くにざかいの長い鉄橋を渡ると夜の町が眠っていた。
汽車は駅に停まった。
この駅でしばらく停車するようだ。
ホームに降りると先頭の機関車からスチームが立ち上っている。
寒い国へ向かう夜汽車にボクは乗っていた。
夜汽車。
一晩中走り続けて、朝になったら遠い町にたどり着いている汽車。
硬い座席で決して快適とは言えないが、学生の身分では寝台車などに乗れるはずもなく、硬い座席以外に選択肢はない。
でも、なぜかこういう夜汽車が、ボクは実は好きで、毎年のように乗っていた。
時間つぶしにホームを歩いていると窓越しに美女がいるのに気が付いた。
文庫本でも読んでいるのだろうか。
窓の外には全く目もくれずにひたすら夢中に手元を見つめている。
ほう、こんな窮屈な汽車旅を女性もするのか。
ボクは不思議な気持ちになった。
もし彼女がこの寒い夜に窓を開けて身を乗り出して「駅長さ~ん」と叫んだら、きっと駒子に違いない。
でも、窓を開けてるのは後ろの座席のおじさんで、彼女ではない。
とすると、一心に手元の本を読んでいる彼女は、この寒い汽車でどこへ向かうのだろうか。
彼女は駒子ではなくて、もしかしたら純子かもしれない。
だとすると、
もし彼女が時任純子だとすれば、この汽車の行く先にある北国の雪原で命を果てる運命にあるはずだから、ボクは何としても彼女を引き留めなくてはならない。
でも、どうやって。
「はい、まもなく発車します。車内にお戻りください。」
車掌の声が深夜のホームに鳴り響いた。
ボクもあわてて車内に戻ると、汽車はゆっくりと動きだした。
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30分も走ったろうか。
汽車はまた深夜の駅に停車した。
どうやらまたしばらく停まるらしい。
彼女はどうしているだろうか。
一つ隣りの車両に居るはずだ。
そう思ったものの、客車を覆う温かなスチームの湯気に囲まれて、いつの間にかボクは深い眠りに落ちて行った。
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「社長さん、ですよね?」
その声に私は我に返った。
気が付くと目の前にあの美女が立っていた。
午前3時半。
年越し夜行列車の対応をしていたのに、ついうとうとしてしまったようだ。
「今年もお会いできました。ありがとうございます。」
「・・・・・・」
私がポカンとした顔をしていると、美女は
「去年の大晦日もお世話になったんですよ。」
思い出した。
確かに去年の大晦日の夜行列車にも彼女は乗ってくれていた。
「そうでしたね。ありがとうございます。」
私がそう返事をすると彼女はにっこり笑って、
「もう5回目です。大晦日の夜行列車。来年も企画してくださいね。」
「もちろんですよ。来年もやりますよ。」
「来年は大阪に転勤なんです。でも、大阪からでもすぐだから来ますね。」
そう言って彼女は列車に戻って行った。
そうか、5回目の大晦日か・・・
いや、待てよ。
大晦日の夜行列車って413系が来てからだから確か3回だったような。
そして今年の1回。
だとすると合計4回のはずだけど、5回って言ったよなあ。
あと1回はいつだったんだろう。
う~ん
ひょっとして、私はどこかであの美女と1回大晦日をすごしているのかもしれない。
だとすれば、こりゃあ、おおごとだ。
と、なんだか頭の中がぐるぐると回転した今年の元日の早暁でありました。
あと1回の大晦日って、いつだろう・・・・
うちのママにバレたら叱られるから内緒にしておこう。
内緒ですよ。
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お正月休みもあと2日。
皆様どうぞごゆっくりとお過ごしください。
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