なぜ私が線路の石を売るのか?

線路の石を缶詰にして売ると言ったら、あちらこちらから取材を受けました。

地元の新聞やテレビはもちろん、NHKニュースに取り上げていただいたり、6月11日はカンブリア宮殿に登場するようです。

「ようです」というのは、トキ鉄の話ではなくて銚子電鉄さんがカンブリア宮殿に出る。その時に石の缶詰を紹介してくれるらしいので、きっと出るだろう。だから、ようです、なのですが、本日発売の週刊プレイボーイにもほら、この通り。カラー1ページです。

で、ページをめくると、そこに私が。
週刊プレイボーイのグラビアに登場です。

なぜ、こんなにあちらこちらで取り上げていただけるのか。
不思議ですよね。
何しろ「線路の石」ですから。

まあ、コロナで暗いニュースが多い中、こういうくだらない商品は「バカだねえ」と、きっと皆さんホッとするんじゃないかと推測しておりますが。

では、なぜ私が線路の石を缶詰にして売ろうと思ったのか。
本日はそのお話しです。

まず、ローカル線のホームに立って線路を見ると、普通の人であれば「なんだか古びているなあ。」とか、「赤字なんだろうなあ。」と思うわけです。
つまり、線路はローカル線にとってお荷物なのです。

お荷物というのは会社の決算書で言えば負債ということになります。
でも、もし、線路の石ころが1個500円で売ることができれば、負債であるはずのお荷物が「資産」に変わると私は思ったのです。
線路の石が1個500円で売れれば、鉄道会社にはものすごく大きな資産が眠っている。
皆さんはそうは思いませんか?

まぁ、普通の人は同意はされないでしょうね。

でも、売れるか売れないか、世の中わからないじゃないですか。
やってみなければ。

と、私は考えました。

やってみなければわかりませんよね。
じゃあ、やってみるか、それともよしておくか。
その判断基準は何ですか?

会社ですから、つまりお金ですよね。
大金を掛けて商品を仕入れて、売れなかったら在庫になる。
在庫になるということは、資本投下したお金が死んでしまうわけですから、売れるか売れないかわからないものなら、よしておきましょう。
と、こうなりますね。

でも、線路の石ですから。
仕入れにお金が発生しませんね。
自分で行って、拾ってきて、缶詰にしてラベルを貼るだけですから。
もちろん、缶詰にするための加工賃はかかりますよ。
でも、そんなものは微々たるものです。
何しろ、そこらへんに落ちている石ころが1個500円で売れるのですから、1000個作ったって、100個も売れれば十分元が取れるというもの。

つまり、リスクがないんです。

新しいことを何もやりたがらない人たちは、なんだかんだ言って「できない理由」を一生懸命探すわけですが、私は非常に見苦しいと思います。そういう人たちは自分の給料がどこから出ているのか、もう一度よく考えた方が良いということですが、給料を払う側になると、なんだかんだ言ってお金を作り出さなければなりませんから、リスクがなくて、お金が稼げる「かもしれない」のであれば、やらない理由はありません。
だから、やるのです。

これが、私が線路の石を缶詰にした理由です。

今、妙高山のすそ野の標高1500mぐらいのところには山菜がたくさん出ています。
地元の人だけが取って良い決まりになっていて、昨日、おとといは地元ナンバーがたくさん繰り出して山菜を取っているのを見かけました。

それと同じですね。
山菜はこの時期だけだけど、線路の石なら雪に覆われなければいつでも拾えますから。
もちろん誰でも勝手に取れるのではなくて、鉄道会社の特権ですから、つまり、やらない理由、できない理由はないのです。
あとは、実際にやるかやらないかだけですね。
だから私はやるのです。

ただそれだけです。

でも、一番問題になるのは「どうやって売るか?」ということ。

「どうやって売るか?」

さて、どうやって売りましょうかね。

私のように小学生のころから鉄道ファンをやっていると、いろいろ気づいていることがある。
特に昔は規定が緩かったので、蒸気機関車の写真を撮りに行くと、たいていは線路の横の犬走りと呼ばれる細い通路を歩いていくのを皆さん経験していると思いますが、そういう時に石ころを見ていた記憶が50年経ってよみがえってくる。

実は、国鉄では昭和30年代までは線路の石は玉砂利が使用されていたのです。
それが昭和40年代に入ると徐々に砕石が使用されるようになってきました。
こういう変化があるのです。
ということは、線路の石で玉砂利が残っているところは昔のままの線路ということになります。

蒸気機関車が長い列車を引いて煙をたくさん吐きながら一生懸命に坂道を登っていた時代。
当時の車両はブレーキを掛けるとわずかながら金属の粉が飛び散ります。
それが線路の石に付着すると、長い年月のうちに風雪にさらされて少しずつ錆びていきます。
同じ線路の石でも、今は赤くはなりませんが、昔は赤くなったんですね。
何十年もかけて。

トキ鉄のはねうまラインは旧国鉄の信越本線です。
そして、今、線路に残っている玉砂利はどんなに新しくても昭和30年代のものですから、60年もじっと同じ場所で列車の重みを受け止めて、安全を守り続けて来てくれたのです。

