として、歩み寄りがなかったという内容の記事です。

リニアのトンネル建設で水脈が破壊される可能性がある。
そうなると沿線に与える影響が大きいので、そうならないという確約が得られなければ建設許可を出すことはできない、ということが大きな焦点のようです。

最近、例えば、九州新幹線のトンネル工事で沿線の井戸水が枯れてしまったとか、地下鉄区間を工事している上で道路が突然陥没してしまったなどというニュースが報じられていますから、静岡県としては慎重になっているのでしょうね。
また、防衛省が今まで絶対安全だと言っていたものが、ここへきて「実は安全性が怪しくなってきた。」という発言もありますから、JR東海が「水資源には影響が出ない。」と言っているとしても、実際に工事をしてみなければわからない部分があるかもしれません。

ニュースの中で
>川勝知事は「JR東海はトンネルにわき出た水を戻したいという方針を示しているが、金子社長に『できないときはどうするのか』と尋ねたときに『考えていない』と答えたのは、ちょっと不誠実だ」と述べました。<
とあるのはそういうことで、何も静岡県知事がJR東海に対して難癖をつけて無理難題を吹っかけているわけではないと思います。

静岡県のような横に長い県の割には高低差のある山岳県では水資源は私たちが考える以上に大きな問題ですから、それだけ深刻な問題を含んでいるのです。

でも、私には実に不思議なことがあります。

リニアの建設っていつ始まったのでしょうか?
計画は昭和の時代ですが、建設が決定されたのが2011年5月。
工事開始が2014年です。
2011年5月と言えば東日本大震災のわずか2か月後。
以前から計画があったとはいえ、この時期に建設計画が発表されたということは、東海道新幹線のバイパスルートの必要性を感じたからです。

では、誰が東海道新幹線のバイパスルートの必要性を感じたかというと、国でも国民でもなく、JR東海という会社が必要性を感じたわけで、その理由は、JR東海は新幹線の売り上げに会社全体の9割以上を依存しているという構造的欠陥を抱えている会社ですから、その新幹線にもしものことがあったら、会社が立ち行かなくなる危険性があるということが、東日本大震災ではっきりしたからなのです。

国が必要性を感じていないというのはちょっとうがった見方かもしれませんが、せいぜい「あったらよいな」といった程度だったことは明白で、その証拠に建設は国ではなくてJR東海が行なうということでスタートしています。
そして2014年の年末に工事が着工したのですが、私が不思議なのは、なぜ、2020年の今になってJR東海の社長と静岡県知事がこんな対談をしているのかということです。

本当なら、もっと以前に、建設を行うかどうか決める以前に、ルートをどこに設定するかといった段階で地元と十分な話し合いがもたれているべきでしょう。そして、ここへきて、既成事実としてすでに工事が始まっているこの段階で、静岡県知事がまるで駄々をこねているかのような印象を与える可能性がある報道がされていることにも疑問を感じています。

この問題の真因がどこにあるかと考えた場合、私が思うのは、JR東海という会社が静岡県との関係が根本的なところでぎくしゃくしているところにあるのだと思います。
静岡県のように横に長い県にとって、交通は大切なインフラです。
そのインフラである鉄道輸送は主としてJRが担っています。
鉄道会社というのは地域に密着した企業であり、地域住民から愛されて、地域に貢献するべき会社であるはずです。
でも、JR東海という会社はどうもそうじゃない。
私は静岡県にたくさんの知り合いや友人たちがいますが、皆さん口を揃えてJR東海という会社をあまり良く言いません。
私の知り合いは商工会議所の重鎮であったり銀行の偉い人だったり、そこそこの人たちですが、そういう人たちが地域を走る鉄道会社に対して良い印象を持っていない。

「どういうことですか?」と聞くと、
地域の話など一切聞かないとか、JRにとって静岡県は関係ないみたいだから、といった声がずっと以前から聞こえてきています。

よくよく話を聞くと、「のぞみが停まらない。」から始まって、「在来線の東海道本線などどうでも良いみたいだ。たぶんお荷物なんだろうね。」という話です。
「JRは、在来線にできるだけお金を掛けないで、新幹線ばかり新型車両を投入している。」といった、いわゆる感情論のようなお話を、県民感情として皆さんお持ちなのが静岡県なんですね。
だから、信用できないんですよ。JR東海という会社が。

