経営者というものは孤独です。
いつの世もそういわれています。
孤独とは何か。
だれも教えてくれないからです。
正しくても間違っていても誰も教えてくれない。
じゃあ、どうするか。
自分の中にやるべきこと、やってはいけないこと、正しいこと、間違っていることの基準を持っていなければならないと思います。
私は常にそう思っています。
だって、誰も教えてくれないんですから。
それでも結果を出さなければならないのですからね。
では、それは何か。
経営者に求められるのは、企画力と資金力、そして実行力。
経営で問われるのはこの3つじゃないかと思います。
企画力というのはプランニングですね。
どうしたいのか?
どうなりたいのか?
どういう方向性があるのか?
こういうことを考える想像力ですね。
夢と希望を持つことです。
いろいろな業界で、いろいろなマーケットの状況を見ながら、今、何をするべきか。
タイミングを見ながら、今やるべきことを考えて行くこと。
こういう力がない人はまずは経営者になるべきではありません。
リーダーというのは方向性を示すのがまず最初にやるべきことだからです。
では、次に考えるべきことは何か?
資金力でしょう。
お金がいくらあるかによってやれること、できることが決まってきますから、お金がないのに大きなことを考えても所詮は絵空事。ガキじゃないんだから、そんな夢みたいなこと言ったって誰にも相手にされません。
そして、誰にも相手にされないような人間は、やはり、経営者としては使い物にならないでしょう。
私の場合は最初の企画力とこの資金力は一体だと考えていますから、私が企画していることは、その時点である程度の資金的な裏付けがあったり、目処が立っていたりします。
まずはここまでが経営者の仕事です。
会社の規模にもよりますが、小さな会社になればなるほど経営者が担うべき役割が大きくなります。
「社長、どうしましょうか?」と部下から聞かれて
「お前が考えてくれ。」
とか、
「社長、こうしたらよいと思うのですが。」との問いに、
「お前に任せる。」
とか言ってるようであれば、その人は社長の器ではないし、社長をやるべきではないと思います。
なぜなら社長は会社の頭ですから、頭の中身で勝負できなければ、社長であるべきではないからで、社員がどんどん不幸になって行くからです。
でも、そういう社長さんに限って、やたらにプライドがあって、「俺に意見を言うな!」的な発言をしたりする傾向がありますから、もし、あなたの会社の社長さんがそうだとしたら、今すぐ次の仕事を探し始めることをお勧めします。
さて、企画力と資金力に次いで社長が持たなければならないのが実行力です。
つまり、いったい誰がそれをやるのか?
ということ。
これが意外に難しい。
例えば、魚屋さんがいい魚を仕入れることで評判で、じゃあ、うちは寿司屋もやってみようと考えるとします。
業務拡張、多角化です。
でも、今の仕事の延長線上だから無謀な話でもない。
誰が考えてもよいアイデアだと言います。
資金力も問題ありません。
では何が問題かというと、いったい誰が寿司を握るのか? ということ。
美味しい魚を仕入れることはできる。
お店もあるし、改装資金もある。
で、誰がお寿司を握るの?
これ、意外と盲点なんです。
鉄道会社で言うと、線路の修繕や車両の更新。
どこも半世紀以上も前に敷設した線路だし、車両も相当ガタが来ているから、皆さん更新を考えなければならない。
ローカル鉄道の社長の一番の課題は線路の修繕と車両の更新。
これがここ10年で一番頭が痛いところ。
でもって地域の理解を得てなんとか予算を確保しました。
「これで乗り切れるぞ」と思いますね。
そりゃそうでしょう。
お金のめどが立ったのであれば、あとはやるだけ、買うだけですから。
ところがこれがうまくいかない。
例えば線路の修繕。
コンクリートの枕木にしようか、木の枕木にしようか。
そういうことは線路の状態や位置によって選択すればよいことですけど、問題なのは誰が工事をやるのかということ。
実行する力。つまりは施工力ですね。
ローカル鉄道のような小さな工事はなかなかやってもらえない。
近場で大手が大規模工事をやっていれば、みんなそちらに人員を取られてしまっていますからなかなかやってもらえないわけです。
金さえ積めばできるというものでもない。
車両も同じ。
「では、2両新車をお願いしましょう。」
確かに1両2億円近くするし、2両ともなれば4億円ですから大きな買い物です。
こちらは4億円の車両を購入するお客様です。
でも、いくらこちらがそう思っていても、車両メーカーにも都合がある。
JRの特急列車の新規発注があったり、あるいは政府からの海外向け新型車両の大量発注が入っていたりすると、「2両ですか? ちょっとお時間をいただくことになりますけどよろしいですか?」ということになる。
「で、いつ頃ですか?」
「そうですね。4年先ですね。」
「えっ?」
おいおい、こちらは4億のお客だぞ。
と思ってもそんなことは通じません。
