急行列車のダイヤ設定の裏話

別に裏話というわけではないのですが、って裏話ですけど、急行列車のダイヤ設定には裏がありまして、真意をご理解いただきたく思います。

まず、はねうまラインの快速。

朝8:43に直江津を出て妙高高原を往復して10:35に直江津に戻るダイヤですが、はねうまラインは単線のため、ダイヤに空きがなく、土休日に二本木止まりの列車を延長する形で妙高高原まで走らせています。このダイヤでしたら東京から「はくたか」の始発に乗ってくれば間に合います。

でも、それだけではなくて、実は、妙高山というのは麓から見た場合に、午前中が順光で午後になると逆光になるのです。だから、朝の空気が澄んだ時間帯が一番きれいに見える時間帯でありまして、その時間帯が撮影に最適だからなのです。

そして、朝のこの時間帯に乗車したり撮影したりするのであれば、基本的には前日から宿泊するのが楽ですから。
つまり、地域に宿泊客を呼び込みたいというのが朝の快速ダイヤです。

そして直江津に戻った列車は、今度は急行列車になって市振へ向かいます。

直江津-糸魚川間をよく見ると、急行1号は54分かかっています。
折り返しの急行2号は糸魚川-直江津を49分。
急行3号は直江津から糸魚川まで48分かかっています。

この区間は通常の普通列車で42分ですから、急行なのに普通列車より遅い設定です。

これはいわゆる「急いで行かない列車」でありまして、途中徐行したりするという観光的要素を含んでいるのですが、いくら徐行したとしても54分はかかり過ぎだよね、と、時刻表を見ていると思われるでしょう。

そのからくりは、昨日ご乗車いただいた皆様は体験されたと思いますが、途中駅で運転停車があるのです。

急行1号と3号は能生で約15分。急行2号は能生で1分、名立で約15分。
時刻表に載っていない停車駅ですから運転停車です。

ところがこの運転停車というのは観光列車としての運転停車ですから、ちょっと意味合いが違います。
ふつうは運転停車というと反対側から来る列車を待ち合わせしたり、時間調整をしたりする運転取り扱い上の停車であって、ドアを開けて旅客の取り扱いはしないものです。
でも、観光列車としての運転停車はこの駅での乗降はできませんが、ホームに降りて深呼吸をしたり、つかの間の休息を楽しんでいただきたいというのが目的です。
そして、この能生駅と名立駅は、地元の皆様方がとても熱心に駅の美化活動などをされていらっしゃる駅なものですから、将来的にはこの15分間の停車を利用して、地域の皆様方がお弁当やお菓子、お土産品などを売りに来て、乗客との交流を楽しんでいただこうという停車時間なのです。

今はまだコロナの影響がありますが、地元のおじさんおばさんたちはもうじき2度目のワクチン接種も終わるでしょうから、そうしたらいろいろ楽しい駅にしていただきたい。そんな意味を込めた運転停車なのです。


雨の能生駅での運転停車。
乗客はホームで撮影中です。
このホームが地元住民の皆様方との交流の場になる予定です。

そうすると、能生で15分、糸魚川で14分停車しますから、沿線を車で回って撮影される方も、スピード違反しなくても十分に追いつく時間だと思いますから、片道で2~3回シャッターが切れる。
そんな電車が2往復したら、けっこう撮影効率が良いでしょう。
片道1回ずつしか撮れない列車よりも、たくさん狙えますからね。

つまりどういうことかというと、それだけ地元での滞在時間が長くなる。
地元で滞在が長くなれば、ご飯を食べたりコンビニに寄ったり、地元に貢献しやすくなるということです。
鉄道会社がどうして撮り鉄に配慮するのか?
不思議に思われる方もいらっしゃるでしょうが、第3セクター鉄道というのはそういう地元貢献のお役に立つという役割もあると私は考えます。

ではなぜ急行3号が市振まで行かずに糸魚川で折り返すのでしょうか。

実は、折り返しの急行4号は、バル列車やビール列車などのイベントに使用できるダイヤなのです。
つまり、糸魚川の停車時間中に準備をして、営業開始。
直江津までお酒を楽しんでいただいたり、あるいは糸魚川から直江津に来て、もう一度臨時の「呑兵衛列車」として糸魚川を往復することもできるダイヤになっています。この夏は、このダイヤでビール列車を計画しています。

でも、不思議なことに、急行4号の糸魚川-直江津間の区間所要時間は28分です。
お酒を飲んでゆっくり楽しんでもらおうというのなら、ゆっくり走ればと思うでしょうが、この急行4号だけは「急いで行かない列車」ではなく、韋駄天のように走り抜けて、往年の国鉄急行形電車の走行をお楽しみいただける列車にしているのです。

その理由は、一番最後まで残って乗車していただくお客様へのサービスです。
やっぱり急行列車はカッ飛んでこそ急行ですから、モーターを唸らせて28分で糸魚川から直江津まで走り切る圧巻こそが、往年の急行列車の再現なのです。

ちなみに昭和40年代後半の電車特急はこの区間を29分で走っていましたから、当時の特急に匹敵するダイヤなのでありまして、糸魚川駅を出ていきなりフルノッチで加速するシーンは、乗っていて鳥肌が立ちますよ。

昨日の場合は、急行3号までは多くのお客様に乗車していただきましたが、この急行4号になると乗客数が減って、昨日は約60名でした。
昨日はその60名様だけが、鳥肌物の韋駄天走行を体験されたのであります。

でもって、直江津駅一番線に到着後、車両は18時過ぎまで入換をせずにそのままで停止していたのに気が付かれた方もいらっしゃるでしょう。
あれは、バル列車として運転した場合、到着しても、そのまましばらく飲んでいても良いですよというロスタイムを設定しているのです。

昭和40年代後半の東北本線時刻表です。
仙台を23:20に発車する寝台急行「新星」の時刻表に
「仙台では寝台を21:55から使用できます。」の文字が。

この「新星」は仙台発上野行の寝台急行列車。
でも、もともと仙台-上野間は所要時間が短く、「新星」は翌朝5時半に上野駅に到着します。
そういう列車なので寝台を利用する出張のビジネスマンなどのお客様に少しでも長く寝てもらおうと、当時の国鉄は発車時刻の1時間半近く前から、「どうぞ乗ってください。ごゆっくりお休みください。」とやっていたことを思い出しまして、バル列車を運行する日には、到着してもしばらくの間、「ゆっくり飲んでいてくださいね。」というサービスをしようと、こういうダイヤ設定になっております。

昭和40年代というのは、国鉄もなかなか粋なサービスをしていたのですから、これも時代考証なのです。

ということで、昨日の日曜日は「妙高」と「越後」でしたが、次の土曜日はどんなヘッドマークになるかな。

ヘッドマークも、土曜、日曜、その他の運転日ということで、各種用意しています。
その日によって名前が変わる列車ですから、時刻表には急行列車の名前がないのです。

何度も来なけりゃダメですよ。

という仕掛けです。