東横インが1泊1万円になる日

先週、会社でのこと。

1月の3連休に大阪にイベントへ出かけた時のホテル代の領収書の精算をお願いしたところ、担当者が申し訳なさそうにやって来て、「社長、これ、金額オーバーしていますから全額払えません。」と言ってきました。

「規定では東京都内と大阪市内での出張宿泊は1万円。その他の都市では8000円が上限です。」とのこと。

私は、「そうですか。それなら1万円で良いですよ。」と答えましたが、最近の東京や大阪では3連休のような時に1万円で泊まれるホテルはなかなかありません。
私は特別のホテルに泊まったわけではなく、できるだけ会場に近いところということで14000円ぐらいのお部屋にしたのですが、というのも昨今の大阪で3連休の時などはだいたいそのぐらいが相場だと思っているからで、もちろんピンキリですからもっと安いところはありますが、値段に釣られてちょっと離れたところのホテルにして、そこからタクシーにでも乗ったらすぐに数千円になりますから、多少高くても合理的だと思ったのです。(出張費用精算するときまで、私は会社の出張旅費の規程を知りませんでした。)

そこで、思い出したことがあります。

それは、以前にこんなタイトルでブログを書いたことがあったのです。

本日のタイトル、「東横インが1泊1万円になる日」。
2015年6月19日の記事です。
転記しますのでどうぞご一読ください。

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このあいだ、成田空港の友人と話をしていたら、「ホテルがとにかく満室です。」と言われました。

私が成田空港に勤務していたのはもう6年以上前ですが、その頃は、成田のホテルはガラガラで、各ホテルの営業の人たちが、足しげく航空会社を回っては、宴会プラン、ファミリー宿泊プランなど、どちらかというと地元住民向けの企画商品を売ってまわっていましたし、航空会社の乗務員の宿泊を獲得するために、大変な努力をされていました。

外国から飛んでくる飛行機の乗務員は、休養のために1~2泊成田に宿泊してから次のフライトに乗る場合があります。
路線や機種によっても異なりますが、1機の飛行機でパイロット2名、客室乗務員12名として、乗務員の宿泊契約を獲得すると、毎日14部屋が年間を通じて営業保証される計算になります。
2日間滞在するとして28部屋。1日2便として56部屋が年間契約されるわけですから、とても大きなビジネスになります。

だから、各ホテルの営業マンも、値段の勝負だけでなく、例えばジムの利用など、滞在中のクルーのケアなども含めて、いろいろなオファーを用意して獲得競争をしていました。

ところが、今は中国やアジアからの観光客が急激に増えた関係で、とにかく成田空港周辺のホテルがどこもいっぱいの様子で、
「それじゃあ、クルーなんて安い料金で泊めたくないだろうから、出て行ってくれなんて言われるんじゃないの?」
と、私が言うと、彼は苦笑いをしていました。

航空会社とホテルは持ちつ持たれつの関係があって、成田空港周辺のホテルは、長年にわたって営業環境が厳しく、航空会社に助けてもらってきていましたし、航空会社としても、クルーの滞在や、飛行機の欠航などでいろいろお世話になってきているというのがこの30年間の関係でしたから、急に景気が良くなったからといって、「もうクルーは出て行ってくれ。」と言われるようなことはないと思いますが、1泊当たりの宿泊料金は、契約更新の度にじわりじわりと上がってくるでしょうし、それが、コストに悩む航空会社としては大きな負担になるのではと考えてしまいます。

でも、これは何も成田だけの問題じゃなくて、東京都内でもホテルがなかなか予約できなくなっているのが現状です。

私は、千葉と東京の間を車で行き来していますので、出先でお酒を飲むようなことがあるときは都内のホテルを取って泊まることにしています。
そのホテルが、最近予約できなくなっていて、「世の中の変化」に気付きます。

都内や横浜などのホテルには、いろいろな種類があって、例えばビジネスホテルとかシティーホテルとか呼ばれていますが、私が第一選択肢に上げるのはお値段勝負のビジネスホテルで、浅草辺りの東横インなどよく泊まりますが、最近ではこういったビジネスホテルの予約が取れない。

