昨夜はよい夢を見られましたか?

昨日は夜行列車が走りました。

夜行列車と言っても大井川鐵道の夜行列車はどこへも行きません。
金谷駅と川根温泉笹間渡駅の間を行ったり来たり。
一晩に3往復するだけの列車です。

一般的な夜行列車は「寝ている間に目的地へ向かう列車」ですが、それは交通機関としての夜行列車の話であって、観光列車としての夜行列車は「乗ることそのものが目的」ですから、別にどこへも行かなくなっていいわけで、「夜行列車に乗ってみたい」という需要があればそれで成り立つのです。

こういうことが理解できない皆様方は「そんな列車に意味があるのか?」と時として厳しいご意見をいただくことになるわけでして、第3セクター鉄道の当初の頃は、「お前は税金を使ってそんな遊びみたいなことをやっているのか。」とかなりきつい口調でお叱りを受けることしばしでしたが、あれから17年も経過すると世の中も大きく変わってきていますから、先日5月5日のNHKの夜行列車の番組のように、当たり前に取り上げていただけるようになったのは隔世の感があります。

さて、その「そんな列車に意味があるのか?」とお𠮟りをいただく皆様方へ、さらに油を注ぐようにお叱りを受けるであろう案件を2つ追加します。

1つは、この3往復したら朝になるという夜行列車ですが、乗車料金は1名様24800円でございます。
大井川鐵道の金谷と川根温泉笹間渡の間の運賃は920円ですから往復で1840円。
3往復しても5460円です。
それが何の景色も見えない漆黒の闇の中を走る時間帯で、硬い座席で寝るしかできない夜行観光列車になると24800円になります。
もちろん、お弁当やお土産品、途中駅での夜食サービスなどはありますが、ホテルのような豪華なものではなくていわゆる駅弁におでん、カップ麺です。

そしてお叱りを受ける2つ目は、今回簡易寝台を設置しまして、直角の座席ではなく、横になって眠れるというサービスを試験的に導入させていただきましたが、そのお値段は29800円であります。
座席と座席の間にべニア板を渡して、布団と枕は準備させていただきましたが、セッティングなどはご自身で行っていただく簡易的なものですが、それが29800円であります。

こうなると、昭和の夜行列車をご記憶の皆様としたらおそらく憤懣やるかたない心境になられるかもしれませんが、では結論から申し上げまして、昨日の夜行列車には約90名様のご乗車がございました。
簡易寝台の29800円のコースはネットオンリーですが発売から20分余りで完売いたしました。

これが商売だと私は思います。

もっとも、日常生活に直接関係があるような肉や魚、牛乳や豆腐などはそうはいきませんね。
昼間200円だった牛乳が夜になったら1000円になる、なんてことをやっていたらお叱りを受けるどころか、お客様がいなくなってしまいます。

でもそれは日用品を販売する商売です。

この日用品に対して買回り品という性質の商品があります。
趣味のものなどがそのわかりやすい例ですが、日用品が近くにある価格の安いお店で買う商品であるのに対し、買回り品というのは「それを買うためにわざわざ出かけていく商品」と言えます。
趣味のものや嗜好品、あるいは耐久消費財などが典型例で、気に入ったものを探していくつもの店を歩いたり、欲しいものがあれば遠くまで出かけて行くし、そういうものであればお値段が多少高かろうが、欲しい人は買うわけです。

旅行商品も日常生活には直結しない商品ですから、5800円なら行くけど9800円だったら行かないという人はいるかもしれませんが、そういう人は9800円の商品を買わないだけで、だからと言って日常生活に支障をきたすものでもありませんから、事業者が値決めをする時に、「いくらで仕入れて、利益をどれだけのせるか」という値段の付け方ではなくて、「いくらなら買っていただけるか」ということを考えて価値を付け加える値段の付け方をするわけです。

ということは観光列車は日用品ではありませんから、いくらの値段を付けようが買う人は買うし、買わない人は買わないのですが、日用品ではありませんから高くて買えないからと言ってその人が生きていくことの支障になるものではありません。
今の時代はモノ消費からコト消費の時代と言われていますから、ふだんの生活では節約をしている方でも、楽しい体験などには惜しみなくお金を払う人が増えてきていています。そういうお客様にいらしていただけるような商品を用意して、できるだけ価値を高めて買っていただくというのが、私は商売として正しいと考えます。

