昭和は誰のもの?

今、昭和がブーム。
映画「3丁目の夕日・パート3」が公開されました。
時代設定は東京オリンピックが開催された昭和39年(1964年)。
昭和39年というのは今から48年も前のことなのですね。
私は生まれていましたが、まだ4歳でしたので、記憶と言えば新幹線のブリキのおもちゃを2両も持っていて、新幹線ではなくて「夢の超特急」と呼んでいたこと。
総武線に走る蒸気機関車には背中にコブが1つのものと2つのものがあったこと。(今思えば2つのコブはハチロクですね。)
総武線には黄色い電車と茶色い電車が走っていたこと。
それと、アベベがはだしでスタスタ走っていたことぐらい。
あっ、都営交通のトロリーバスも走っていたっけ。
今年52歳になる私ですらその程度の記憶しかありませんから、当時の歌謡曲とか、何がいくらだったとか、テレビで何をやっていたなど、はっきりと覚えていて、本当に懐かしいと思える人は、もう60歳以上になられているはずです。
では、映画「3丁目の夕日」を見て「懐かしい」と思うのは、その60歳以上の人だけなのでしょうか。
この映画が、もし60歳以上の人たちをターゲットとして作られたものならば、人口比率から言って7年間でパート1~パート3まで作られるような大ヒット作品にはならなかったことは確かです。
では、いったい誰が見ているのでしょうか。と考えると、ヒットするような劇場映画は、やっぱり若い人を中心に、老若男女が見ているのだと思います。
でも、なぜ50年前をテーマにした映画を若い人たちが見るのでしょうか。
それは多分、「昭和」には若い人たちをひきつける力がある。
私はそう思うのです。
年が明けて平成24年。
昭和が過ぎ去ってからすでに四半世紀になろうとしているということは、今30歳以下の人たちは、ほとんど昭和の記憶がない。
にもかかわらず、未知の世界である昭和に対して親しみを感じ、引きつけられる感情を抱くのは何故なのでしょうか?
私たちが子どもだったころ、昭和40年代から50年代にかけて、「レトロ」というと大正時代や戦前の話が主流でした。
大正時代も当時から見て50年ほど前の話ですから、今の若い人にとっての「3丁目の夕日」と同じ時空感覚だと思いますが、当時の若者は大正時代や戦前のことに親しみを感じたり「懐かしい」という感覚はなかったんです。
だけど、今の若い人たちは、昭和30年代の情景を見て親しみを感じ、初めてなのに「懐かしい」と思う、ということは、今の若い人たちの方が当時の若者である私たちの世代よりも感性が豊かなのかもしれません。
私たちの時代は、古いものは格好悪くて、とにかく新しいものを追い求めることに夢中になっていた時代。そして日本がバブルに突入していった時代。
そんな時代を、物事の本質を考えたり、ゆっくりと立ち止まったりすることなく、只々突き進んで来ることしかできなかったのです。
だから、私たちの世代よりも、今の30代以下の人たちの方が、ずっとすばらしい感性を持っているのではないでしょうか。
いすみ鉄道で走らせているキハ52にも若い世代の人たちがたくさんいらっしゃいます。
そういう人たちは「懐かしい」とか「可愛い」とか言ってキハ52に接しています。
大糸線時代に足しげく通った人が「懐かしい」と言ったとしても、せいぜい3~4年前の話ですから、この「懐かしい」はそういう意味ではなくて、感性から出る「懐かしい」なのだと思います。
そういう感性を持っている今の若い人を、私は素晴らしいと思いますし、素直に尊敬してしまいます。
私たちの頃、鉄道100年(1972年)の記念列車を蒸気機関車が引いてきて、後ろに連結された旧型客車に戦前風の赤い帯が引いてあるのを見ても、白熱灯の車内を見ても「懐かしい」とは思いませんでしたし、茶色い旧客に赤帯姿はどちらかというと不評でしたから、いま思い出せば、当時の若者は、そういう感性は持ち合わせていなかったのです。
「3丁目の夕日」は50年前の昭和中期の話ですが、私はこの映画がヒットするのを見ると、明るい日本の未来が見えるような気がするのです。
いすみ鉄道で昭和のディーゼルカーを走らせるということは、もちろんシニアの年齢層の皆様方に房総半島に観光に来ていただきたいからですが、これからの時代を作っていく若い人たちに感性を磨いていただくということも、いすみ鉄道として大事な仕事の一つだと考えるのです。

上の写真は長崎県の島原鉄道のディーゼルカー。
どうです、「懐かしい」でしょう。
昭和30年代のディーゼルカーがずらりと並んでいますが、これを撮影したのは昭和ではなく、わずか4年前の2008年です。
残念ながら島原鉄道は路線の半分が廃止され、このシーンも見られなくなってしまいましたが、いすみ鉄道は老若男女の皆様方に「初めてなのになぜか懐かしい」気持ちになっていただける鉄道にしたいと考えているのです。
そして、そうすることで若い人たちが日本の明日を作っていくお手伝いができると考えているのです。
いすみ鉄道がどこまでこの写真の姿に近づけるか、どうぞご期待ください!