観光産業の弱点

春節の時期を狙ったかのように新型コロナウイルスの拡大。
毎日毎日数千人の患者数が増えていきます。

武漢というのは田舎の町ではありません。
人口は1千万人。
東京とほぼ同じ規模の都市が封鎖されているということは、いったいどういうことなのか想像もつきません。

日本国内の観光地はどこも閑古鳥が鳴いているようで、中国人の旅行需要に多くの部分を頼っていることがわかります。
観光地ばかりではありません。
都市部のホテルや百貨店も悲鳴を上げているようです。

観光というのは実に繊細な需要です。
何かあったら次の日からお客様がピタッと来なくなります。

その理由は不要不急だから。
人々の毎日の生活には基本的に必要がないのが観光だからです。
そしてこの国の多くのビジネスはこの不安定な観光に頼っているのです。

こういう何かあったら明日からお客様が来なくなるような状況は実は今に始まったわけではありません。
私は航空業界の現場に長く居ましたので、湾岸戦争も、911などのテロも、自然災害も病気の蔓延もいろいろ経験してます。
当時はB747ジャンボジェットでしたが、400席の飛行機が毎日満席で「今年は好調だなあ。」と思っているとテロや災害が発生して、前日まで満席だった飛行機が突然ガラガラになる、なんてことは何度も経験してきました。
400席の飛行機に40人なんてことがある日突然やってくるのです。

飛行機がガラガラになるということは、お客様が旅行しないということですから、行った先のホテルもレストランもお土産物屋さんも、みんな仕事が無くなります。
でも、従業員には給料は払わなければなりませんし、設備投資をしていればその借金も返済しなければなりません。
ふつうはその原資は売り上げから回すのですが、その売り上げが立たなくなるのですから払うお金がありません。

そういうことが観光産業の弱点で、ある日突然やってくるのですから、経営者の皆様方はどうするかというと、できるだけ大きな投資をせずに、できるだけ正社員を雇わずに営業できないかと考えるわけです。

季節波動が大きい例えばリゾート地のような所では従業員は季節雇用が中心で、シーズンが終わったら「また来年ね。」と言われて職を失います。

飛行機の座席もホテルの部屋の数も限られています。
ピークの時期に合わせて飛行機をたくさん準備して、ホテルも増築しておくことはできません。
そんなことをしたらシーズンオフは飛行機や乗務員は地上で遊んでいるし、ホテルの部屋はガラガラです。
では、どうするかというと、ピークシーズンとシーズンオフとで販売価格を変えるわけで、今でこそインターネットで誰もができるようになりましたが、旅行業界では大昔からそういうことをやって来て1年を通じてバランスが取れるようになっているのです。

そして、その観光のシーズンである春節の時期にこのようなことが起きてしまうのですから、そりゃあ事業者の皆様方は真っ青になるのも無理はありません。

観光というのはそういう危険性があるということは、皆さん充分理解して商売をされているのですが、実際に起きてみると昨日まであった予約がなくなっていて、それも病気の蔓延という不可抗力が理由となればキャンセル料金を請求することもできないでしょう。

去年の秋の台風でトキ鉄も運行できなくなりました。
トキ鉄の被害は大したことはありませんでしたが、接続する新幹線が動きませんでしたので大きなキャンセルが出ました。
本当に真っ青になるほどの状況でした。

観光というのはそういう弱点がある。
だったらどうするか。

観光が産業というからには、そういう不可抗力である日突然お客様が来なくなる事態も当然想定内として対策を立てなければならないと思います。
どんな産業にも弱点があると思いますが、皆さんそれを克服して、リスクを最小限に抑えて業務を続けているわけですから、観光産業だって同じですよね。

ではどういう対策を立てたらよいか。

そういう話になると、実はまだ誰もが明確な答えを出せていないように思います。

トキ鉄では昨年の災害時に観光列車の雪月花が運転できなくなりました。
営業部長の判断でスタッフがお客様すべてに連絡の電話を入れました。
線路が被害を受けて列車が運休できなくなる旨をお知らせしてお詫びしました。
そして、その時に12月、1月に臨時列車を設定したこと。そちらに優先的にお席を用意することをご案内しました。
運休列車のご予約は300名ほどありましたが、そのうちの半数のお客様は振替をご希望になられました。
雪月花は比較的高齢の方のご乗車が多い列車ですので、電話による対応と代替便のご案内により損害を最小限度に食い止めることができました。
お客様のカテゴリーによって対応が分かれるところですが、雪月花の場合は適切だったと考えています。

こういうことも一つのやり方だと思いますが、方程式はありません。
ケースバイケースでやり方を変える必要が求められるのです。

でも、これからも日本は観光を産業としてやって行かなければならないというのが現状ですから、弱点の克服というのは解決しなければならない課題なんですね。

2018年9月の北海道胆振東部地震。去年の7月からの韓国との問題。秋の台風被害。そして今度の新型コロナウイルスとわずかの期間に何度も何度も「不可抗力」による被害に見舞われたのがこの国の観光産業です。
こういうことはおそらくこれからも続くでしょう。

だから、何らかの形で私たちはリスクを回避する方法を産み出さなければならないと私は考えます。

さて、どうするか。

それが問題です。
そう、頭の痛い問題なのです。