ピーチの真実

ピーチの飛行機が那覇空港で間一髪、重大事故を免れたという報道があちらこちらでされています。
危機一髪とか、間一髪とか、そういう表現は、航空業界には適しているのかなあと私はときどき思うのですが、なぜなら、電車だったら何らかの事情で運転士が手を放しても自動的に止まればよいのですが、飛行機の場合は、運転士が手を放しても止まることはできませんから、私は、飛行機の運航は常に危機一髪の状況にあると思っています。これはバスも同じで、走行中のバスの運転士が注意をそらした瞬間に大事故につながるわけですから、常に危機一髪の状況にあって、事業者はそういう認識なんですね。
ピーチはLCCですから、新興の格安航空会社です。
一般の皆様や報道関係者の方々も、まずここに注目していると思います。
そして、「だから」とか、「やっぱり」とかいう冠詞を付けて物事を考えるのではないでしょうか。
今回の報道でもそのような意見が見られますが、私はあまりそういうものの見方はしたくありませんし、そのようには考えないようにしています。
例えば、先日から言われているように、ピーチはパイロットが不足していて、向こう数か月間で何百便もが欠航するということが大きな話題になっています。
何百便も飛行機が欠航するなんて、とんでもない会社だというイメージが広がっていると思いますが、報道というのはそういうもので、意外性があって、庶民の気を引いて、驚きや怒りを喚起するようなモノでなければニュースにはならないんですね。
モノの見方を変えるという点で、こう考えてみるのはいかがでしょうか。
例えば1人の機長が1か月に20日間乗務するとして、短距離路線ですから1日5本のフライトを飛ぶとします。(スタンバイを含めて)
そうすると1人の機長が1か月に飛ぶ便数は100便になりますね。
向こう3か月で考えると300便を飛ぶことになります。
報道が、例えば向こう3か月間で700便が欠航するという言い方をしたとして、私が考えるのは「機長の数が2~3人不足している」ということなんです。
でも、「機長が2人足りません。」と言ったのではニュースになりませんから、「向こう3か月間で700便が欠航します。」という書き方をするわけで、良識ある国民の皆様方は、そういう報道を鵜呑みにしてはいけないということなんですね。
パイロットというのは長い養成期間が必要です。
鉄道の運転士だって、いすみ鉄道の場合は独り立ちするまでに2年。一人前になるまでに5年は必要だと考えていますから、パイロットの場合、1人前の機長になるまでには10年も15年もの時間を要するわけです。
ところが、航空業界というのは世界の経済動向に大きく左右される業界で、大手の航空会社でも5年先はどうなるかわからない状況です。
そういう会社が、10年15年先を見据えてパイロットを確保しなければならないのですから、これは大変な話なんですね。
事実4年前に日本航空が経営破たんした時には、仕事がなくなったパイロットがたくさんいて、その時に余裕のあった会社は、日本航空で仕事がなくなったベテランパイロットをたくさん確保することができましたから、ずいぶん安い買い物ができたんですね。
私の知り合いでも何人ものベテラン機長が、日本での仕事を失って、台湾などの外国の航空会社で今も飛んでいますが、LCCができ始めたのは3年程前ですから、こういう人たちを確保できなかったんです。
で、どうしたかというと、外人パイロットを雇うのです。
外国にはパイロットの人材派遣会社がいくつかありますから、会社はそういうところへお願いをして、パイロットを派遣してもらっています。
海外では航空会社に所属しないプロのパイロットの人たちがたくさんいて、例えば私が前にいた会社の場合は機長の定年が55歳でしたから、55歳になったら機長は飛ぶことができなくなります。そうすると、人材派遣会社に登録をして、バンコックや香港ベース、あるいはインドベースで機長として再び飛び始めるのです。
今回のピーチの件は4月の中旬ごろにパイロットの不足が表面化しましたから、想像する限り、おそらく、派遣されていた機長のうち数名が契約更新しなかったんじゃないかと思います。
そういう機長が2~3人出て、会社としては予定外だったんじゃないでしょうか。
だから、4月から便数を減らさざるを得なくなったのでしょうね。
では、なぜ派遣されてきている外人の機長が「俺、辞めるよ。」と言うかといえば、機長を求めているところは世界中にたくさんあって、派遣元の会社にはいろいろな地域から求人が来ています。
インドやタイ、マレーシア、中国など、航空需要が旺盛な国ではベテランパイロットが不足しています。
昭和50年代ごろまでの日本もそうでしたが、外人の機長に日本人の副操縦士がついて飛ぶことで、そういう日本人の副操縦士が、何年かかかって1人前の機長になっていったんですが、今、新興国と呼ばれる地域では、まさにそういう時代で、優秀な外人機長の需要が高い状況にあります。
そういう点を踏まえて日本のLCCに勤務するということを考えてみると、日本は英語がほとんど通じませんから、例えば家族や小さな子供がいる機長さんとしては、生活面での不安が残ります。自分の子供を英語で授業を受ける学校に通わせることができないとか、奥さんどうしのコミュニケーションができないなどという問題で、意外に本人にとっては悩みの種だったりします。
もらえるサラリーだって、かつてのように外人だからといって破格の待遇というわけにはいきませんから、インドやタイと比べても大して変わりません。
例えばインドは英語圏ですから、英語での教育や生活には全く問題ありませんし、タイやマレーシアは物価が安いですから、同じサラリーならば生活が楽ですし、会社から支給される住居なども日本に比べたら格段に素晴らしい。
私たちから見たら、「インドなんて行きたくない。」という人がたくさんいると思いますが、グローバルに見たら、インドは魅力的なところなんです。
そういう中で、2年や3年の契約で日本のLCCで働いていた外人機長さんたちが、契約更新の時期を迎えて、「俺、辞めるよ。」となってもおかしくないんですね。
LCCは運賃では新幹線や高速バスと競合していますが、経営環境では世界中との競争なんです。
ところが、こういう報道はほとんどされていませんから、LCCイコール安い、イコール「危ない会社」というレッテルを貼られることになりますし、そういう書き方のほうが新聞の読者やニュースの視聴者も「そうだそうだ」と共感しやすいというのが日本人というマーケットの特徴だということなんです。
今日の時点で私があえて申し上げるとすれば、明日から始まるゴールデンウィークの後半は、飛行機旅行に不安が残る人は、近場の日帰り観光地へお出かけくださいということで、いすみ鉄道などは最適なのではないでしょうかね。
銚子電鉄、ひたちなか海浜鉄道、いすみ鉄道と、日帰りシャトルを3日間すれば、遠くへ行かなくても結構充実したGWになること請け合いですから。
皆様のお越しを、ローカル線一同、お待ちいたしております。
(つづく)