人は持てる力を惜しみなく発揮しなければならない。

人は持てる力を惜しみなく発揮しなければならない。

イギリスの航空会社で働いていた時に教わった言葉です。

外資系というのはドライな会社と考えている人が多いと思いますが、私が居た会社は実は全然違っていて、結果主義ではあるものの、その人がどれだけその結果を出すために努力したかが問われるところでした。

KPI(Key Performance Indicator)という言葉が今ではふつうに使われるようになりましたが、私が初めてこの言葉を聞いたのがかれこれ今から30年近く前。
当初はKRA(Key Result Area)と呼ばれていました。
つまり、目標値を立てて、その目標に対してどれだけ達成できたかを示す指標を設定することになりますが、私はその目標設定という点で少々合点がいきませんでした。
納得できなかったのです。

つまり、目標数値と本人の能力と支払われる賃金という3つの関係を考えたとき、同じ賃金であれば同じ数値目標を定めるのが当然だろうと考えていたのです。
ところが、私の数値目標は高く設定されて、同僚の数値目標は低かったんです。
これは納得がいきませんよね。

同じ給料なら同じ仕事でいいだろう。

30代前半だった私はそういう考え方でした。

そこで、その疑問を上司にぶつけたんです。

「おかしい!」と。

そうしたらその時返ってきた答えが、本日のタイトルである
「人は持てる力を惜しみなく発揮しなければならない。」
ということだったのです。

私は「???」となりました。
なぜなら、前述の通り、サラリーマンですから同僚の給料は基本的には同じ。
でも、自分の目標は高いということは不公平に思ったんですね。たぶん。

そこで、評価指標というのを考えてみました。
私たちが昭和の時代から教えてもらってきた評価というのは相対評価と絶対評価の2つだったわけですが、簡単に言うと相対評価というのは例えば100人中20番以内に入ることで、絶対評価は100点満点で80点以上を取ること。

絶対評価なら80点取れれば合格ですけど、相対評価では自分より上に20人良い点数を取った人がいれば不合格になる。
90点取ったとしても不合格になる可能性があるのに対して、70点しか取れなければ絶対評価では不合格だけど、自分が上位20人に入っていれば相対評価なら合格になる。

その程度の考え方で人生を生きてきたわけです。

その私に「人は持てる力を惜しみなく発揮しなければならない。」とイギリス人が言うのです。

「う~ん」

考えましたよ。
ていうか悩みました。
なぜなら納得できなかったからです。
そこで、どういうことか聞いてみた。

すると、
「お前は100点を取る力を持っている。そのお前が100点を取っても評価は低い。」
「はあ、」
「でも、A(同僚の名前)は80点取る力しか持っていない。そのAが90点取ったらそれは高く評価されるべきだ。」
「でも、結果として私は100点、Aは90点ということは、私の方が上でしょう。」
「違うんだよ。そういうことじゃない。高い目標を立ててどれだけ努力するかということが問われているんだ。」
「ふ~~ん」

とまあ、こんな会話です。

つまり、100点を取れる人間なら120点、150点の目標に向かっていくべきであり、80点しか取れない人間が90点取るということは、お前が100点取るよりも大事なんだということであります。

そこで私は気が付いた。
何に気が付いたかというと、クラスに1人2人いるでしょう。
先生の話を5か6聞いただけで10理解しちゃうような人って。
すぐに理解して、サッと答えを出して、あとは余裕かまして遊んでるようなヤツ。
実は私がそうだったんです。
それで受験を失敗したりして何度も躓いた。
「こんなはずじゃなかったのに。」とね。

だから私は自分に欠けている部分はそこではないかと気が付いて、高い目標を立てて地道にコツコツと前に進んでいくことが、多分自分に欠けていることであって、それをやらなければこの先また皆に抜かされて苦汁をなめることになるだろうと。

