ETCは直りましたね。

昨日から静岡県ではETCが故障しているというニュースでもちきりでした。

今日の午後、新東名と東名を通って千葉へ戻りましたが、ちゃんとゲートを通れましたので、おそらく直ったのでしょう。

高速道路会社は「利用者の皆様方に多大なご迷惑をおかけして申し訳ございません。」などと釈明していましたが、なんで「多大なご迷惑」なのでしょうか?

それは、ETCゲートが使えないために数少ない緑の一般ゲートを通らなければならなかったからだと思いますが、その考え方がおかしいのではないかと私は思います。

だから、機械が壊れたことで多大なるご迷惑をおかけしたのではなくて、機械が壊れたにもかかわらず、会社として料金をいただこうとしたことによって混乱したことが、多大なるご迷惑をおかけしたということだと思います。

航空会社の話ですが、昔は航空券というものがありました。
いわゆる切符です。飛行機に乗るための切符。
名前、性別、利用区間、便名、日付、支払った料金などが書かれた紙の切符で、国際線は赤いカーボンコピーのもので、お客様は空港のカウンターでこの航空券を提出して、引き換えに搭乗券をもらうシステムでした。

私たちチェックインカウンターの職員は航空券、パスポート、預託手荷物の内容物の確認、重量計算、機内持ち込み手荷物の確認、注意事項、座席の希望(窓側通路側、禁煙喫煙など)、いろいろやら聞かなければならないことがありまして、混雑する時間帯などはてんてこ舞いです。
中には他人の航空券や有効期限が切れた航空券を持ってくるのもいましたし、荷物の重量がオーバーしていて超過料金がかかったり、希望の座席が取れないなどなど、いろいろ文句を言ってくる人もいるわけで、そういう対応をしていると、ともすれば航空券をいただくのを忘れることがあります。

チェックインの担当者が気づいて、出発前に搭乗口でお客様を呼び出して「すみません、航空券をもう一度確認させてください。」と言ってもぎることもしばしばですが、時として飛行機が出発した後で気が付くこともあります。

そうなると大変なんです。
なぜかというと、その航空券の種類によってはもう一度飛行機に乗ることができちゃいますからね。
乗ったにもかかわらず払い戻しもできちゃうのですから。

チェックインの係の職員が上司から怒られるのです。
「何やってるんだ。」
ってね。

そんな日々を過ごしていたある時、予約の部長さんがこう言いました。

「鳥塚、航空券がなくなったらお前さんどう思う?」

「そりゃ、結構なことですよ。もぎり忘れなんてなくなるから、チェックイン係も余計な心配しなくてよくなりますから。」

「そうだよな。航空券なんてものがあるからいけないんだよ。無くしちゃえばいいんだよな。」

「そんなことできるんですか?」

「あぁ、今、本社ではそんなことを考えているらしい。システムが強化されれば、航空券のデータをシステムに入れることができるから、いちいち紙の切符なんて発券しなくたってよくなるんだよ。」

今から30年前、私がまだ30代の頃の話です。

なんのことはない、今でいう「E-チケット」のことなんですが、その頃は「航空券がなくなる?」「システムに入る?」など、チンプンカンプンでした。

しばらくして本社から正式に「E-チケット」の話が来まして、でも、当時はまだシステムが今のように盤石でなく、何しろ個人向け携帯電話が出始めた直後の時代でしたから、航空会社のシステムもよく止まるんです。

航空会社は世界標準時で仕事をしています。
システムの入れ替え時間は通常午前0時。
今でもJRの予約システムは真夜中に更新していますから使うことができませんが、世界標準時、つまりイギリスの時間で午前0時に毎日のようにシステムの更新が始まって、何分間も、時には数十分システムが動かないんです。

でも、その時間は日本時間で午前9時。
世の中が動き出した時間で、空港でもチェックインが佳境に入っている時間です。

そんな時に午前9時の時報と共にシステムダウン!

お客様の航空券情報も引っ張り出すことができなくなるのです。

だから、私は本社から新しく導入する「E-チケット」の説明に来た会社の幹部の人に訪ねたのです。

「システムが動かなくなって、お客様の情報が引き出せなくなったらどうするのですか?」

と。

するとその会社の幹部はこう言いました。

「お客様が『予約を持ってる』と言うのであれば、飛行機に乗せてあげなさい。」

「でも、それじゃあ、航空券を買ってない人でも飛行機に乗れちゃうじゃないですか。」

すると、彼は、

「良いじゃないですか。そういう可能性は確かにあるし、もしもそういう人がいたとしても、そのリスクは会社が取るべきですから。」

つまり、E-チケットを導入することで会社が得られる利益があるわけです。
紙の航空券を廃止することや、発券した航空券を回収する手間。
スムーズなチェックイン、そしてマンパワーの削減。

そういう会社が得られる利益があるわけですが同時にシステムダウンというリスクがある。
そのリスクを考慮したうえで、それでも会社がシステムを導入するというのであれば、そのリスクは会社が負うべきだという考え方ですね。
いわゆるBCPです。

システムを導入した。
そのシステムが動かないことによる損害をお客様に負わせてはいけない。
今から30年以上前に航空会社としてはそういう結論に達していたのです。

でも、日本の高速道路会社はシステムが動かない時でもお客様に通常通り料金を払ってもらおうとした。
ここが、私が考えるに、日本の会社が欧米に比べて考え方という点で30年遅れているということです。

結局、最終的にはETCが動かなければそのまま通行してください、という取り扱いになったようですが、日本人はまじめな国民ですから、何か変な不公平感があるように思えてなりません。

「何人(なんびと)たりとも通行料金を免れることはまかりならん。」

そんな風に感じますね。

別にいいじゃないですか。
システムが壊れちゃったんですから、そのリスクはシステムを導入した会社が取ればいいんです。

なぜなら、そのシステムを導入したことによる大きな利益は会社が享受しているのですからね。

こういうことも日本人にBCPという考え方が普及しない一員なのではないかと思うのです。
おじさんたちは別として、若い人たちにはもっとフレキシブルになっていただきたいなあと思うのですが、皆さん、大丈夫ですよね。

昔話で恐縮ですが、私が若かったころ、それでもかなり衝撃的だった「お客様が予約を持っているというのであれば、飛行機に乗せてあげなさい。」と言われた話を思い出しました。

▲私が40代の頃乗ってたベンツ。
高速道路をブイブイ走ってました。
(写真と本文は関係ありません。)