もちろんですが、日用品として普段使いに鉄道を利用される方も地元にはいらっしゃいますから、交通機関として日中時間帯には金谷駅から川根温泉笹間渡駅まで、本数は限られますが920円でご乗車いただける列車も走らせているわけですが、だからと言って乗車体験に価値を見出されるお客様に対して、経営の厳しい会社が同じ値段で乗せる必要はないわけです。
これが観光列車なのです。
だから、
「920円の列車とどこが違うのですか?」
と聞かれても、私としては
「さあ、それはお客様ご自身で価値を判断していただくことになります。」
としか言えないのです。

なぜなら、冷房が付いているからいくら、とか、座席が後ろに倒れるからいくらとか、コーヒーのサービスがあるからいくらなどといった、設備やモノで勝負するとしたら、我々のような小さな会社は大手にはかないませんから、いわゆる付加価値で勝負するしかないわけで、その付加価値をどう理解されるかは、これはお客様ご自身で決めていただくしかないからです。

なので、私は決してこの夜行列車を一般の皆様にはお勧めいたしません。
このような観光列車のお客様になれるかどうかはお客様ご自身にあるわけですから、私が
「楽しいですよ。ぜひ乗ってください。」
と言ったところで、相手によっては私はうそつきになってしまいますので、顧客満足度に貢献できませんから。

ということで、昨日の夜行列車。
硬い座席にお一人24800円、簡易寝台という名のべニア板にお一人29800円払ってご乗車いただいた方が、約90名様いらっしゃいました、ということなのであります。

▲こちらは簡易寝台

▲簡易寝台はこんな感じです。

▲こちらは一般座席車

▲家山駅ではライトアップ撮影会

駅舎内には行列ができていましたが、その行列の先には・・・

▲地元のお店にお願いをして静岡おでんをサービスしていただきました。

おでんのサービスと言っても、もちろんお金はお支払いしています。
実はこのおでんも24800円の価格に入っていまして、そうすることで全員必ず食べますから、出店していただくお店に対しても売り上げが確定します。

「食べるか食べないかわかりませんが、おでんをやっていただけますか?」
と聞いたら、そりゃお店だって心細いでしょう。
でも人数分必ずお支払いしますからと言えば、ロスも出ませんから原価率だった少し高く設定することができますし、そうすれば良いものを提供できますよね。

お客様としてはオールインクルーシヴなんですが、「おでんの無料サービス」みたいな感じになりますから、満足度も上がるというもの。

私はこれが商売だと思います。

ねっ、この笑顔。
この方、実は島田市民です。(笑)
息子さんと一緒にもう何度も夜行列車に乗ってくれています。
私は地元に大鐵を愛してくれる方がいらっしゃるのが一番うれしいんです。

だってあなた?
地元の観光列車に24800円払って何度も乗ってくれているんですよ。

こちらの方は神戸から。
おでんの後、サービスのカップ麺を手にご満悦です。

高価格帯の商品というのは価格に弾力性ができますから、カップ麺もサービスできますし、お土産品も付けられます。
おでんのサービスのように地元の商店主の方と連携して地元にお金を落とす仕組みも作れます。
夜行列車ですから乗務員に深夜手当も払わなければなりません。
そういういろいろなことができるようになるのが観光列車なのです。

賑わう深夜の家山駅待合室。

家山駅を知っている方ならおわかりいただけると思いますが、夜の10時過ぎにこの賑わいですからね。

何もやらなければゼロなんです。
でも、やったらきちんと収益が上がる仕組みを作っていけば、地元の皆様方もうれしいんじゃないでしょうか。

さて、一般座席24800円、簡易寝台29800円。
いかがでしょうか?

次回の夜行列車は6月27日、今度は旧型客車で予定しています。

簡易寝台29800円が売り出し開始後20分で売り切れたという事実を考えると、あなたが経営者ならどうしますか?

そうでしょ?

やっぱちょっと安かったかな?

そう思うわけですよ。

だったら次回はどうします?

これがPDCAなのです。

昨夜ご参加いただきました皆様、ありがとうございました。
家山駅前の朝日園の皆様、ご協力いただきましてありがとうございました。

夜行列車の中で見る夢はどんな夢かな?
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