急行列車の小道具

7月4日から走り始める国鉄形の急行電車。

こういうことをやろうとするときには、魂を込めなければなりません。
じゃないと単なる笑いものになってしまいます。

前職の時もやりましたが、国鉄形の車両をJRから安く譲ってもらって、専用の観光列車のダイヤを組んで列車を走らせて鉄道ファンの注目を集めて、ローカル線と沿線地域に集客するなんてことは、鉄男君たちならそこら辺の飲み屋で一杯やりながら誰でも思いつく程度のことでありますね。

ところが、そういう誰でも考えるようなことでも、「じゃあ、やってみなはれ」となるとそう簡単にできることではないということがわかります。

口じゃあ「ヨンマルが良いんじゃないの。」とか「今なら66・67でしょう。」とか言ったとしても、「じゃあ、やってみなはれ」と言われればなかなかできないのが世の常でありまして、そういう時に私が存在する意義があるわけです。

ということで、前職時代のキハに続き、今回は日本で唯一の存在となった国鉄形の急行電車が走るのでありますが、これがまた、なかなかどうして、一筋縄ではいかない。
けっこう大変なのであります。

トキ鉄の急行電車の時代設定は昭和40年代の後半。
SLブームから鉄道百年、そしてSL廃止にかけての頃。
都会からこの色の急行電車に乗って行けば、まだ行った先でSLが走っていた時代がテーマ。
この電車に乗って直江津に来ればD51に会えますよ、というコンセプトです。

国鉄形とか国鉄時代とか、わかったようなことを言ったとしても、「じゃあ、一体いつなんですか?」という所まで詰めていないと笑われるわけですが、笑われないためにはきちんと時代考証をして、魂を吹き込まないといけません。
前職の時はやはりヨンサントウ以降、外房電化の昭和47年7月までというのが時代のコンセプトでしたが、今回もだいたい同じの昭和40年代後半の旅をお楽しみいただこうと考えております。
そして、その時代の魂を吹き込むためには小道具が大きな役割を果たすのことになるのですが、これがなかなか簡単にはいかないのです。

なぜなら昭和40年代後半の国鉄時代というのは、今から50年も前の話でありまして、その50年前のことを体験している人たちは皆さんお爺さんお婆さんになっているのが今の世の中で、では、実際にこういう企画を実行するのが誰かというと、国鉄時代を知らない若者たちなのです。
だから、社長がしっかりと指導して、教え込んでいかないとできるはずがありません。
知らない時代のことを「やれ」というのは酷ですからね。

例えば明治から大正、昭和にかけてのNHKの朝ドラを見ているときに遠くで汽車の汽笛が聞こえるシーンがあります。
そのシーンは大正時代の設定ですから、汽車の汽笛はピョ~であるはずです。
ところが、大正時代なのにボ~ッという音だと「???」ですね。

ハチロクなどの大正時代以前の機関車の汽笛は3室音で、ピョ~という音がしますが、昭和になると5階音(5室)の汽笛になりますから汽車の汽笛はボ~ッなのですが、そういうことは今の人たち、テレビ番組を作っているのは30代から40代の人たちでしょうから知る由もありません。
でも、知らないからと言って適当なことをやると、笑われるのであります。

ドラマでは遠くの汽笛が小道具の一つになると思いますが、国鉄急行電車の場合の小道具の一つはやはり硬券急行券でしょう。

ということで、昨日お知らせした硬券急行券を詳細に解説します。

全12種類ですよ。

誰が作ったかというとトキ鉄の若手スタッフ。
私の使命はこういうことをきちんとできるようにスタッフを育てることでもありますから、今回の急行電車の運転開始にあたり、営業の若手2人を抜擢していろいろと小道具を作らせているのです。
でも、2人とも20代後半から30代前半ですから、国鉄時代そのものを知りません。
鉄道が好きでトキ鉄に勤めてくれていますが、知らないものはできませんから、私と春田さんで一生懸命指導して、ここまでやってきたというわけです。

ではなぜ12種類必要かというと、急行列車の停車駅は直江津、糸魚川、市振の3駅。
お客様が切符を買うシチュエーションを考えてみるとこうなります。


▲直江津駅発売分

急行1号は直江津発糸魚川停車の市振行。
ということは直江津発の大人と子供の2種類が必要です。
そして、その列車で市振まで行って折り返してくる人の分として、市振は無人駅ですから直江津で乗るときに帰りの分まで買っていく人のためのものです。

同様に急行3号は直江津発糸魚川行
今度は糸魚川でそのまま折り返してくる人の分として大人と子供の2種類。
合計6種類が必要ということです。


▲こちらは糸魚川駅発売分

糸魚川から急行列車に乗車する方向けの大人と子供の2種類。
市振で折り返してくる人向けの2種類。
同様に直江津で折り返してくる人向けの2種類。

ということで急行券だけで12種類が必要になるということであります。

でも、ちょっと待ってね。

上の段の右と左、赤い枠を付けたところ。
この急行券は斜めに線が入っているでしょ。
この線は何かというとココを鋏で切り離すところなのです。
切り離すと切符は台形になってしまいますが、そういう台形の急行券はそれだけで子供用となるのです。
この斜めの線で切り離す右側の部分を小児断片と言いまして、わざわざ子供用の急行券を用意しなくても、小児断片を切り離せば子供用になるのですから、1種類で済むのです。

打ち合わせの時に、糸魚川で急行券を買う人の中で直江津や市振からの折り返しを買う人や、急行券を売っている糸魚川駅の分を直江津駅で買う人は少ないだろうから、大人用と子供用の2種類を用意しなくても小児断片付きの急行券を1つだけ用意しておけば済むと私は考えて、糸魚川駅発行の直江津からと市振からの分と、直江津駅発行の糸魚川からの分は小児断片付きのものと伝えたのですが、子供用も用意してしまったということです。

でも、これは仕方のないことで、なぜなら硬券急行券、小児断片なんてものは30前後の職員は知る由もないからです。

一応、私からそっとお忍びで「いすみ鉄道の急行列車に乗ってこい。」と出張命令を出して「行ってきました。勉強になりました。」と報告は受けていたのですが、まぁ、無理もないことでしょう。

つまり、国鉄がなくなって30年以上も経過した今の時代に、「国鉄形急行列車を走らせる。」ということは、おじさんとしては当然のことなのですが、会社としてはなかなか難しいことなのであります。

でも、ちゃんとやらないと笑われるということだけは同じですから、やはりちゃんとやらなければなりません。

それが、魂を込めるということなのです。

でも、ちょっと待ってくださいね。
例えば富山の方から来て無人駅の市振から急行に乗る人や、長岡方面から来て改札口を出ずに急行列車に乗り継ぐ人はどうするのでしょうか。

という疑問を持たれる方もいらっしゃると思います。

そう、12種類じゃ足りないのです。

ということで、追加でこういうのも作りました。

急行券の車内補充券です。
いいでしょ、コレ。
絶対欲しくなるやつ。

トキめき鉄道の急行列車にご乗車される場合は「ホリデーツアーパス」が便利です。

と言いながら、絶対欲しくなる急行券が勢ぞろい。

そう、急行券を持っているお客様が急行券を買いたくなるという仕掛けが私流の商売。
これが、俗に言うエスキモーに冷蔵庫を売るということであります。