若桜鉄道に観光列車導入決定

鳥取県の第3セクター「若桜鉄道」は、私と同じ公募社長ががんばっている旧国鉄の鉄道ですが、ここに「観光列車」が走ることが発表されました。
若桜鉄道に観光列車の記事(日経電子版:ログインしてからお読みください。)
導入されるその観光列車というのが、皆さんご存知の水戸岡先生の手によるものだそうです。
山田社長さん、おめでとうございます。
資金手当てや地域への事前説明などかなりハードルが高かったということは容易に想像できますが、山田社長さんの手腕には敬服いたします。
水戸岡先生のデザインと聞いて、あちらこちらからいろいろ声が聞こえてきます。
そのほとんどが、「JR九州と同じ観光列車を他のいろいろな地域で走らせてどうするんだ。」というような意見です。
個性を問われれば確かにそうかもしれませんね。
でも、私は少し違う考えです。
「個性」というのは、ちょうど私たちが教育を受けていた40数年前頃から言われ始めた言葉で、おそらくその後、今から30年ぐらい前には「個性」というものを極めるのが一つの考え方として定着した感があります。
「人と違うことをやりなさい。」というのは、偏差値世代で判で押したような教育がはびこっていた時代には、一つの美学であったかもしれませんし、勉強で勝負ができない子供を持った親たちは、「個性」という言葉にひとつの逃げ道を見つけたような感じが当時からしていました。
不登校になった子供を留学させてみたり、そんなことが流行ったのもこの時期頃からだったと思います。
そして、そういう個性をよいことだと信じて勉強してきた人たちが、おそらく40代ぐらいになっているのだと思います。
私は、自分自身もそうですが、芸術的なセンスがない人間が個性で勝負できるはずはないと考えていましたから、世の中の事象や現象というものをよく観察して、どうしたら一番効率的に結果が出るかということを考える癖をつけてきたのです。
たとえば、いすみ鉄道では国鉄形のディーゼルカーを走らせています。
この原点にあるのは個性でもアイデアでもありません。
廃車前提の車両を安く導入して、とりあえず走らせることならいすみ鉄道の力でもできる。
まして、国鉄形であれば全国区ですから、九州で育った人も、四国で育った人も、東北で育った人も、皆さん若いころに乗った思い出がある車両ですから、初めていすみ鉄道にいらっした方でも「懐かしい。」と思っていただけるわけで、「懐かしい。」と思っていただけるということは、いすみ鉄道沿線の景色を含めた列車が走る風景全体が、その人にとって大切な場所になると考えたからです。
国鉄形ですから、全国どこにでも走っていた車両で、ということは「個性」でもなんでもないんですね。
強いて「個性」と言うとすれば、すでに全国の路線から姿を消して久しいですから、時間差で「個性的」ととらえられているだけなんです。
話を水戸岡先生のデザインに戻しましょう。
私は水戸岡先生と直接お会いしてお話をしたことが一度ならずとありますが、水戸岡先生がおっしゃるには
「私はJR九州の仕事で儲けさせていただきました。だから減価償却を終わったデザインを、利益を得る目的じゃなくても地域鉄道に提供することができるんです。できるだけ地域鉄道に利益還元したいと考えています。」
先生はこのようにお考えでいらっしゃいます。
つまり、地域鉄道に対しては利益度外視で協力してくれるんです。
そして、そのデザインはすでに定評があるわけですから、地域の偉い人たちにも納得いただけるわけで、だから全国的に水戸岡先生のデザインの列車が走るようになったと思うのです。
さて、個性という点の話をするとすれば、観光鉄道に個性は果たして必要なのでしょうかと私は考えます。
個性教育を受けた方々は「同じものが走っていてもつまらない。」と思われるでしょうが、30代以下の方や50代以上の方にとってみたら、同じデザインの車両が走っているということは、ある意味安心するのではないでしょうか?
たとえば私よりも年上の人たちの感覚で言えば、日本の鉄道は昔から全国どこへ行ってもほとんど同じデザインだったわけです。
国鉄なら東京でも大阪でも同じ車両でしたし、田舎へ行けば煙を吐いた機関車が客車を引く姿も、その客車の座席配置や内装などもすべて同じだったわけですから、どちらかというと今のJRが「個性」を出そうとして様々な車両を走らせていることに違和感を感じます。
若い人はというと、コンビニやファミレスで育ってきていますから、日本全国ほとんど同じデザインで統一されているようなもので、ファミレスであればシステムもメニューもわかっていますから、旅先でも安心感があります。入ったことのないスタイルのお店に入るのは予算的にも不安になりますから、特に観光地では若い人たちは敬遠するのです。
そういうことを考えると、すでに観光鉄道の車両デザインとして広く認知されている水戸岡先生の車両が走るということは、少なくともお客様の基本的な期待には応えられると思いますし、鉄道マニアは別として10人中8人が「いいね」と言ってくれるわけですから、とりあえず公的資金をつぎ込んで走らせる地方鉄道の観光列車としては、正しい選択なのではないかと思います。
一番肝心なのは、見かけではなくて、サービスの内容でどうやって「個性」を出すかということです。
最初のうちは物珍しさも手伝ってそこそこお客様にいらしていただけると思いますが、高い金額をかけて導入する観光車両を、継続して集客していくかというとこは、第3セクターを運営する公務員気質の人たちには絶対にできないことですから、そこのところで山田社長さんのお手並みが拝見できるのではないでしょうか。
そして、それが個性なのだと思います。
私が就任するずっと以前からいすみ鉄道の沿線の魅力を見出して、応援していただいているKさんが(今日は名前をあえて伏せましょう。昨日のブログには出演していただいておりますが・・・)
「こんど乗りに行きますね・・・来たためしが殆ど無い
保存して欲しい・・・維持費がどれくらいかかるかご存知ですか?
平日も走らせて欲しい・・・現在平日にレストラン列車が走ってるのにその人の画像がFB上に載らない・・・
言うのはタダですからね・・・」
このようにFacebookで訴えてくれていますが、確かにその通りです。
皆さん言うだけの人がほとんどで、なかなか実際には来てくれません。
でも、私はローカル鉄道をビジネスとして考えていますから、そういう人たちが実際に来るかどうかや、一度来てくれた人がまた来てくれるかどうかは「歩留まり率」だと思っていますし、車で来てくれるだけでも地域にお金が落ちるでしょうし、キハ52が走っているから「いつか行ってみたい。」と思ってくれるだけで、その人にとっての希望になるでしょうから、ローカル線としての役割はあると思います。
あとは、できるだけたくさんの方々にいらしていただくためにはすそ野を広げる必要があると思いますから、その点では水戸岡先生の観光列車は、即戦力になるのではないでしょうか。
何度も申し上げますが、導入した観光列車をどうやって使っていくか。どうやったら長い時間お客さんが絶えない列車にしていくかというところが鉄道会社に問われているということなのです。
山田社長、おめでとうございました。
おもしろい企画を期待しております。