おかしいなあ。どうしてだろうか。

そう考えて実際に泊まってみると、朝の無料の朝食コーナーは外国人ばかり。
それも中国人、韓国人ばかりです。

ほんの数年前までには見られなかった現象ですね。
だから、私はインターネットでシティーホテルを検索します。
そうすると、シティーホテルの中には直前割引など、空室をバーゲンしているところがあって、7000~8000円ぐらいで予約が取れたりします。

結果としてビジネスホテルと大して値段が変わりませんが、おそらくそういうホテルは、当初から安売りの営業をやっていないから、直前に売れ残りの部屋が出るのだろうなあと考えています。

例えば、航空会社で言ったら、エコノミークラスはバーゲン運賃で満席になっているけれど、ファーストやビジネスなら空席がありますよという状況がよくみられるのと同じで、安いホテルから埋まっていくのだと思いますが、今、この6月のシーズンオフに外国人観光客で安いホテルが満室だという状況は、私たち日本人にしてみたら、「シーズンオフだから安い旅行ができる。」という常識が通じなくなってきているということです。

台湾のホテルも同じで、台北では普通のホテルのツインルームが日本円で1泊20000円ぐらいします。
台湾は治安が良くて安心できますが、外国ではホテルの値段は治安の良さと比例するところが多いので、団体ツアーならともかく、個人の出張では、いちがいに安い部屋を予約することは避けたいです。

台湾では観光政策の一環として、台湾人と日本人では同じホテルの同じ部屋でも値段が違っているところが多く、日本人が予約すると高い値段になるのですが、それだけじゃなくて、慢性的にホテルが足りない状況にあるようです。

台湾の南部に知本温泉という観光地があります。
日本時代に開発された温泉で、とても風情があるところなんですが、台北からだと列車で5~6時間かかる大変な田舎町ですから、ホテルの値段も安く、1泊2食付で6000円ぐらいの値段で宿泊できました。これが10年ぐらい前の話です。

ところが、最近では格安レートですと言って値段を出してもらっても、1泊2食付で25000円ぐらいする。
おかしいなあと思って行ってみると、中国人の団体の観光バスが何十台とひしめいていて、とにかくすごいことになっている。これがここ3~4年の傾向です。

中国人(中国本土の北京や上海からやってくる)観光客にとって見たら、台湾は近くて便利なところですから、まず、台湾が中国人観光客であふれた状況になっていますが、今、この円安を背景に、急激に日本にたくさんの観光客が押し寄せてきていて、おまけに、日本の政府もそれを奨励していますから、まず東京、そして横浜、名古屋、京都、大阪と、ゴールデンルートに沿った地域では、本当にホテルが取れなくなってきていて、中国人をはじめとする外国人観光客で満室状態が続いているのが、今の日本の現状だと思います。

残念ながら、千葉県の房総半島は、今の時点ではその恩恵にあずかることはできません。
なぜならば、日本の代表的な観光ルートから外れているからなんですが、観光客の心理として、何度も日本に来ている人たちは、そのうち、いつも見ているところへは行かなくなって、ガイドブックに載っていないところを探すようになりますから、近い将来、房総半島はそういう旅行通、日本通の外国人が歩き出すようになると私は見ています。だから、そういう旅行通が満足するような「おもてなし」を今から準備しなければならないと考えています。

フランスへ行ったらパリのシャンゼリゼを歩くと考えている観光客はおのぼりさんのようなもので、何度もフランスに行っている観光客は、フランスの田舎町を歩き始めます。

それと同じように、日本の田舎町を歩き始めるのは、何度も日本に来ている日本通の人たちですから、そういう日本のファンの方々に、いすみ鉄道沿線を見ていただくことが、ブランド化につながると私は考えていますが、たぶんそういう時代がもうすぐそこまで来ていると思います。