その証拠が建設前の段階で十分な話し合いがされず、どんどん勝手に建設を始めておいて、今になって工事が遅れるのは静岡県が悪いような話に持ってきている、ということなのです。

静岡県民にとってJR東海が東京や名古屋、大阪とを結ぶ唯一の鉄道であるにもかかわらず、その鉄道会社が信用できない。
こういう県民感情がはっきりと表れているのが今回の川勝知事の言葉に出ているのでしょう。

1987年の国鉄民営化から33年が経過しました。
本来であれば地域に密着したサービスを展開して、地域から感謝され、地域の一部になるべき鉄道会社が、33年間の経過を経て、県民からNO!を突きつけられている。
これがこの問題の真因だと私は考えます。

だから、「今後もし問題が出てきたらどうするのですか?」という知事からの質問に対して、「考えていない」などという言葉が社長の口から出るのでしょうし、そういう言葉が更なる不信感を抱くことになる。
JR東海という会社は、日本の大動脈の東海道新幹線という輸送を行っている重要な会社です。
でも、そこから上がる利益をすべて自社にため込んでリニアの建設につぎ込んでいる。
本来であれば企業の社会的責任として、利益を地域に還元するなどということや、北海道や四国など、かつての同胞が困っているのであれば少しでも手を差し伸べるなど、成功した企業としてのやるべきことがあるはずですが、残念ながらそういう活動が目立たないために、社会的責任という点で全く評価されていないんですね。

地図を見れば誰でもわかりますが、JR東海にとって静岡県は重要な地域です。
静岡県にとってもJR東海は重要な交通インフラです。
にもかかわらず民営化後33年が経過した今、ぎくしゃくぎくしゃくしている。

こういうことは、まずは企業から地域に歩み寄って、地域とともにあるべき姿を示していくことが当たり前の姿なのですが、代表取締役名誉会長などという、まるで個人経営の有限会社のような体質が残っているのですから、大企業としては内部は伏魔殿のようになっているのでしょう。

JRが発足した当時のことを思い出してみましょう。

東日本と東海と西日本には新幹線を持たせました。
新幹線があれば誰がやったって経営は安定しますから。
本当は新幹線を別会社にしてそこから上がる利益を国鉄の借金返済に充て、JR各社は在来線を熱心にやるような仕組みにすればよかったんです。今、台湾はそれで在来線も新幹線も両方とも活況を呈していますからね。

新幹線がない北海道と四国と九州には基金を作りました。
その基金を上手に運用すれば欠損補助ができるでしょうという考え方です。
何しろ当時は銀行の金利が年7%もある時代でしたから。

そういうことでスタートして、今、どうなっていますか?
うまく行っていますか?

新幹線を持たされた会社は、うまく行っています。
でも、少し変わって来ていますね。
どう変わって来たか?
儲かる新幹線に力を入れて、儲からないローカル線を切っていくスタイルに変わってきました。
スタート時点での話は、新幹線があれば、そこから上がる利益でローカル線をきちんと運営できますねということだったはずです。

基金を持たされた会社はどうですか?
例えば北海道は2400kmの路線全体を維持するために、後から追加した分も含めて9000億円というお金をもらっています。
でも、今の会社の言い方は、9000億円の基金では札幌と各地を結ぶ幹線しか維持できませんという論調に変わっています。

30年以上が経過しているのですから、世の中の状況に合わせて変わってくるのはある程度仕方がありません。
でも、共通するのは、そこに地域や利用者の姿が見えないんです。
あくまでも会社主体で、自分たちの考えを押し通す。
こういう姿勢がJR各社に見え隠れしていることを、国民はしっかり感じ取っていますから、その代表例が今回のJR東海と静岡県とのギクシャク劇なのだと私は考えています。

JRの社員の皆様方は、日々安全輸送に精進されているとは思いますが、自分の会社が本当に地域に根差しているか、常に顧みる必要があるのではないでしょうか。

私も地域鉄道を預かる身として、今回の静岡県知事の発言を真摯に受け止めたいと考えております。


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