地場産品の高付加価値化

聞くところによると、明治初期の新潟県は日本で一番人口が多い所だったらしい。

明治20年の新潟県の人口は165万人だそうで、同じ年の東京都の人口は132万人でしたから、新潟県がどれだけ人口が多い所だったかはお分かりいただけましょう。
ちなみに当時の日本の人口は3900万人でした。

今の新潟県の人口は220万人。東京都は1400万人。
日本の人口は1憶2600万人です。

ではなぜ明治時代の新潟県は人口がこれだけ多かったかというと、お米がとれたからでしょう。
お米だけじゃなくてお酒も野菜も魚もたくさんとれた。
それだけの人口を食べさせていくことができたのです。

反対に東京は米がとれない。魚も江戸前だけだし、生産ができない武士や役人のような人たちが長年食い扶持を牛耳ってきていましたから、東京は人々を食べさせていくことができなかったということです。

明治になって日本海側で初めて鉄道が敷かれたのも新潟県。
直江津から太平洋側を目指す信越本線がちょうど同じころの明治19年に関山まで開業しましたから、それだけ国も新潟県に力を入れていたということです。

明治時代は米がとれる新潟県は日本の食糧庫だったということですね。

では、今の新潟県はどうかというと財政危機が表面化していますし、人口の流出も止まりません。毎年2万人が県外へ出て行ってしまっています。
つまり、いくら米がとれても魚がとれても、それだけで県民を食べさせていくことができなくなってきているのではないかと私は思うのです。

なぜなら、農業や水産業のような第1次産業などは所得が低い業界とされているからです。
だから、若者たちがそういう仕事につかない。
とれたものをそのまま出荷することが基本ですから、周辺に産業が起きないのです。

お米は大事ですが、今の時代は北海道だっておいしいお米がとれますから、つまりコンペティター(競争相手)がたくさんいるのです。

新潟のお米はおいしい。
新潟のお酒もおいしい。
新潟の魚もおいしい。

でも、青森のお米も北海道のお米も負けず劣らずおいしいし、お酒は何も新潟じゃなくたって、山口だっておいしいし、第一、日本酒そのものの需要が減っているのですから、つまりコンペティターは他県だけじゃなくて、他の酒類にも及んでいるのです。

なんと言ったって、お米も魚もお酒も、一番おいしいのは東京ですからね。
大間のマグロは青森県じゃ食べられないのと一緒です。

では、どうするか。
私はそういった「地場産品にどうやって付加価値を付けるか」が問われていると考えています。

例えば前職の時に「伊勢海老列車」というのをやりました。
今から8年ぐらい前ですかね。

当時、房総半島で伊勢海老列車をやると言ったら、皆さん口を揃えて、「なぜ千葉で伊勢海老なんですか?」「伊勢海老は三重県でしょう。」と言われました。
でも、千葉県は伊勢海老の漁獲量がとても多くて、大原漁港は全国有数の伊勢海老の漁獲高を誇っていたのです。

実際に私の祖父は伊勢海老の漁師でしたからね。

でも、そんなことは誰も知らない。
なぜなら千葉県の人は獲れた伊勢海老を東京へもっていくだけでいくらでも売れますからね。
それで満足しちゃってたんです。

当時の伊勢海老の価格は1キロ7000~8000円ぐらいでしたかね。
ということは1匹2000円前後じゃないでしょうか。
それを東京に運ぶのが仕事です。

でもって、東京の人はどうするかというと、その1匹2000円の伊勢海老をおいしそうに調理して5000円にも1万円にもしてしまうのです。
つまり、料理をすることは伊勢海老に付加価値を付けることでありまして、上手に付加価値を付けることが出来さえすれば、お客様だけじゃなくて調理をする側も「おいしい思い」ができるのですが、伊勢海老を東京へ送っているだけだと、そのおいしい部分を全部東京に持っていかれてしまうのです。

だから私は伊勢海老列車をやって、地元にお金を落としてもらう仕組みを作ったのですが、おかげさまで大きな話題になり、「千葉県といえば伊勢海老ですね。」と思ってもらえるところまで来たと自負しておりますが、これがすなわち地場産品に付加価値を付けるということなのであります。

新潟県も同じで、「お米がおいしいですよ。」と言ったところで「だからどうした。」と言われかねません。
そうじゃなくて、新潟のお米でおいしい料理を作って、新潟ならではの味わいを提供するようなことをしなければ、おいしいお米などどこにでもあるのです。

新幹線の駅にあるお土産物屋さんでたくさんお酒が並んでいますが、売れていますか?
今の人は日本酒飲まないし、第一重いでしょう。

東京の人というのは東京駅や上野駅に着いたらそこにお家があるわけではありませんし、駅の駐車場にマイカーを止めてあるわけでもありません。
山手線や京浜東北線に乗り換えて、さらに私鉄に乗り換えて、私鉄の駅から歩いたりバスに乗ったりして帰るのです。
そういう人が新潟の駅で日本酒を買うと思いますか?
日本酒を買ったがために駅から家までタクシーに乗っちゃったりしたらバカらしいでしょう。

じゃあ、宅配でお願いするかというと、宅配なら家でネットで注文した方が送料だって安いわけですから、お土産というのも変わってきているのです。

じゃあ、どうするかというと、地場産品に付加価値を付けるしかないのであります。

どういうことかお解りになりますか?

石破茂さんが良くおっしゃっている、「今だけ、ココだけ、あなただけ。」がポイントでしょうかね。

そういうことをしていかないと、米だって酒だって魚だって、おいしいものはどこにでもあるし、東京には世界中からおいしいものが集まってきているのですからね。

ということで、私はトキめき鉄道で心ときめくような付加価値を付けているのです。
お解かりになりますよね。

単なる輸送を売っていたのでは今の時代はJRだって先が見えているのですから。


▲思わず買ってしまったお土産。

なんでも商売にする商魂は見上げたもんだ。