でも、そういう時代になると、つい最近まで5000~7000円ぐらいで泊まれると思っていた都内をはじめ、各都市にある東横インやルートインといった出張ビジネスマン向けの格安ビジネスホテルのシングルルームが、1泊1万円以上もする時代になるのだと思います。
そして、その時代はもうすぐそこまで来ているのです。

通常、ホテルのような箱ものビジネスは、10~14年ぐらいで原価償却するのが標準的ですが、今の状態が少なくとも2020年までは続くんじゃないかと思いますので、ここ数年で新しくできたホテルは、結構良いところにいるのではないでしょうか。

この都市ホテルの活況を目の当たりにして、今からホテルを建てて間に合うかどうかは疑問が残りますが、かといって古いままで現状維持を決め込んでも、やっぱり新しいところにはかなわないでしょうから、そこのところの見極めが難しい経営判断だということですね。

結果論になりますが、この5~6年で新築したホテルの経営者の方々は、とても良い決断をされていると言えそうですね。

一つだけ確かなことは、快適で安いホテルを探す私の旅の前途は多難だということでしょう。

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これが今から5年程前に書いたブログ記事です。

この記事を書いたらすぐにテレビ局だったか雑誌だったかの記者さんが取材に来ました。

「どういうことですか?」って。
経済番組でも取り上げられました。

「本当にそうなるんですか?」というのが彼らの意見でしたが、私は数年早くホテル価格が上昇した台湾を見ていましたので、「なりますよ、必ず。」と申し上げました。

そうしたらそれから半年も経たないうちにAPAホテルが1泊2万円以上する価格で部屋を売り出しました。
当時のAPAは場所にもよりますがだいたい4500円から6500円ぐらいの価格帯でしたが、その同じ部屋が日によって2万円越えになる。別にスイートルームとかではなくて、前日4500円だった部屋が翌日2万円になるなんてことが起こり始めました。

それはどういう時かというと、例えば嵐のコンサートがあるときなどですが、これは別にAPAがお客の足元を見ているのではなくて、Revenue Managementというシステムを取り入れ始めると、需要と供給のバランス的に必然的にそうなってくるわけで、わずか5年で日本人は誰もがそんなことは当たり前だと思うようになったことを今になってみれば思いますが、このブログを書いた5年前が分岐点だったような気がします。
これからAiを導入していくと、もっともっとこういう時代が来るのでしょう。

そして、私の予言が的中したように、いまどきの東京では東横インだって1万円じゃ泊まれないような状況が現実になっているのです。

トキめき鉄道は5年前の2015年3月に運行開始した会社です。
だから、出張規定を決めた5年前の時点では東京と大阪での宿泊は1万円というのは妥当だったのでしょう。 でも、すでにズレてきているのです。現状に合わなくなって来ている。
私は社長ですからカプセルホテルやスーパー銭湯のようなところに泊まるわけにはいきませんのでそういう時は自腹を切っても仕方ありません。
でも、スタッフが出張する時には自腹を切らせるわけにもいきませんし、そんなことをしたら何のための出張だかわからなくなります。

つまり、わずか5年で規定を変更しなければならないほど、この国のホテル業界、旅行業界というのは大きく変化しているということなのです。

日本はもう30年近く物価が上がっていません。
だから、物価が上がるということを40代以下の人たちは経験していないんですね。
でも、もうそういう時代ではなくなってきた気がします。
それがホテル代の上昇というところに出ているのではないでしょうか。

安宿に泊まってコンビニの弁当を部屋で食べるような、そういう出張環境は早急に改善しなければならないと考えます。
なぜなら、そういう職員に「観光鉄道でのおもてなし」などということを考えることなど無理だからです。

新橋のガード下で酎ハイをチビチビ飲んでいるようなサラリーマンに豪華列車の商品など考えられないのと同じように、顧客心理を理解しなければ商売はできません。

観光鉄道のスタッフには観光客の皆様方の顧客心理を理解してもらうことが会社としての大きな課題なのであります。