つまり、お金があれば何でもできるというものではない。
となると、今の車両を4年後まで引っ張らなければなりませんし、だとすれば検査をもう一度通さなければならない。
そんなことをトータルに考えてプランニングするのが社長の仕事で、それができないと、部下から笑われるわけです。
「社長、そんなことも知らないのですか?」と。
まあ、私の場合は3セクの社長を10年やってるわけですから大体のところはわかりますよ。
だから、部下からバカにされることはありませんし、逆に「それを実行するのがお前の仕事だろう。」と言ってやりますから。
そう、つまり社長として「お前に任せる」と言えるのはこの実行力の部分であって、決して企画力や資金調達の部分で「どうしたらよいの。」とか、「お前に任せる。」とは言ってはいけないのです。
部下の仕事は、社長から無理難題を吹っ掛けられても平気な顔をして「わかりました。お任せください。」と言うことであって、社長としてはできるはずだと思って言ってるわけですから、そういう時に「できません。」とか「わかりません。」などと言ってはいけないのです。
なぜなら、社長から各部門に降りてくる無理難題を細分化して実施していくのがプロだから。「できません」と言うのは中学生でも言えるわけで、一見できないと思われることを実際にやるのがプロフェッショナルというものだからです。
鉄道会社という所にはこの「できない理由」を探すのが上手な人たちが実に多い。
「無理です。」「できません。」「やりません。」
今、いろいろなことを振り返ってみると、ムーミン列車やキハの導入、イセエビ弁当で京王百貨店に殴り込みをかけて、レストラン列車に発展させて、新型車両も導入して、などなど、この10年間にいろいろなことをやったなあと思うわけですが、それらすべては私がやったわけではなくて、社長である私が企画したことを当時の部下である職員たちが歯を食いしばって踏ん張って頑張ってくれたからなのです。
社内の人間ばかりではありません。
例えば国交省の皆さん。
キハなんてものを走らせるなどということは、当時は言語道断。
「お前は何を考えているんだ。」という世界の話でした。
なぜなら、鉄道システムというのは新しくすることで安全性能が向上すると考えられていましたから。そこへ昭和40年製のものを走らせると言い出したんですから前例がありません。
そんな中で、皆さんプロとして知恵を出し合って、「やってみなされ」と言っていただいたことや、車両メーカーに「窓を開けてくれ」とか「キハの顔を作ってくれ」とか、挙句の果てに「キハ20にしてくれ」などと次から次に無理難題を吹っ掛けて(私は決して無理難題とは思っていませんよ。新しい企画ですから)、それを嫌な顔一つせずに「面白そうですね。やってみましょう。」と言って実行していただいた新潟トランシスという会社の皆様方も、プロフェッショナルとして大きな力を発揮していただいたと思うのです。
この週末にやまぐち号へ行ってきて、こういう素晴らしい車両に乗せていただいて、「ああ、やっぱり実行力がある会社というのは違うんだなあ。」と思いを新たにしたのでありました。
ということで、かつてもそうだし、今のトキ鉄でもそうですが、私はここ10年本当に部下には恵まれているなあと思うわけでありまして、では、次に何をやるかというと、今、トキ鉄ではたくさんの課題を抱えていますが、3年たっても5年たっても解決できていない。
どうしてか。
そのころ私は参加していませんでしたから、なぜ解決していないのかということは知る由もありませんが、一つだけ言えることは、そのやり方でやってきて解決していないのであれば、やり方を変えなければならないということ。
空からお金が降ってくるのなら別ですが、同じやり方をしていたらこれから3年たっても5年たっても解決しませんから。
だから、企画力と資金調達力は私の仕事として、その後の実行力や施工力は、プロフェッショナルにお任せする。(大きい会社になると資金調達も部下の仕事になるのですが、私の役目は禿げ頭を下げることでしょうかね。)
ローカル鉄道の社長を10年もやっているわけですから、できることとできないことぐらいはわかっていますから、私が「やる。」と言ったっことは「できる。」ことなのであります。
だから、私が「直江津でD51を走らそう!」と言ったとしたら、それは「できる!」という裏付けがあるということでありまして、では、誰がやるのかというと、「お前さんたちだよ!」ということなのであります。
トランシスさんには次にまた素晴らしい車両を作っていただけるように頑張りたいと思います。
コロナの時代ですからね。
内需回帰。
新潟県の人が新潟県の鉄道の旅を楽しむ。
こういうことを提案してもよいと思いますよ。
新潟県の車両でね。
やまぐち号の素晴らしい列車に乗って、思いを新にした週末でありました。
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