千葉日報の記事

今の日本の経済は団塊の世代が支えている。
特に観光需要は、時間があってお金がある悠々自適の団塊の世代なしには語れない。
世間一般ではまことしやかにそのようなことが言われています。
確かに、社会的に広い目で見ればそうかもしれませんから、百貨店や大手旅行会社など、マスを相手にしたビジネスをやっているところでは、団塊の世代向け商品がたくさん並んでいると思いますし、昨今話題の3~4日の国内旅行で70万円もする豪華列車の旅などは、まさしく団塊の世代の懐ねらいだと思います。
ところが、いすみ鉄道のように、小さなビジネスをやっているところは、マスを相手にしたビジネスのやり方をそのまま取り入れるわけにはいきません。
つまり、観光ビジネスを考えた場合、いすみ鉄道とJRは全く市場(マーケット)が異なるわけで、JRがやっているような企画旅行商品を提供したところで、JRと同じサービスを提供することはできないのです。
でも、JRと同じような商品を取り揃えてセールスをすると、いらっしゃるお客様の方は、当然JRと同じ内容と質のサービスをいすみ鉄道に求めてくるわけで、いすみ鉄道がそれに対応できないとなると、クレームばかりになるのです。
そして、そのクレームが、いすみ鉄道に対するものであるうちはまだよいのですが、「こんなところつまらない。」とか、「せっかく来たのに何もないじゃないか。」というような、地域に対するクレームとなると、「すみません、何もないところで。」と、地域の人たちまで外から来たお客様に謝らなければならなくなりますから、私はそういう商売をしないと宣言しているわけです。
だから、いすみ鉄道としては、世間一般で行われている団塊世代向けの商品を提供しないわけなんですが、べつに団塊の世代の皆様方に向かって、「来るな」と言っているわけではありません。
団塊の世代の皆様方は、鉄道ブーム、とりわけ昭和40年代にあれほど燃え上がったSLブームを巻き起こした人たちですから、ローカル線に対する気持ちは人一倍強いものを持たれているはずですし、いすみ鉄道で走らせているキハ52やキハ28に対する理解も、若い人たち以上のはずです。
実際、いすみ鉄道を応援してくれているいすみ鉄道ファンの皆様方の中に大きな割合を占めるのもこの年代の方々ですし、そういう年代の人たちが、若い人たちから尊敬の目で見られているのも事実なわけです。
そのような、ローカル線という鉄道趣味の本質を理解されている方々は、いすみ鉄道のお客様としてありがたい存在なのですが、問題になるのは、物見遊山と言うか、たんなる日帰り観光地としていすみ鉄道にいらっしゃる人たちで、そういう人たちは、いすみ鉄道の沿線には何もないし、走っている車両はボロだし、わけのわからない急行料金などを払わされることに理解ができないわけで、だから私は、そういう方々に対しては、「他の観光地へ行かれた方が良いですよ。」と申し上げているのであって、例えば嵯峨野観光鉄道やわたらせ渓谷鉄道のトロッコ列車の方が、ずっとご満足いただけるからなのです。
そのようなことを8月の終わりにブログに書いたら、どこかの誰かがご自身のブログや掲示板で引用してくれて、ふだんの3倍以上の1日3万件を超えるアクセスが、いすみ鉄道のホームページに集中しました。
世の中、「団塊の世代をどうやってお客様にするか。」と言っている時代に、「団塊の世代の方々には理解できないと思いますから、いすみ鉄道では団塊の世代ねらいではありません。」と言うのですから、「何だこの会社は。」となるのですが、その私の考え方に興味を持っていただいた千葉日報の記者の方が大多喜の駅を訪ねていただいて取材を受けたのが昨日掲載していただいたこの記事です。

興味深いことにこの記事は「経済面」への掲載で、今までのように地域のニュースとしてではありませんが、私がこの取材を受けた時に記者さんにお話ししたことは、「新聞の購読世代は団塊の世代の皆様方ですから、新聞社にクレームが来ないような内容にしてくださいね。」ということ。
例えばどんなクレームかと言うと、「公共交通機関である鉄道会社がお客を選んでいるのはけしからん。」というようなものが、本当に来るんですよ。それも、怒り心頭に達し冷静さを失った団塊の世代の人から。
私は、観光鉄道としてのマーケットを言ってるのであって、交通機関としてのローカル線に乗るなとは言っていないのですが、60代も後半になると、そういうことすら理解できなくなってきているおじさんたちが増えてきているということなのです。
さて、今回の新聞掲載で私がとても興味を持ったこと。
それは、8月の終わりに書いたブログが他の方に引用されて、1日3万人ものアクセスがあったにもかかわらず、新聞記事に同じようなことを書いてもらっても、いすみ鉄道のホームページのアクセス数は、いつも通りで全く変わらないということ。
これは何を意味するかというと、新聞の購読世代とインターネットの世代に大きな溝がある。すなわち、インターネット世代は新聞を読まなくなっているということなんです。
だから、いすみ鉄道はすべてインターネットでイベントや商品告知を行っていて、新聞広告などには頼らないということなんですが、いよいよ新聞もヤバくなってきましたね。
アメリカで起こったことは将来日本でも起こりますから、新聞業界の皆様方も、ローカル線をよく勉強しておかないと大変なことになると思いますよ。
千葉日報さんは、それにいち早く取り組んでいるということが、この記事から私が学んだことであります。
ああ、今日あたり、新聞を見て「けしからん!」という電話が会社にもかかってきてるんだろうなあ。
そう思ったら、黙って自分の選択肢から外せばよいだけなのに、やっぱり何か言いたい世代なんだろうね。
言うより行動でしょう。
若い人たちを見習いましょうね。