内部経済効果と外部経済効果

鉄道というのは人や物を目的地まで運ぶのが仕事です。
この国の鉄道は150年の歴史がありますが、特に国鉄の路線というのはそういう使命のもとに建設されました。

これに対して私鉄のビジネスモデルは国鉄とは違っていて、まず土地を買ってそこに鉄道を敷き駅を作る。駅前の宅地開発をして不動産として販売する。そうすることで買った土地が値上がりをして利益が得られます。
その住宅地に住む人たちのためにバスを走らせ、スーパーマーケットを作り、ターミナル駅には百貨店を建て、終点近くには遊園地などのレジャーランドを建設する。
あるいはホテルを建てて運営するなど、鉄道のお客様にいろいろとサービスを提供することで自社の内部に経済を生み出すビジネスモデルです。

これを内部経済効果と呼びます。

でも、このビジネスモデルは大都市圏の私鉄では有効かもしれませんが、地方ではなかなかできることではありません。地方都市の経済規模を考えるとそういうビジネスはそれほど大きなものではありませんし、特に第3セクター鉄道ともなると、地域で不動産、バス、タクシー、スーパーマーケット、百貨店、ホテルなどを生業としている事業者さんがたくさんいますから、「鉄道会社も同じようなビジネスをやります。」と言っただけで、「民業圧迫だ」というような話になって、大きな問題が発生します。

地方都市では鉄道会社が自分の会社に内部経済効果を取り込むビジネスはできないのです。

では、どうしたらよいかというと、鉄道会社が看板となって地域に人が来る仕組みを作れば、沿線地域にお金が落ちますよね。
観光がその一番の良い例で、例えばトキめき鉄道の雪月花で考えると、雪月花のお客様は上越地域に用があって乗っている人はほとんどいません。
この地域には何の用もないけれど、雪月花という観光列車に乗ってみたくてやってくるわけで、雪月花が広告塔となって地域に人がやってくる。
地域に人がやってくれば当然経済効果が生まれます。

雪月花で提供するお料理やお酒を発注する。お土産品が売れる。宿泊をする。食事をする。そこでお客様に沿線の良いイメージを持ってもらうことができれば、そのお客様はリピーターなって何度も来てくれますし、東京や大阪での日常生活の中で「新潟県産」という表示を見かけたら手を伸ばしてくれるようになります。

これが経済効果なんですが、その経済効果は大手私鉄のビジネスモデルのように鉄道会社に入るものではなくて、会社の外、つまり地域にお金が入ることになりますから、これを内部経済効果に対して外部経済効果と呼びます。

地方の鉄道にはそういう外部経済効果があって、鉄道があることで地域に利益をもたらすことができれば、それはインフラとしての一つの使命ではないか。

私は前職時代からずっとそういうことを申し上げて来ていて、鉄道会社としては赤字かもしれませんが、地域全体を黒字にすることはできるのではないか。
それがインフラとしての企業の一つの使命ではないかと考えて実践してきたのです。

ということが、先日青森県五所川原で開催されましたフォーラムの席上で、国交省の田口芳郎参事官が基調講演ではっきりとお話されていらっしゃいますので、ここで限定公開版の動画をご覧いただきたいと思います。(最下段にリンクがあります。)

地域鉄道が地域にもたらす効果を外部経済効果という。
地域鉄道を企業会計原則に基づいて「赤字」「黒字」と判断して、赤字だから廃止という議論でこの国は長年にわたって思考が止まっている。
地域鉄道だけに企業会計原則を当てはまることは間違いである。
たとえJRであっても、きちんと支援しなければならない。
そのために国も力を貸す。
今までは、地域鉄道の経営状況の悪化に対して、地域住民も行政も国も、みんな「見て見ぬふりをしてきた。」
もうそういう議論は卒業して地域全体に外部経済効果をもたらす地域鉄道をきちんとサポートするべきだ。

このようにおっしゃられています。

私としては「どこかで聞いたような話だなあ。」と思うのですが、国交省の幹部が言うと実にもっともらしく聞こえるから不思議です。(笑)

今年は地域鉄道を取り巻く環境が大きく変わりましたが、この田口参事官の講演を聞く限り、私は地域鉄道の将来は明るいと感じます。

もちろん鉄道会社が地域に外部経済効果をもたらす存在になること。そして地域が見て見ぬふりをしないことが前提となりますが。

地域鉄道に企業会計原則を当てはめて「赤字」「黒字」を議論することは、すでに幼稚な議論になっていると私は思います。

これが今年一番大きく変わったところではないでしょうか。

何度も言いますが、そのためには鉄道会社が地域に利益をもたらす存在であるということを、きちんと沿線の皆様方にご理解いただくだけの計画と実行が必要なのは当たり前のことですから今のJRでは到底対象外だと思いますし、外部経済効果をもたらしている地域鉄道はまだまだ数えるほどしかないと思います。

https://www.youtube.com/watch?v=QrqtXLXduhU&t=1s

そういえば只見線の星賢孝さんが言ってましたね。
只見線は赤字でも、只見線があるから世界中から人が来る。
それしか生き残る術はないんだ、と。


(只見線運転再開時のNHKニュースより)