エスキモーに冷蔵庫を売る商売

昨日のブログでちょっと触れましたが、私が目指している商売は「エスキモーに冷蔵庫を売る商売」です。

あるいは「エスキモーに氷を売る商売」という言い方をする人もいますが、
エスキモーは寒い所に住んでいますから冷蔵庫は要りませんね。
エスキモーは氷に囲まれた地域に住んでいますから氷は買いませんね。

そういう人たちに冷蔵庫や氷を売るということは、つまりは要らないものを売るということです。

要らないものをどうやって売るのか。
ふつうに考えたら難しいと思いますが、それはふつうに考えたらの話で、そんなふつうのことをやっていたのでは人より抜きんでる商売はできません。ましてや今までさんざんやって来てどうにもならんという状態のローカル鉄道ならなおさらです。

皆さんは商売というものは「必要なものを売ること」だと思っているかもしれませんが、「必要なものを売る商売」というのは、例えば毎日使う日用品や食料品などですが、そういう商売はどうですか? 価格の競争で毎日とても難しい商売をしていますよね。
だから私はそういう商売はしない方が良いと思っているのです。

では、要らないものを売る商売とはどういうことでしょうか。

実は今からもう40年も前の話ですが、私が飛行機に乗っていた時に教官がいろいろなことを教えてくれたのです。その一つが価格の競争をしない商売をしろということ。
小型機の免許を持っていて趣味で飛んでる人というのは当時からいましたが、たいていはお金持ちでした。当時のお金で1時間3万円も5万円もする飛行機を趣味で飛ばしているのですから、お金持ちの人が多い。そういう人たちが飛行場にやって来る時にはだいたい左ハンドルですね。たいていはベンツ。なかにはポルシェやフェラーリーに乗ってくる人もいます。
当時の私は風呂なしのボロアパートに住んでいる身でしたから、そういう車で来る人達を見て、「すごいですねえ。ああいう高い車に乗る人はどんなことを考えているんでしょうね。」と言うと、教官は「ああいう人に車を売るのって簡単なんだよ。」と言うのです。

私が「????」という顔をしていると、「カローラやサニーに乗る人って、『もう少し値引きしてくれたら買うんだけどなあ』とか言うだろう。でも、ポルシェを買う人たちはそんなことは言わないんだ。安くしたら逆に買わない人たちだよ。」と諭すように言いました。

貧乏学生には知る由もない顧客心理でしたが、「フェラーリ―なんか日本で10台も売れればいいんだから、そういう人たちがどこにいるかだけわかればよいんだよ。」

つまり、今の言葉で言うと「ピンポイントで需要を取りに行くこと」なんですね。

「フェラーリ―を買う人は値引きなんか求めない。」

確かにそうですが、当時の私の常識では高いものほど値引きをしてもらって買うべきだろうというような考えでしたから衝撃的でした。

そして、「日本に10人もいれば商売になる。」ということも衝撃でした。

あの瞬間に私の商売に対する考え方が新しい方向に行ったのだと思います。

今から10年以上前の前職時代に「700万円払ったらあなたも運転士になれます。」という自社養成乗務員訓練生の募集をしたときも、周囲の人たちは皆「何を考えてるんだ?」「700万も払って応募する人間などいるはずない。」と言っていて、中には私の失脚を待ち望んでいるような関係者もいましたから「そんなことをして誰も応募者がいなかったら社長、どうやって責任取るんだ?」などと言う人もいました。
でも、私は教官に言われたように「募集定員は4人。日本全国に4人いればいいんだから全然問題ない。」と考えていました。

700万円が高ければ600万円なら来るのでしょうか?
そういう問題じゃないんですよね。

そしてふたを開けたら20人以上が有料説明会に応募してきて、結果として優秀な人材4人を採用することができたのは皆さんご存じの通りです。

トキめき鉄道でも「夜行列車」から始まって「線路の石の缶詰」など基本的には要らないものを売ると話題になって、たくさん売れます。

「夜行列車」は昔は寝ている間に目的地へ移動するという便利な列車でしたが、今は時代が変わりましたので「夜行列車に乗って一晩かけて目的地へ向かう。」という需要はなくなりました。でも、「夜行列車に乗ってみたい。」という需要はあると私は考えます。
だから、直江津発、直江津行の夜行列車を運行したら1BOX18000円の価格にもかかわらず20BOXが即時完売する状況です。

つまり、観光と言うのは極言すれば「要らないものを売る商売」でありまして、だから今回のコロナのようなことがあると「不要不急」として真っ先にやり玉に挙げられてしまうことになるのですが、だったら値引きや安売りなどする必要がなく、言い値で売れる売り手市場の商売になれるのではないかと考えるのであります。

直江津駅で見ることができる不思議な光景。
雪月花のお客様が停車中に駅弁を買うのです。

雪月花のお客様というのは列車の中でおいしいお料理やお酒をお召し上がりになられている方々です。そういう人にとっては駅弁は要らないものです。
でも、その要らないものが売れるんです。

どうしてでしょうか?
お腹一杯の人がなぜ駅弁を買うのか?

それは、今では珍しい立ち売りだからです。

駅のホームで「弁当、弁当」と言っていると、ついつい買ってしまう。
これが付加価値というものです。

つまり、要らないものを売る商売というのは、その商品にいかに付加価値を付けるかということが問われるのであって、それにはきちんとした戦略がなければ無鉄砲と言われてしまうのです。

できる人にしかできない商売。
できない人にはいくら頑張ってもできないのが「要らないものを売る商売」だと私は考えます。

そうそう、ここにもいましたね。仕事ができる男が。
伊勢海老料理を食べているレストラン列車のお客様に向かって停車中に駅弁を売って完売するのですから、大したもんだと思いますよ。