で、それからは上司が言う通り、「持てる力を惜しみなく発揮して」チームのために一生懸命働いてみようと思って、実践してきたのです。

昨日鹿児島で指宿枕崎線のシンポジウムに参加して、今日帰りの道中でそんなことを思い出したのです。

鹿児島の指宿枕崎線をなんとか活性化させて存続させようと頑張っているのは地元の住民の皆さんで、その皆さんが今、行政を動かすところまで来ています。
私はトキ鉄に就任する前からその活動を見て来ていて、最初は危なっかしいなあと思いつつも、多分目標を100とすると、20か30の力ぐらいしかなかったと思います。
でも、地道にコツコツ活動を続けてきて、今回市民会館を借りてシンポジウムを開催するまでになりました。
そこに市長さんや市の幹部の方々が来て、県の人たちも来て、国の人たちも来ていたんです。
もちろんJRの人も。
1つのムーブメントができつつあるんです。

これはすごいことなんですよ。

ローカル線の問題も、地域おこしや地域活性化もそうですが、全国各地で皆さんいろいろなことをやられています。でも、多くは自己満足の世界であったりして、つまり「自分たちはボランティアで地域活性化をやっているんだ。」ということに満足してしまい、結果が出てなかったり継続しなかったりするところが多く、そういうところを見つけては「あいつらは何をやってるんだ。」と批判ばかりしている人もいる。
そういう場所がたくさんあるにもかかわらず、指宿枕崎線の沿線の皆様方は、地道にコツコツと活動を続けて、頑張って来て、多分自分たちが持っている力以上の結果が出てきている。いや、自分たちの力そのものが大きくなってきている。ということを感じたのです。

ローカル鉄道の存続もそうですし、地域活性化もそうですが、とても大きな話です。
だから、人はとかく「行政は何をやっているんだ!」「国は何をやっているんだ!」と言いがちです。

でも、やっぱり大切なのは、自分たちでどうしたいのかという方向性を持って、地道に活動を続ける。
そういう地域に地元の行政が支援をする。
地元の行政が支援をするところに県が支援をする。
県が支援をするようなところに国が手を差し伸べる。

世の中は基本的にこういう構造になっていますから、地域住民が自分たちで具体的な活動成果を上げる活動をせずに行政に「なんとかしてくれ!」というのは、やっぱり違うし、そういうところには県も国も手を差し伸べることはないと思います。

私は日本全国を見て来て、世の中そういう仕組みになっているのがよくわかりますから、一生懸命頑張っている人たちに対してエールを送りたいと思いますし、たとえ危なっかしくても、しっかり応援していくべきだと思って、痛い足を引きずりながら薩摩半島の先端まで出かけたのでありますが、そういうムーブメントってとても大事だと思うのです。

今回中心になってシンポジウムを構成していただいたのが中原水産という会社の中原晋司社長さんと葛岡克紀さんという社員の方ですが、では彼らが何を地道にコツコツやっているかというと、地域をまとめたり駅での活動はもちろんなんですが、指宿枕崎線の写真を毎日撮影してはネットに発表しているんです。

私もいつも写真を拝見させていただいて、「いい所だなあ。こういう鉄道はぜひ残さなければならない。」と決意を新たにしているのですが、葛岡さんにとっては「持てる力を惜しみなく発揮する」というのは、人が感動するような写真を毎日のように撮影して、地域発の情報発信することではないかなと思います。

「できることから始めよう」と言うと、そんなことで鉄道が存続できるはずないじゃないかと思う人もいるかもしれませんが、何も始めなければ何も動きません。
もちろん、努力すれば必ず報われるというものではありませんが、やっぱり大きな目標を立てて、それに向かってコツコツ努力する姿は共感を呼びますし、仲間が増えていくことになると思います。そして仲間が増えて行けば、それが大きな力となって、ムーブメントになると私は思いますし、私自身もそうやってきたからこそある程度の結果を出すことができたのではないかと感じています。

今、地域に求められているのは外野から文句を言うことではなくて、当事者となってどれだけ努力をするかということです。
頑張っている人たちに向かって批判することが得意な人たちは、結局何の結果も作ることができずにくすぶっているのと同じことです。
批評家や評論家は必要ではなくて、その場に入ってプレーヤーになることが求められると私は認識を新たにした次第です。

指宿枕崎線の皆様、今回はありがとうございました。

ということで、葛岡さんの写真をご覧ください。
乗ってみたくなりませんか?


▲この写真の一番右の方が葛岡克紀さん。
一番左の方が自称「お出汁車掌」の中原水産社長の中原晋司さん。

この2人が仕掛け人です。

中原水産にはなんと鉄道事業部というのがあるのです。

そう思うと上越はまだまだですねぇ