おいしいものを食べるお仕事

観光のお仕事をしていますと、おいしいものを皆様方に提供させていただくことになります。

そういうおいしいものがどこにあって、どのぐらいのお値段で、どういうサービスの仕方をしているかということを知ることが勉強といいますか、それをしないとお仕事になりません。

10年前にローカル鉄道の車内でレストランをやろうと考えたときには、まだななつ星が走り始める前でしたから、日本全国でそういう発想はほとんどありませんでした。

そんな時私が参考にしたのは自分が長年培ってきた航空会社の国際線のサービスでした。
それに、私の子供の頃の思い出である房総半島の伊勢海老、アワビ、サザエなどの海の幸を融合させたら化学反応が起きるのではないかと思いました。

以前にも書きましたが、私の父方の祖母は勝浦の興津の出身で、東京で所帯を持っていましたが、空襲が激しくなったため、昭和7年生まれの父を連れて自分の実家である興津に疎開しました。
私の父は中学、高校と房総半島ですごした人間でしたが、私が子供の頃はおばあちゃんも健在でしたので、まだ汽車が煙を吐いていたころですが、両国から汽車に乗って勝浦のおばあちゃんちに遊びに行っていました。

おばあちゃんの実家は漁師で、本家の爺さんは伊勢海老漁をしていました。
おばさんは海女さんで、素潜りでアワビやサザエをとっていました。

私は毎年夏休み、だいたい2週間ぐらい滞在していましたが、本家は民宿もやっていましたので、週末に父の友人たちが東京から訪ねてくると夕食のお膳には伊勢海老やアワビ、サザエやお刺身類が並びます。
おじさんたちは小躍りするように喜んでお料理を平らげていましたが、子供心には「なんでそんなものが嬉しいんだろうか?」と不思議な光景に見えました。

そういう経験があったから、伊勢海老特急なんてことを考えて実行してみたのです。
いろいろとハードルは高かったんですが、やってみるとテレビや雑誌がバンバン来るし、いつもいつも満席になりました。

お料理の出し方もイタリアンにして、大きなお皿に伊勢海老をのせて、ワイングラスを傾けながらフォークとナイフでいただくようにしましたが、こういうスタイルは国際線のファーストクラスの機内食サービスのものです。

まぁ、こんな感じで、結局のところ、仕事というのは自分の想像力が働く範囲内でしか実現できないわけで、幸いにして私にはそういう想像をめぐらすことができる経験があったということです。

雪月花も同じですね。
田舎の観光列車って、とても難しいんですよ。
なぜならば、プロデュースするのが田舎の人で、お客様は都会の人ですから、田舎の人が最高のサービスだと思っていても、都会の人から見たら「ふ~ん」で終わってしまうからです。

特に第3セクター鉄道の場合は公務員と鉄道会社生え抜きの人たちが幹部に居ますから、そういう人たちが都会人を満足させることができるかというと、これはまったくそうではありません。

簡単に言うと、国際線の飛行機に乗ったことはあるかもしれませんがせいぜい団体旅行のエコノミークラス。
よほど旅行が趣味じゃない限りは、全世界、あるいは全国津々浦々を飛び歩いた経験がある人は皆無です。
コンシェルジュが居るようなホテルを定宿にした経験も無ければ、豪華なお料理といえば職場の団体旅行か結婚式のごちそうぐらい。
おやすみの日には家族で近隣のファミレスに出かけるのがせいぜいでしょう。

まぁ、それが世間的には普通の人なんですが、そういう普通の人たちが、都会人の皆様方が喜ぶような観光列車の、何万円もいただくようなサービスを組み立てて、企画して、商品化していくということは、まずできません。

では、どうして雪月花が成功したのかというと、それは雪月花を立ち上げた前社長の嶋津さんが、藤田観光という会社のご出身で、フォーシーズンズホテルを日本でライセンス契約するなど、若いころから世界を相手にビジネスを展開してきた方だからです。

オレンジ食堂を立ち上げた当時の古木社長さんも東京で旅行会社を経営されていて、世界中を飛び回られた経験がある方です。

では、そういう人ならできるかというと、そう簡単ではありません。
自分が常日頃からいろいろ経験をして、その経験を活かしていくことはもちろんなんですが、実際にお料理を作って、お客様のサービスをするのはほとんどの場合は社長ではありませんから、雪月花の場合は第一線で活躍されていらっしゃる方々にプロデューサーやアドバイザーと呼ばれる役職についていただき、こちらの趣旨をきちんと伝えて、そういう商品組み立てをしていただいているのであります。

雪月花は嶋津前社長のそのようなリーダーシップできちんとしたサービスの形になり、さらに熱心にサービスを組み立て、実証してきたアテンダントの努力が実って、リピーターの皆様方に喜んでいただき、すでにコロナ以前の数字を超える実績が出ていますが、私も嶋津社長さんの考え方を踏襲し、プロデューサーやアドバイザーの方々にご指導をいただいて、東京や大阪などの都会はもちろんですが、広く全世界からのお客様にご満足いただけるサービスを提供させていただいているというところです。

では、そのようなプロデューサーやアドバイザーと一緒にお仕事をさせていただく場合に、私なりに注意をしていることがあります。
それは、常に勉強をしなければならないということです。

いつもFacebookをご覧いただいていらっしゃる皆様方はご存じだと思いますが、私はだいたいいつも缶ビールと芋焼酎の水割り。
それも、銘柄は毎日ほとんど同じです。
食べ物も、取り立ててグルメではありません。
時として夕食は魚肉ソーセージなんて日もあるぐらいです。

いつも同じお酒を飲んで、同じものを食べている。
出張や旅行へ出かけても、その土地のおいしいものを食べたり、地酒を飲んだりということもせず、コンビニでいいや、って思います。
基本的にこれで十分満足なんです。

でも、そういう人間が、プロデューサーやアドバイザーの皆様方にいろいろお願いをしたり指示をしたりすることはできませんよね。

だから、「日々これ勉強」ということで、知らないお店に行って、知らないものを食べてみたり、今、ブームだと聞けば、女子に混じってわらび餅ドリンクなどを飲んでみたりするのです。
そして、世の中にはおいしいものがたくさんあるんだということや、世の中のトレンドというものを勉強しているのでありますが、まぁ、これがまたなかなか大変なのです。

何が大変かって?
そりゃ、お仕事でおいしいものを食べるのは、皆様方から見たらうらやましいと思うでしょう。

でもね、私は年齢的にもあまりおいしいものを食べてはいけないお年頃でありますし、お腹周りももっとへこまさなければならないのであります。

さらに、大赤字の3セク会社ですから、社長には交際費も研究開発費も何もありません。
すべて自分のポケットマネーで勉学に励んでいるのでありまして、私が一生懸命勉強すればするほど、私のお財布は痩せていき、体重は増えていくという悪循環が起きているのであります。

ということで、今日もたくさん勉強しました。
結局、仕事って、その人が持っているキャパ以上には広がりませんから、自分のキャパを広げる努力をしていかない限りは、発展性が無いのです。

だから、毎日毎日、勉強ですよ。

人のお金で勉強したのでは勉強が身に付きませんしね。

いやぁ、勉強って大変だなあ。

一生懸命勉強したので、今夜は芋焼酎がおいしいのであります。