ひと言でインバウンドとは言うけれど

妙高高原駅で下車する外国人観光客です。

大きな荷物を持って、スキー用具も持って電車から降り立ちます。

今の季節、長野方面からの電車が到着するたびにこういう光景が見られます。
オーストラリアからの人が多いようですが、彼らは長期滞在組。
短い人でも1週間はここスキーリゾートで滞在して休暇を楽しむようです。

でも、同じ旧信越本線つながりで軽井沢はどうでしょうか?

うっすらと雪が積もった軽井沢駅。
新幹線の電車が到着するたびにたくさんの人が降りてきますが、だいたい半分ぐらいは外国人でしょうか。

軽井沢駅に降り立った外国人です。
たぶん台湾とか中国の人でしょう。

妙高高原のオーストラリア人との違いが分かりますか?

そう、軽井沢に降り立つ外国人はほとんどの皆さんが手ぶらで身軽な格好です。

では、軽井沢に降り立つ外国人の皆様方はどうして身軽でほとんど手ぶらなのでしょうか。

その理由は、彼らは東京に滞在して日帰りのシャトルで軽井沢を訪問しているのです。
大きな荷物はホテルの部屋に置いて、新幹線に乗って手ぶらでやってくる。
スキー場でも越後湯沢辺りでは手ぶらでやって来て雪に触れて雪を楽しんで帰る中国や東南アジアの人たちが目立ちます。

では、妙高高原と軽井沢のどちらにも共通する旅のスタイルはなんでしょうか?

どちらにも共通する旅のスタイルは「滞在型」であるということ。

妙高高原に滞在する皆さんはご理解いただけると思いますが、手ぶらで軽井沢に来る人たちのどこが滞在型かというと、彼らは東京に滞在しているのです。
東京に滞在して新幹線でシャトルしながら軽井沢や越後湯沢、あるいは箱根や富士山を訪ねる。
つまり、今のインバウンドの人たちは滞在型の人たちが増えているのです。

数年前まではゴールデンルートとか言われていましたよね。
東京から箱根、富士山、名古屋、京都、そして大阪から帰国するなどという旅行パターンがゴールデンルート。
名古屋から入って飛騨を抜けるルートは昇龍道などとも言われていますが、最近では一か所に滞在する旅のスタイルが増えてきているんですね。

おじさんおばさんたちならご記憶にあると思いますが、日本でも昔は「ロンドン、パリ、ローマ8日間」とか、「サンフランシスコ、ロサンゼルス、ラスベガス8日間」などという観光ツアーが海外旅行の定番として人気でした。
でも、今の時代はあまり聞きませんよね。

ゴールデンルートのような移動していく旅のスタイルはガイドさんや添乗員さんが必要なので、初めての海外旅行は皆さんそういう旅行形態になるのですが、何度も海外に出かけているとだんだん勝手がわかってきますから、添乗員さんが付くツアーには参加しなくても自分で動き回れるようになりますね。
それともう一つは何回も海外旅行をしていると、うわべだけをなぞるようなゴールデンルートではなくてじっくりと一か所に滞在して見たくなるものです。

「ロンドン、パリ、ローマ8日間」というツアーでヨーロッパへ出かけた人たちは、気に入った場所へ再訪するようになります。ロンドンが気に入った人はロンドンに滞在して楽しみますし、何度もロンドンへ行っていると、今度はウエールズやスコットランド、ピーターラビットの里などを訪ねたくなります。

今、日本にやってくる外国人の多くは何度も日本に来ている人たちが増えてきていますから、そういう皆様はゴールデンルートではなくて、気に入ったところをじっくりと滞在する一か所滞在型に変わりつつあるのです。

これが今のインバウンドに見られるようになった傾向でしょう。
そして、妙高高原のようなスキーリゾートに来るのははっきりとした目的を持ってやってくる人たちでしょうが、軽井沢に見られる手ぶらでシャトル型の観光スタイルの人たちは、一か所に拠点を置きながら今日は浅草、明日は軽井沢、そしてその翌日は江ノ電といったように、拠点を中心に日帰りでのシャトル旅を楽しんでいる人たちが多くなっているのです。

ということはどういうことかというと、彼らにとってみれば江ノ島も浅草も軽井沢も越後湯沢も同じなんですね。
ホテルに荷物を置いて江ノ電に乗って大仏を見るのも、越後湯沢に行ってソリに乗って雪遊びをするのも同じなのです。

そう考えると、新幹線が走っているところというのはとても大きなチャンスがあるように私は思います。何も宿泊施設を整備して待ち構えなくてもインバウンドの人たちはインスタグラムで情報を得て、面白そうだなと思えば来てくれるのです。
ゴールデンルートをトレースするようにガイドさんに連れられて旅をする人たちが初心者だとすれば、東京に滞在してシャトルする人たちは中級の旅人だと言えると思います。

では、そうやってあちらこちらをシャトルして旅をした人たちはどうなるかというと、気に入った土地が見つかると今度はそこに滞在してその周囲を歩き回るようになります。

例えば妙高高原に滞在している皆さんはもちろんスキーが目的でいらしていますが、滞在中スキーばかりしているわけではありません。妙高高原を拠点に高田の町中に下りてきたり善光寺へ行ってみたり、周辺地域をじっくり歩くようになります。
これが日本に何度も来ているインバウンドの人たちの行動パターンになって来ているのです。

そうすると、今まで外国人観光客とは縁がなかった地域にもある日突然外国人が歩き回るようになる。
今の日本はそろそろそういう段階に入ってきたと私は考えます。
田舎の町の小さな居酒屋で、ある日突然外国人がカウンターで日本酒を飲みながら焼き魚を食べる姿が見られるようになる。
これが、そろそろこの国の田舎で発生するインバウンド現象だと思います。

つまり、最初はインスタをきっかけに日帰りシャトルでやってきた外国人が、もしそこを気に入れば、今度は滞在型でやってくる。そういうことが東京や大阪を中心として新幹線沿線で今後数年以内に起こる現象だと私は予測していますので、該当する地域の皆様方はそういう対策を今から立てておかないと、せっかくのチャンスを活かすことができないと私は考えるのです。

軽井沢から上田まで10数分、長野は30数分ですね。
上越妙高は長野から20数分です。
地理に不案内な外国人観光客にとっては距離感イコール時間ですから、30分と言えば横浜から鎌倉へ行く感覚ですね。
軽井沢に行ったらついでに長野を見るなんてのは、横浜に行ったらついでに鎌倉を見るようなものなのです。

数年前まで「爆買い」と言われていたものがすっかり姿を消しました。
でも、実際問題として外国人観光客は増加しています。

彼らの行動性向に合わせてじょうずに網を張っておけば、田舎の人もたくさんおいしい思いができる時代がやって来ていると私は考えるのであります。

既に春節(1月23日~29日)の旅がスタートしています。
彼らがどういう旅のスタイルをして、どこへ出かけて何をするか。
私はじっくりと観察させていただきたいと思います。

ウソだと思ったら朝の7時~8時ごろに東京駅や上野駅の新幹線ホームに出かけてみてください。
ほとんど荷物を持たない外国人観光客と、大きな荷物を抱えた外国人観光客の2通りのパターンを見ることができますから。

同じインバウンドでも中身は全く違うのであります。