70歳以上の人なら、たぶん集団就職で都会へ出た人も多いでしょう。
中学を出たばかりの、ほっぺたが真っ赤な15歳の子供が、母親に見送られて都会へ出ていくなんてシーンは日本全国で見られましたから、もちろん信越本線でもあったでしょうね。
新井駅や高田駅、あるいは直江津駅で、「体に気を付けるんだよ。」「うん。かあちゃんも元気でね。」
そんな会話がたくさんあって、ポーッと汽笛を鳴らして汽車が走り出す。

日本は貧しい時代が長かったですから、今70歳ぐらいの人であれば、地方出身者なら皆さんそういう時代を経験しています。
そして、そういう時代を頑張って生きてこられた方々が、この日本をこれだけの国にしてくれたのですが、この線路の石は、そのころから、ずっとずっと、鉄道を支え、日本の高度成長の輸送を支えてくれていたのです。

今、トキ鉄の線路は、列車がガンガン走る本線上はJRの時代から線路が常に整備されて新しい砕石が入れられています。でも、ちょっと横に外れると、まだ昭和30年代の玉砂利が残っているのです。

今回、缶詰にして皆様方のもとへお届けするのは、そういう玉砂利です。
最低でも60年近く、線路を支え、信越本線の安全輸送を支えてきた玉砂利です。

そんな玉砂利がどこに残っていたのかというと、ここです。

二本木駅のスイッチバックの側線です。

昔は列車の編成が長かったんですが、今は短くなりました。
だから、スイッチバックする列車も側線には入りますが、あまり奥までは行きません。
ということで、JRの時代から列車が進入する所までは線路の整備を定期的に行って、線路の砂利も入れ替えられていましたが、列車が進まない先の方までは枕木交換など最低限の整備は行うものの、道床を砕石に入れ替えるような整備は行われてこなかったのです。

その境目がココです。
手前側には砕石が入っていますが、ここから先は玉砂利のまま。

私はトキ鉄に来て列車に乗って全区間を走りました。
一番前に乗って線路を見て歩くのが趣味なところがあるのですが、その時、二本木駅のスイッチバックに入ってこの違いに気づいたのです。
そして、係のスタッフを連れて自分で線路を歩いてみたら、こんなにたくさん玉砂利が敷き詰められているのを見つけたのです。

今はもう列車も来なくなったスイッチバックの折り返し線の奥の方で何十年もじっと線路を支えてきた石です。
でも、ここ、廃線じゃないんです。
もし、各地で災害が発生した時にいつでも貨物列車が走れるようにと、常にきちんとメンテナンスがされていて、信号ケーブルも通っている。
そういう、いつか使われるかもしれない。使われるとすれば災害などでバイパスルートとしての役目ですから、できれば使われることがない方がいいのだけど、そういう万が一の時のために、この玉砂利は今もじっと線路を支えている。

そういうことが頭に浮かんできたので、私は、この石ころに何とか陽の目を見させてあげたい。
世間の皆様方に、そうやって鉄道の安全は長年守られてきたんだということを知っていただきたい。
それが、石ころの缶詰という商品に対する私の思いです。

だから、この商品は、そういう思いに共感していただける方々にとっては、たぶん、1個500円出しても「安い」商品だと思います。
そして、そういう方々にご購入いただきたいと思うのです。

銚子電鉄は大正11年(1922年)の開業です。
だから石ころは98年前のものといえましょう。
あと2年で100年なんだから、何とか列車の運行を守りたい。
これが竹本社長さんの強い思いです。
天竜浜名湖鉄道は旧国鉄二俣線として昭和15年(1940年)に開業しました。
6月1日が開業記念日だということで、ちょうど80周年を迎えたところです。

今回3種類同時発売した線路の石は、そういう歴史がある石ですから、価値のわかる皆様方にとってみたらきっと宝物になるでしょう。
いつまでも大切に持っていてもらいたいなあと思います。

とまあ、このくらいのことが考えられないようであれば、ローカル線の商売などできないと思いませんか?
何しろ、石ころを缶詰にして売るのですから。

ローカル線とは、負債を資産に変えるとは、誰にでもできるものではないということは、皆さんご理解いただけましたでしょうか。
大切なのは線路に対する「思い」なのです。

ということで、線路の石の缶詰、大好評発売中です。

ところで、私としてはとても不思議なことがあります。

ご購入いただきました皆様方から、「届きました。」というメッセージはたくさんいただくのですが、今のところそれで終わり。その後がないんです。

その後とは?

実はね、トキ鉄の女子チームがちょっとした仕掛けをしたのです。

その仕掛けとは・・・

缶の中に「おみくじ」が入っているのです。

さあ、気づかなかったでしょう。
皆さんもったいないと思ってお開けになられないようですから、だから気づかない。
大吉、中吉、小吉。
どれが入っているかは開けてのお楽しみですよ。

このブログを読まなければ、おそらくこれから何十年も缶は開けられないまま、おみくじも石ころと同化していくのでしょうね。

そして、缶を開けておみくじを見たら、きっとあなたはもう一度買いたくなる。

そういうことが商売なのであります。

トキ鉄SHOP 線路の石の缶詰3個セット
▲ご購入はこちらまで。

皆様に夢と希望をお届けするトキ鉄商品でございます。

さて、次はどんな新商品が出るかな。

来週発表ですよ。
どうぞご期待ください!