お金はあとからついてくる。

生き馬の目を抜くような都会のビジネスとは違い、田舎の、公的な役割のある会社ではたとえ株式会社と言えども、地域にどうやって貢献するのかということが問われます。

「お前、赤字の会社の社長が何を悠長なことを言ってるんだ。」という方々もいらっしゃるとは思いますが、では公共交通機関である鉄道を営利目的で経営して良いということになれば、トキめき鉄道の場合、高田から直江津まで1人1000円ぐらいになるかもしれませんし、それと同時に経費の削減をすると、列車の本数も半分ぐらいにして、編成も短くしましょう。
そうすれば運賃収入が増えて経費が減りますから黒字になるでしょう。
ということになりますね。

「でも、そんなことしたら乗客が減りますよ。」
ふつうに考えたら当たり前ですよね。

では、乗客が減ったらどうしたらよいのかというと、また値上げでしょうね。

「1人1000円で赤字なら1人2000円でいかがでしょうか。」

相手はきっとこう言うに違いありません。

「ありえないんですよ、そういうことは。」
と私は言おうもんなら、

「社長、あんたは経営というものがわかってないね。よく勉強しなさい。」

「でも、そんなことをしたらかえって乗客が減ってマイナスですよ。」

「減るかどうかはやってみなければわからないじゃないか。」

「いえいえ、日本の田舎の鉄道は、過去40年もそういうことをずっとやって来て、線路がなくなっているんですよ。」

とまあ、だいたいどこの鉄道もこんな感じなわけで、鉄道会社はお役所以上にお役所的だと言われるゆえんがそこにあるのですが、私のような公募で選ばれた人間の場合は、それにもう一言付け加えられるのです。

「だからあんたを選んだんだ。」と。

つまり、「この会社を黒字にできなければあんたは要らない。」ということなのでありますが、
「それでは、私はそろそろお暇いたしますので、あとは皆様で思う存分やってみてください。」と言うようなことは、60を過ぎたおっさんが年下の偉い人たちに向かって言う言葉ではありませんから、「ふふ~ん」と言ってかわすしかないのでありますが、つまり、そういう人たちは基本的にお金の性格を知らないのだと私は思うことにしています。

お金の性格を知らないから、身の回りからお金がどんどん逃げて行って、財政が厳しいとか言ってる割には、ではどうしたらお金が増えるかということにはまったく無策で、だいたい国鉄という所は、運賃値上げ、本数削減、料金も値上げ、サービスカットと連続してお金に嫌われることばかりやってきたのでありますから、私はシンプルに考えてそういうことはやらないのであります。

直江津のレールパークに地域のちびっ子たちがやってきました。
駅長さんに案内されて
「わ~い、デゴイチだ!」
とみんな大喜びです。

営業部が頑張って駅近の2つの小学校の校外授業の一環として、全校生徒にレールパークの見学コースを組み込んでもらいました。

各学年1クラス程度ですが、それでも年に一度みんなが見学に来るとすると、年間12回ですね。
沿線地域の幼稚園や小学校のちびっ子たちが毎年一度レールパークにやって来るとなると、年間50回ぐらい見学会が行われていることになります。
ほぼ毎週ですね。

近隣の子供たちですから、もちろん無料です。

「社長、何でお金取らないの?」
と、お金の性格を知らない人たちなら言うでしょうね。

そりゃあ、取った方が売り上げにはなりますから、「儲かるでしょう。」という人の気持ちは理解できます。
でも、私も営業部長も駅長さんも、「もちろん無料でしょう。」と言うのです。

その理由は、まず第一に営業日ではありませんからD51は動きません。
汽笛もなりません。
転車台でぐるっと回ることもありません。

つまりきちんとしたサービスを提供できないのであればお金は取れないというのが考え方の基本にあります。
でも、そんなことは大義名分のための理屈であって、本当は違うのです。

こうやってレールパークを見学して、お絵かきをした子供たちは、お家に帰ったら何と言うでしょうか。

「今日はトキ鉄でデゴイチ見たんだよ。」
「大きかったよ。」
「真っ黒だったよ。」
と描いた絵を見せながら、お父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃんにお話しするでしょう。

もともと沿線は鉄道の町と言われてるのですから、大人たちは皆、かつては鉄道に親しんでいて鉄道に愛着を感じていた方々ばかりです。
そういう地域で、帰ってきた子供たちが目をキラキラ輝かせながら、「デゴイチ凄かったよ。」「かっこよかったよ。」と言ったら、大人たちはどういう気持ちになるでしょうか。

おじいちゃんなんか、「昔はトンネルに入ると窓を閉めてね。」なんて話を目を細めてするでしょう。

「そういえば、最近駅に行ってないなあ。」
「今はどんな列車が走ってるのかなあ。」
などと考えているところへ、目を輝かせた子供や孫が、
「ねえ、今度レールパーク連れてってよ。動いてるところが見たいから。」と言ったら、大人たちはどう思うでしょうか。

「そうだな、行ってみようか。」

となるでしょう。

これがお金があとからついてくるということなのです。
子供料金を無料にしたら、大人がやって来るのであります。

もちろんレールパークの入場料だけじゃないですよ。
入場しなくても通路や柵の間からいくらでも見れるのですから、お金を払わない人だってたくさんいると思います。

でも、たとえ直接的に収入に結びつかなくても、D51が居るというだけで、用もない人が久しぶりに駅に来てくれるというだけで、ありがたいじゃないですか。

なぜなら昔は必ず駅に人が集まるという社会システムになっていましたから、皆さん久しぶりに駅に来るといろいろ考えたり思い出したりするでしょう。

地域の人たちが会話の節々に駅の話やD51の話が出るようになれば、それだけでトキ鉄としてはありがたいことだと私は思います。

だって、皆さんふだんの生活の中で鉄道も駅も関係ないのですから。

でも、よく考えると、駅がにぎやかだったころは駅前も町も元気だったのです。
今、駅がシーンとなってしまって、駅前も町もシーンとしています。

私は鉄道会社の社長として、駅をにぎやかにすること。駅に人が集まる仕組みを作っているのです。
そうすれば、きっと駅前も町も活気を取り戻すのではないか。

それが、地域に公的なサービスを提供する会社の役割なのではないかと考えているのです。

こうするとお金はあとからついてくるのです。

たぶん。
きっとね。