商売のターゲット

何か商売を始めようという時に考えなければいけないのが「ターゲット」。
つまり、どのような人をお客様にするか、ということです。
例えば、いすみ鉄道であれば、少子高齢化で地元の利用客がじり貧となる中で、新しいお客様を地域外に探さなければなりませんから、ターゲットは首都圏に住むムーミンファンの女性であったり、鉄道が好きな人であったり、ローカル線に興味がある皆様方を商売の相手、お客様として考えているわけで、その方々に観光でいらしていただくための、ムーミン列車や、キハ52、キハ28を走らせることが、個々の戦略なわけです。
では、一般的に見て、これから商売を始める人がターゲットとして考えるにふさわしいお客様は、どうやって探せばよいのしょうか。
ごくシンプルに考えてみましょう。
世の中にはお金持ちと貧乏人がいます。
これから商売をしようとする場合、皆さんだったらどちらをターゲットにしますか?
お金持ちはお金をたくさん持っているから、いろいろなものをたくさん買ってくれるだろう。
そう考えて、お金持ちをターゲットにした商売が良いのではないか。
貧乏人はお金がないから、買ってくれないよ。
だから、やっぱりお金持ちを相手にした商売が良い。
そう考える人が多いのではないかと思います。
でも、私はその考えは間違っていると思います。
では、あなたがなぜ金持ちを相手にした商売を始めようと思うか。
それはなぜかというと、今、商売を始めようと思っているあなたが貧乏人だからです。
私もまぎれもない貧乏人ですが、以前から世の中の構造というものに興味があるので、世の中や人間をいろいろ見て回っています。
そこで気づいたのですが、貧乏人がなぜ貧乏なのかという最大の理由は、収入以上にお金を使うからであり、金持ちがなぜ金持ちかという最大の理由は、お金を使わないからだ。
私はそう考えることにしています。
つまり、貧乏人は財布のひもが緩く、金持ちは財布のひもが堅いのですから、商売の相手、つまり、自分が販売する品物を買ってくれるのは、どちらの人種かというと、すぐにわかると思います。
私などは家の中に鉄道模型や雑誌、グッズなどがあふれかえっているにもかかわらず、イベントから帰ってくると、両脇に袋をぶら下げている状態ですから、私の財布には「ひも」が最初から存在していないようなものです。
これが、商売を始めるときのポイントであり、ターゲットの設定です。
ところが、商売を続けているといろいろなことがわかってきます。
どういうことかというと、貧乏人は細かなものはたくさん買ってくれるけど、金額が大きな商品は買えないということだったり、金持ちはお金を使うときには半端なくお金を使うということであったり、商売をやっているうちに、「人はどうやってお金を使うか。」ということが見えてくるときがあります。
そうするとターゲットとして見えてくるお客様の層も広がってきます。
これが商売の面白いところで、自分が「これだ」と思った商品を、「この人に」と思ったお客様が買ってくれると、「やった!」となるのです。
そのためには押さえておかなければならない重要なポイントがあります。
それが時代の流れです。
時代の流れと言っても流行を追うことではありません。
流行の傾向を押さえるのです。
例えば、前述の例のように、貧乏人は入ってきたお金を使ってしまうから貧乏人であって、金持ちは入ってきてもお金を使わないから金持ちになれたというのは、世の中の原理原則でありますが、そこに時代の流れという見方を加えてみるとどうなるか。
今、とても厳しい時代であるので、貧乏人はお金を使いたくても使うお金がないわけです。
また、金持ちは、こちらも厳しい時代でありますから、お金はあるけれども使う時間がないわけです。
そういう人たちが今の商売のターゲットでありますから、その人たちに向けて、どういう商品をどのようにプロデュースしていくかを考えていけば、そこに売り上げが上がる隠されたポイントがある。
それが、需要を開拓するということなわけです。
でも、こんな偉そうなことを言っても、私もまぎれもなく貧乏人ですし、世の中の99%の人が貧乏人なわけですから、そういう人たちに喜んでいただかなければ、どんな商売も成功することはありません。
だから大企業は、お金のない人たちにどうやったら商品を買ってもらえるかを、日夜考えていますし、不況の中のデフレ現象もそのあらわれなわけです。
日本は過去50年間で経済的にものすごく成功しました。
みんな、住む家はあるでしょうし、夏涼しく、冬暖かな生活ができるようになりました。
だから、同じ「貧乏人」という言葉も、50年前と今では意味が違ってきていますし、毎日きちんとご飯が食べられるのはもちろんですが、エアコンつきの部屋に住んで、車も乗れて、時には海外旅行もいかれるような人は、自分は貧乏人ではないと思っている人も多いと思います。
でも、私が考える貧乏人の定義は、
「会社から給料をもらえなくなったり、自営の商売を辞めたら食べていかれなくなる人。」
です。
お金持ちというのは例えば株主配当や不動産収入があったり、大きな会社の社外取締役になっていたりして、あくせく働かなくても生きていかれる人たちのことだと私は考えていますから、世の中の99%は貧乏人というわけです。
外車に乗ってるとか、別荘を持っているとか、家賃数十万のタワーマンションに住んでいるとかではないのです。
そういう時代背景を考えて私がいすみ鉄道で展開している商売は、お金があるとかないとかの基準ではなくて、
「いすみ鉄道沿線の風景やローカル線の良さがわかる人だけにいらしていただければよい。」
という商売であり、リッチかプアーかという基準が、いくらお金を持っているかではなく、その人の「心」がどれだけリッチか、ということを問いかけているわけです。
そして、これも今の時代の新しいマーケットの掘り起しであり、需要の開拓だと考えているのです。
いすみ鉄道にいらして、「何だ、つまらないところだ。」とか、「都会と違って職員の態度が良くない。」などといちいち文句を言っているような人は、いすみ鉄道にいらしていただいても面白くないでしょうし、そういう人はいすみ鉄道のお客様にはなれないということなのです。
お金持ち相手の高級品を売る店に、お金のない人が入って行ったら場違いだと感じるでしょう。
安売りのお店にブランドに身を包んだセレブが入って行ったら、「ここは私の来るところじゃないわ。」と思うでしょう。
それと同じことが、いすみ鉄道にも言えるのですが、ただし、それはお金があるとかないとかじゃなくて、その人の心がどれだけ豊かかどうかということ。
何しろ、オンボロのディーゼルカーに特別料金を設定して、なおかつ、途中駅でダラダラと停車するわけですからねえ。
そういうことをいちいち指摘されても、私としては商売の方針を改める気持ちはないのです。