NO SHOW PAX 対策

NO SHOW(ノー ショウ)というのは予約をしていてもいらっしゃらないこと。
PAXというのはPASSENGER、つまりお客様のことです。
これは航空会社の用語の一つで、お客様がチェックインカウンターに現れることを SHOW UP というところから来ていると思います。
私が航空会社時代に一番神経を使ったのが、このNO SHOW PAX対策です。
お客様が NO SHOW するということは、予約をしておきながら空港に来ないわけですから、簡単に言うと座席が無駄になります。
座席だけでなく機内食も無駄になりますし、他にその便に乗りたくても予約が取れなかった人がいることを考えると、本当に乗りたい人が乗れるチャンスをつぶしていることにもなります。
それを防ぐために、航空会社ではオーバーブックといって、座席の数以上に予約を取ったりします。
時間帯や路線、時期などにもよりますが、例えば、あらかじめ5人ぐらいは来ないことを見越して、50席のビジネスクラスに55人の予約を入れたりするわけです。
何人ぐらい来ない人がいるかということを考えながら予約をコントロールするのは、かなり専門的な職務ではありますが、実にいい加減な仕事でもあるわけで、その証拠に、50席のビジネスクラスに51人目のお客さんがいらっしゃることなどしょっちゅうです。
お客様は航空券を購入して、目的地へ向かうために空港へ来るのですが、座席定員以上にお客様が空港にいらっしゃってしまった場合、空港職員から、「実は、座席がないんです。」と言われることになります。
私は、空港でフライトの責任者をしていましたので、私の仕事は、こういう時に、お客様に「実は・・・」ということでした。
そうするとお客様は、一瞬「?????」となりますが、すぐに状況を察すると、目の前で火山が噴火して、プンプン怒りはじめます。
エコノミークラスのお客様は、所持している航空券が予約変更ができないタイプのものがほとんどですから、たいていの場合、すべての都合を飛行機に合わせて、何とか間に合ように、予約便に乗り込めるように空港にやってきます。
そうしないとせっかく購入した航空券が紙くずになってしまうからですが、ビジネスクラスの場合は予約変更できるタイプの航空券が多いですから、とりあえず予約だけ入れておいて、自分の都合を優先させるような場合には、航空会社に連絡もせずに空港に来なかったりするわけです。
空席待ちなどという制度があるのも航空会社独特で、結局、NO SHOWのお客様がいるから、空席待ち、すなわち予約がないお客様が飛行機に乗れたりするわけです。
これは、航空業界の商習慣の一つですから、オーバーブックが良いとか悪いとかを議論しても始まりませんから、空港の責任者としては、いかに1席の空席も出さずに飛行機を出発させることができるかという力量を問われるわけで、どんなにお客様が怒ろうがクレームしようが、
「オーバーブックは航空会社のポリシーです。」
などと、平気な顔をして言っているわけですが、時として予約したお客様が全員空港に来てしまうようなことがあると、賠償金を払って次の便を手配するなど、お客様のケアをすることになります。
こういうことは国際線の専売特許だった時代が長く続きましたが、最近では国内線でもオーバーブックをさせている便があるようで、時々、搭乗口で、
「次の便への変更にご協力いただけるお客様は、〇〇マイルをさしあげます。」
というようなアナウンスをしているのを聞いたことがある方もいらっしゃると思います。
こういう商売のやり方は、JRなどでは絶対にありえないことで、新幹線でも寝台でも、同じ座席に2人以上のお客様が現れたりすると大変なことになりますね。
JRなどではチェックインというシステムがありませんから、座席の数がそのまま予約の数となるわけで、その代わり、予約しておいて(切符を買っておいて)その列車に乗らなければ、指定席やグリーン車などの料金部分は帰ってこないシステムですから、その点を考えると、鉄道会社は堅実でまともな商売で、航空会社はヤクザな商売であるともいえるのではないかと思います。
さて、予約をしていてやってこない NO SHOW のお客様に対して、予約がなくて来てしまうお客様を GO SHOW と呼びます。
GO SHOW の場合は、航空会社として何ら輸送の約束(予約)をしているわけではありませんから、乗れようが乗れまいが、目の前でお客様が怒ろうがクレームしようが、何ら責任を感じたり心理的負担に思うことはないわけです。
最近では少なくなりましたが、飛行機に運用制限がかかる場合があって、例えばその日の気温だったり、滑走路の長さであったり、目的地までの距離であったりと、様々な制限が課せられるような場合は、座席に空席があってもお客様を乗せることができない場合があります。
