御巣鷹山から30年。

昨日は8月12日。日本航空の123便が御巣鷹の尾根に墜落してからで30年でした。
いろいろなテレビ番組でこの事故の検証や乗客のご家族の皆様方のその後などを特集してましたね。
それまでの日本では飛行機事故は毎年のように起きていて、私が記憶にあるのだけでも
全日空機羽田沖墜落、全員死亡
全日空機松山沖墜落、全員死亡
東亜国内航空函館横津岳墜落、全員死亡
全日空機雫石上空空中衝突 全員死亡
日本航空モスクワ墜落
日本航空ニューデリー墜落
日本航空クアラルンプール墜落
日本航空羽田沖逆噴射事故
など、1970年代から80年代にかけて、ざっと思い出すものだけでもこれだけあります。
にもかかわらず、他の事故はほとんど国民の記憶から消えているにもかかわらず、御巣鷹山の123便の事故だけが30年経った今でもこれだけ話題になり、マスコミが取り上げているのにはいくつかの理由があると思います。
1つは安全神話があったB747ジャンボジェットが墜落して500名以上の人命が奪われたこと。
2つ目は機体が空中で異変をきたしてから墜落までの間に30分という時間があったこと。
3つ目は夕刻の山中への墜落事故で発見が翌朝になり救助が難航したため、当初存命していた乗客がたくさんいたにもかかわらず救助されなかったこと。
その他として、ボーイング社の修理ミス、その修理ミスを見抜けなかった日本航空の整備態勢など、人間がかかわる部分に原因があったこと。
このような特徴がこの事故にはあって、乗客が30分間も恐怖と戦いながら家族へのメッセージを宛てていたなど、事故の悲惨さがクローズアップされた初めての事故だったからです。
この事故を教訓として、あれほどたくさんの墜落事故を起こしていた日本の航空3社が、あれから30年間、今日に至るまで、一度も旅客の死亡事故を発生させていないということは、以前に比べて飛行機の便数が格段に増えている中では驚異的なことであって、それはきちんとした安全管理システムが試行錯誤の上に確立されてきていることの表れだと考えています。
よく言われる「気を引き締めて」とか、「気合を入れて」などという言葉で事故防止を唱えるようなやり方では、航空機のような高度の技術の上に成り立っている運行システムでは通用しません。
乗員がミスを犯さないように訓練するというレベルの話では何も解決しないわけで、どれだけ訓練し、経験を積んだベテランでも、人間がミスを犯すことをある程度考慮したうえでの対策が求められるのは基本中の基本だと思います。
先日の京浜東北線の架線切断事故では私はとても驚きました。
電車が停まってはいけないところに停めたことが事故の原因である。
こういう話がまことしやかに翌日にはニュースになるのですから、驚いたわけですが、鉄道ファンの皆様方の書き込みなどを見ていても、「エアセクションに電車を停める運転士の技術的な問題である。」という意見がたくさん見られました。
複数の変電所から給電される電車の架線には、その区間に走行している電車の本数や走行状態により電圧に差が出ます。その電圧差がある部分で加速するなど大量の電気を使用すると架線がスパークして溶断の原因となる。だから、その区間では電車を停車させてはいけないというのが運転士たる者の基本中の基本であると言われているようですが、事故を防ぐ安全管理上の問題を考えるときに大切なのは、「ここでは電車を止めてはいけない。」という心理的プレッシャーが運転士に働いた場合、緊急停止操作が遅れる可能性があるということで、それでは安全に支障がありますよというのが基本の考え方です。
だから、運転士が危険を感じたり、必要性を感じたりしたときには、何の迷いもなく、緊急停止操作をできるようにしなければならないわけで、そのためにはセクション内で停車しても問題なく発車できるような車両側の設計変更など、システムの変更で対応しなければならないのです。
ところが、「エアセクションの表示を取り付ける。」「運転士を再教育する。」といった話が翌日に出てきて、ハード面での対応が行われないわけですから、きっとまた同じことが起きる。つまり、再発防止という観点からは程遠い対策なんですね。
せっかく、人の命に係わる手前の段階のヒヤリハットが何度も起きているわけで、これはBIG BROTHERが、「気を付けなさいよ。」と教えてくれているわけですから、フェールセーフの対策を考えていかないと、教訓が活かされないということになるのだと思います。
かつての航空3社は、今は日本航空と全日空という2社になってしまいましたが、この30年間、本当に努力を重ねてきて、今日の航空の安全が守られているということを強く感じます。
いすみ鉄道も小さな事故やヒヤリハットはいくつもあります。
いすみ鉄道のような小さな会社は、大事故が発生したら会社そのものがなくなります。
でも、お金のない会社ですから、当然予算は限られる。
そういう中ででも、ATSの変更や脱線防止ガードレースの設置、全方向性の踏切警報ランプの取り付けなど、できる限りの対策を毎年少しずつとっています。
また、列車ダイヤを見直し、運転士に心理的プレッシャーがかからないようなダイヤ設定を行うなど、ソフト面での安全対策もとっています。
その上で、各乗務員が規則を守り、基本動作を励行して運行に当たることで、毎日の安全が守られているのです。
安全対策というのは数字が出ない作業です。
事故率「ゼロ」が目標達成ですから、何年も「ゼロ」が続くと、ともすれば「事故は起きていないから、もう少し予算を減らしても良いだろう。」という考えに陥ります。
そういう難しい部分が経営側に求められるところですが、私は社長として、必要な部分には必要なお金をきちんとかけてきています。
乗務員の皆さんは、鉄道マンとしての自覚を常に心得て、列車の運行に当たるとともに、サービス業のフロントラインとしての自覚を持って勤務に当たってほしいと思います。
安全運行は基本中の基本で当たり前のこと。
その上にプラスして、サービス業としての地域に皆さんや観光客の方々の笑顔を増やす努力をしていただきたいと思います。