地域鉄道の生きる道 その2

地域にある程度の人口がなければ、鉄道会社が輸送業務だけで会社を維持することはできないというお話をしました。
例えば、昨日「地域鉄道フォーラム」で講演されたひたちなか海浜鉄道の吉田社長さんが活躍する茨城県のひたちなか市の人口は15万人。お隣の水戸市は27万人です。
これだけの人口がある地域であれば、地域鉄道の再生方法として、「地域の足として沿線住民の役に立つ」ことで、活路を見出すことができます。
これに対して、フォーラム会場で私の隣に座っていた秋田県の由利高原鉄道の春田社長さんが活躍する由利本庄市の人口は8万3千人です。
おそらく、地域の足として成り立つにはかなり厳しい条件で、降雪を考えるとコスト的には厳しいでしょうが、その分、地域の期待も大きいのではと考えます。
ところが、いすみ鉄道沿線の人口はというと、いすみ市が約4万人。大多喜町が約1万人。
2つ合わせても5万人ちょっとですから、路線長がほぼ同じ秋田県の由利高原鉄道と比較しても、いすみ鉄道の方が経営環境が悪い。つまり、地域輸送だけでは将来に向けた活路を見出すことは困難な鉄道ということになるのです。
好むと好まざるとにかかわらず、これが現実です。
私は、いすみ鉄道に就任した時点で、このことに気づいていました。
ですから私は、いすみ鉄道を維持するためには東京から観光客に来てもらわなければならないと考え、ムーミン列車や国鉄形気動車など、観光ツールをいくつも展開しているわけです。
さて、ここで皆様方に考えていただきたいのは、「観光」ということについてです。
観光は今では立派な産業ですが、では、皆さんが住んでいる地域を「観光」でお客様を呼ぼうと思ったら、どのようにPRしますか?
有名なお寺がある。歴史人物が出ている。温泉がある。素晴らしい景色がある。
色々思いつくところはあると思います。
でも、考えて見てください。
有名なお寺があるところは日本中にいくつありますか?
歴史人物が出ているところも、温泉があるところも、日本中にいくつありますか?
観光を産業と考えた場合、都会から観光客に来てもらわなければなりませんから、観光客が来たくなるような「何か」をアピールしない限りは、日本全国の観光地に負けてしまいます。
だから、本当はお寺や歴史や温泉では、新規に観光客を獲得するツールにはならないのです。
いすみ鉄道沿線ではどうでしょうか?
大多喜の人たちは、観光の目玉としては「大多喜城」と答えるでしょう。
でも、大多喜城は遠くから見れば確かにお城ですが、昭和50年に復元したものですから、コンクリート製で中はお殿様がいた当時の姿ではありません。
城下町? 小江戸?
それだったら川越の方がはるかに知名度があるし、行きやすい。
本多忠勝?
確かに初代城主だったようですが、本多忠勝の人生のうち、大多喜にいたのは何年間で、その間どんな活躍をしましたか?
別に私は大多喜の悪口を言っているわけではありません。
大多喜が、観光としてお客様を呼ぼうと思ったら、お城や城下町や歴史ではツールとしては弱いし、第一、そのツールで来てくれるような人たちは、もうすでに来ていますから、新規顧客の開拓はできないということです。
では、いすみ鉄道はどうでしょうか?
「ムーミン列車」
これはいすみ鉄道だけです。いすみ鉄道に来なければ、他にはありません。
「昭和のキハ52・キハ28」
これも日本全国探しても昭和の国鉄形ディーゼルカーに当時のままの姿で乗ることができるのはいすみ鉄道だけです。
これが、簡単明瞭でわかりやすいいすみ鉄道のPRポイントです。
だから、新規顧客の開拓ができるわけです。
地元の人たちは不思議でしょうがないけれど、ムーミン列車も昭和のキハも、別にいすみ鉄道じゃなくても、他のローカル線で走らせても観光客は来ます。
それが、ツールというものだからです。
でも他ではやっていない。
だから、年間10万人も乗車するし、写真撮影だけなら、年間30万人以上(多分)来てくれるわけです。
そこで重要なのは、新しくやってきた人、つまり初めてのお客様に、もう一度来てもらうための、リピーターになってもらうためのツールが必要だということ。
初めて来てもらうことはとてもハードルが高いことですが、リピーターにつなげれば、継続してもらえるわけです。
とりあえず、きっかけはいすみ鉄道のムーミン列車やキハでも、来ていただいた人に、もう一度来てみたいと思ってもらわなければならない。
そのツールになるのが、大多喜町やいすみ市に残る自然や人情、おいしい食べ物であり、そこで初めて、お城だとか、城下町、お寺、といったことなわけです。
お城や城下町だけでは人が呼べないけれど、お城や城下町は、ローカル線には必要なアイテムで、やっぱり、良い景色を演出してくれるし、おいしい食べ物は、また来ようと決意する重要はファクターなわけです。
お客様は、ムーミン列車やキハに引かれてやってくる。
だけど、いすみ鉄道沿線は、温暖で豊かで、半端じゃなく良いところなわけです。
だから、また来ようとなる。
そういうシステムを、いすみ鉄道は作り出しているということなのです。
だから首都大学東京で観光を専門に教えていらっしゃる矢ケ崎先生でさえ、いすみ鉄道に魅せられて、毎日、いすみ鉄道のムーミン列車のことを思って、「また今度行こう!」とわくわくする毎日を送られていらっしゃるのです。
先日、「三方よし」というお話をさせていただきました。
地元の人も観光でいらっしゃる人も、いすみ鉄道のお客様としてニコニコしていただける。これが1つ。
観光のお客様が来ることによって、地域が活性化し、地域貢献できる。これが2つめ。
そして、地域の足としてのローカル線が、結果として守られる。これが3つめ。
いすみ鉄道は同時にこの3つに貢献している。
これが、「三方よし」ということなのです。
そして、もう一つ必要なのは、社長である私のコントリビューションに対する評価をもう少し高くしなければいけないということでしょうかね。(笑)
どうです、皆さん。
わかりやすいでしょう。
でも、地域の人たちが、今言ったことを理解するのは、たぶん期待できないかもしれませんから、私は、もう少し別の方面への活躍の場を開拓しようと考えています。
(おわり)