こういう時は、たとえ30席、50席と空席があったりしても、GO SHOWのお客様を乗せることができない場合があるのですが、そういうさまざまな運用上の制限は、お客様にはご理解いただけませんから、予約がない人から怒られたりする場合も多々あるのですが、こちらに落ち度はありませんから、どんなに怒られようが気楽なものですね。
ところで、そういう仕事を長年やってきた私が、いすみ鉄道でいろいろなイベント企画をする場合に、いつも考えているのが、この NO SHOW PAX 対策。
予約をしておいて、当日、集合場所や約束の時間に来ない人に対しての対策です。
例えば、イタリアンランチクルーズや伊勢海老特急などの高額商品を予約して、当日 NO SHOW されたらどうなるでしょうか。
こちらとしては、高額なお料理やお酒、お土産品を用意してお客様をお待ちしているのですが、当日、約束の時刻にお客様がいらっしゃらないで NO SHOW されると、その時点でお料理のキャンセルはできませんから、大きな損失が発生することになるのはお分かりいただけると思います。
実際に、先日行った「キハカレー列車」でも、予約をしていながら当日姿を現さないお客様が3日間で10人ほどいらっしゃいましたし、31日のビール列車でも3名ほどいらっしゃいました。
伊勢海老弁当などの予約でも、お電話で予約しておきながら、当日何の連絡もなく来ない人が過去に何人もいますし、そういう人に連絡を入れてもたいていは知らんぷりで、違約金の請求書をお送りしても、まず振り込んできたためしがありません。
こういう時に私が考えることは、そのお客様に悪意があるとかないとか、意図的に来なかったのか、何らかの不可抗力で来れなかったのかを判断することではなくて、会社として損失を最小限に食い止めることですから、高額商品であるイタリアンランチクルーズ列車などの予約に関しては、電話などでは一切受け付けず、すべてインターネットで受け付けることによって、ご予約と同時に決済を済ませていただくことが予約確定の条件になるような仕組みを作っているわけです。
よく、いろいろな方から、電話で予約を受け付けてほしい、当日支払をしたいというご要望をいただきますが、すべてお断りさせていただいているのはこのためで、
こうすれば、そのお客様が当日来なかったとしても会社としての損失はありませんし、そのお客様がお申込みいただいた商品は、「〇月〇日限定」ですから、それに乗らなければ、予約は無効となりますから、払い戻しも不可となるわけです。
昨今では、国際線の割引エコノミー切符や、国内線の特割など、予約変更ができず払い戻しもできないような商品が一般化していますから、こういうことはご理解いただけていますし、「同意しない」のであれば、お申し込みをしない、つまり、そういう商品を購入しなければいいのです。
(旅行商品は、キャンセルされる時点で、その時々での利率によるキャンセル料が発生します。また、当日無連絡でいらっしゃらない場合の返金はありません。)
これに対し、お盆期間中に運転を行ったキハカレー列車のような価格の安い商品は、電話での申し込みや、当日払いの申し込み方法も可能にしたことから、気軽にお申込みいただくことができたようですが、そういうやり方だと、NO SHOW率が当然高くなります。
私は、このカレー列車ではNO SHOW率が高くなることを当初から見越していましたので、出発直前に切符売り場で当日売りを行って、NO SHOWで空席ができた分の食材を無駄にしないように利益の確保に努めました。
中には、走行中の列車の中で、「食堂車に空席がございます。」とアナウンスをして、GO SHOW PAXを募ったこともあり、ラッキーなお客様は予約なしで食堂車の旅をお楽しみいただけたわけですが、カレー列車のような低価格な商品であれば、GO SHOWでも十分にお客様がいらっしゃるであろうと予測して、クレジットカード決済以外での予約受付を行ったのです。
昨日のビール列車でも、ビール飲み放題コース、ソフトドリンクコースは電話予約も、当日払いも、当日のGO SHOW申し込みも受け付けましたが、おつまみ弁当付のコースに関しては、豪華なおつまみ弁当の仕入れが発生しますから、NO SHOW を防ぐために事前決済方式としたのです。
キハカレー列車やビール列車など、商品を考える場合には、損失を出さないように考えるのはもちろんですが、当日、発車ギリギリまで、一人でも多くのお客様をお乗せするための販売方法というのも考えなければ、最大限の利益を得ることはできないわけですが、そういうことは航空会社時代に私がさんざんやってきた、最も得意とする方法ということです。
そして、現在のいすみ鉄道の営業企画課は、そういう仕事をやってきたプロが集まる最強集団であるわけです。
今度のイタリアンランチクルーズは9月8日。
おかげさまで満席をいただいておりますが、どうしたら空席待ちやGO SHOWを受け付けることができるか、今後に向けて現在思案中であります。