シーズンオフを受け入れること

観光の仕事をしていると、シーズンオフに当たります。
年に数か月間、シーズンオフが訪れます。
そして、ちょうど今、そのシーズンオフだと思います。
私は航空業界に長くいましたので良く理解しているのですが、飛行機はシーズンオフでは当然空席が目立つようになります。
400人乗りのワイドボディー機を飛ばしても半分も埋まらない時期というのが季節ごとにあります。
そういう時は、近視眼的には価格戦略に出るわけで、いつもより安い値段で航空券を売りさばいて、何とか座席を埋めようと努力します。
ホテルなどの箱モノと呼ばれるビジネスも、お客様がいない時期は、どうしても部屋を叩き売って稼働率を上げようと努力します。
でも、私はこういう現象は、観光業界につきもののシーズンオフというものを、業界が受け入れていないから、「何とかしよう」と足掻いているように見えてしまうのです。
当然、人件費や施設維持管理の費用などの固定費は発生しますし、飛行機だって燃料代がかかります。だから、少しでも現金収入を得ようと経営的な努力をするわけですが、私は、このような近視眼的な戦略は、できるだけ早く卒業して、長期的視点に立った戦略に立てるような考え方を取り入れていくべきだと考えています。
では、その長期的視点に立った戦略とはいったいどのようなものなのでしょうか。
観光業界でシーズンオフをうまくとらえて戦略的に成功したと言われて有名なのは「冬の京都観光」です。
このキャンペーンは30年ほど前になるでしょうか、鉄道会社と地元がコラボを組んで、冬期限定でふだんはお寺の奥にしまってある国宝の仏像などを特別展示することを始めたのがきっかけです。京都の冬は半端じゃなく寒いですから、冬に京都へ行こうという人たちはいないわけです。でも、その冬に、ふだんは見られない歴史的価値があるものが御開帳されるとあれば、「行ってみよう」というお客様の需要を掘り起こすことが可能です。そして、それを1年や2年ではなく、毎年毎年恒例行事として行うことで、「冬は京都だ。」というキャンペーンが定着して今日に至っているのです。
そりゃあ冬のこの時期ですから、春から秋に比べれば、京都のホテルも割安にはなっていますが、ダンピングして叩き売るようなことをしなくても、「京都が好きで」、「いつもと違う京都を見に来た」というお客様を受け入れてビジネス展開することができるようになったわけです。
冬の山陰海岸も、誰も行こうと思わない観光地です。
私はSL時代の昔から山陰本線が好きで、海岸線の松林を抜けて走る風景が気に入っていますが、冬はどんよりと灰色で、海は荒れてとても寂しい景色です。
そんな、誰も来ないような山陰本線には冬の間限定で「かにカニ特急」という変わった名前の列車が走っています。
この「かにカニ特急」は、冬の時期に旬を迎える松葉ガニを食べに行くための列車で、シーズンオフに誰も乗らない列車と、シーズンオフに誰も来ない温泉ホテルが提携して、温泉に入って旬の松葉ガニ食べる目的で運転される観光企画です。
大阪や京都を朝出て、お昼ご飯にカニ三昧。温泉に入って一杯飲んで夕方帰ってくるという列車ならではの日帰りツアーですが、旅館としてはもともと宿泊客は望めない時期ですから、お昼ご飯のお客様でもありがたいわけですし、鉄道会社にしてみたって、遊休の車両を使って運転することで需要を創出できるわけですから、良い商売のはずです。
この「かにカニ特急」もスタートからすでに20年近くが経過し、山陰だけでなく、北陸方面への需要も開拓しているようです。
冬のシーズンオフとは言え、食べ物は美味しい時期ですし、お客様のいない時期ですから、日帰り客だって旅館は歓迎してくれるわけですから、私は冬のこの時期になると関西に住んでいる人がうらやましくなるのです。
このように、シーズンオフというものを、叩き売ることなく、諦めることもなく、地域への観光需要があることが理解できさえすれば、きちんとした商売に繋ぐことができるわけです。
でも、そこで問題になるのが、地域の観光需要というものを、地域が理解しているかどうかということになります。
人間というものは基本的にない物ねだりをする性質があります。
だから、田舎の人たちは都会にあこがれるわけで、逆に都会の人たちは田舎にあこがれます。
つまり、田舎の人たちは田舎に価値を見出すことが不得意ということなのですが、自分たちが住んでいる地域を都会の人たちがどのように見ているかということを理解できるようになれば、お客様の気持ちを理解することになりますから、そこにビジネス展開ができると私は考えています。
では、いすみ鉄道のようなローカル線の魅力って何でしょうか。
都会の人たちから見て、いすみ鉄道のようなローカル線というのは、「空いててこそ」だと私は思います。
都会人から見たら、1両にほんの数人しか乗っていないような列車がローカル線の象徴であって、立ち席のギューギュー詰めではローカル線ではありません。
そう考えると、1月上旬から2月中旬にかけてのこの時期は、ローカル線を楽しむには最高の時期ということになるのではないでしょうか。

ということで、いすみ鉄道では、この冬の寒い時期にいらしていただくお客様のために、毎年恒例となりました「朝食サービス」を今年も行います。
上の写真はその一例。これに地元のパン屋さんのロールパンが入ります。
この朝食サービスの列車は大原駅を9:18に発車する急行1号。
運転日は土休日ですが、その急行1号の座席指定券(300円)をお求めのお客様へのサービスとなります。
期間は1月30日から2月28日までの土曜日曜および2月11日。
座席指定券は当日大原駅で先着12名様への販売となります。
イベント列車ではなく、通常の定期列車でこれだけの食事が無料で提供されるのは、私が知る限りではグランクラスといすみ鉄道の急行だけだと思いますが、グランクラスは目の玉が飛び出るような特別料金を取られますから、いすみ鉄道の「やさしさ」がご理解いただけると思います。

▲こちらはグランクラスのミールサービス。
確かにこのサンドイッチは美味しかったですが、いすみ鉄道はわずか300円の座席指定のお客様へ朝食をお出しするわけで、その内容もアテンダントのお姉さま方がいろいろ考えた手作り企画ですから、いすみ鉄道の素晴らしさがご理解いただけると思いますがいかがでしょうか?
冬枯れのシーズンオフ。
これをありがたく受け入れて、最大限のビジネスチャンスにつなげていかれればと思っております。
皆様のお越しをお待ちいたしております。