株式会社の正しい姿

最近、株式会社の正しい姿について、いろいろと考えさせられることがあります。
株式会社というのは、利益追求を目的とする組織で、出資者に対してそこから上がった利益を配当という形で還元する目的があるのは皆様ご存じだと思います。
会社の所有者というのは、つまり株主(出資者)であって、出資者は「有限責任社員」です。だから、一般に言われる社員(イコール正社員)という言葉は正しい言葉ではなくて、正社員だろうが契約社員だろうが、彼らは従業員であって、「社員」ではありません。
まあ、こういうことはどうでもよいことなんですが、株式会社が営業することによって利益を追求する組織であるということは、利益が出ない部分に関しては「やるべきではない。」ということになるわけで、これが重要な部分なのだということです。
つまり、普通の会社であれば、採算部門と不採算部門があるとしたら、採算部門を積極的に伸ばしていきながら、不採算部門からはできるだけ早いうちに撤退することが基本原則であって、それが株式会社としての正しい行為と言えるのです。
ところが、株式会社と一口に言っても、会社によっていろいろあるわけで、特に田舎の地域などで公的なサービスを提供しているような会社になればなるほど、不採算部門だからと言って切り捨てることができなくなるわけです。
例えば、いすみ鉄道は地域の交通機関として存在しています。同じ千葉県の銚子電鉄もそうです。
私は、いすみ鉄道の経営を立て直すために、とりあえず有効な手段として、土休日に観光鉄道としてたくさんのお客様にいらしていただくことで、そこから上がる利益で月曜から金曜日までの地域の足としての役割を果たそうと考え、この6年間それを実行してきました。おかげさまで、それまで観光鉄道じゃなかったいすみ鉄道が、今ではすっかり観光鉄道として認知されることになり、たくさんのお客様にいらしていただくようになりました。そして、会社も何とか維持していかれる状況になったわけですが、そうなってくると、株式会社の社長である私に求められることは、「利益を出すように。」ということになります。
今、いすみ鉄道は全国からいろいろ注目されていますが、そういう状況になると、「いすみ鉄道はよっぽど儲かっているんだろうなあ。」と皆様が思われるようになります。でも、お菓子やお土産品を田舎の駅の売店で販売しているだけで鉄道が維持できるわけでもありませんし、大人気のレストラン列車も地域の宣伝と経済に貢献するためにやっているわけですから、そこから利益を出すための商品ではないのです。
だけど、会社の価値というものが、「いくらお金を稼ぎだして、いくら利益を上げて、いくら法人税を払っているか。」という基準で判断されるようなことが、いすみ鉄道にも適用されるのだとしたら、私などは、線路の路盤維持管理費という名目であるにしろ、補助金をもらっているわけで、その上で赤字ですから、経営者としては失格なのです。
昨年からこの1年間で、思いつくだけでこれだけのことをやりました。
・レストラン列車を定期運行化して、予約が取れないレストラン列車としての話題を集めています。
・もちろん、話題だけじゃなくて、お金も集めて、それを地域の事業者に還元するシステムを作り上げ、運営しています。
・JRとタイアップ商品を作り、地域行政のテーマの一つである外房線の利用促進にも貢献しています。
・テレビ番組や旅番組で数えきれないほど取り上げていただき、いすみ鉄道沿線地域を全国区にし、それを維持してきました。
・映画やドラマのロケ地として、沿線地域を後世に残るシーンとして取り上げていただきました。
・台湾国鉄との姉妹鉄道締結を行い、国際化への糸口を付けました。
・この台湾との姉妹鉄道締結には、地元の手作り甲冑隊にも同行していただき、城下町大多喜を広く知らしめることができました。
台湾国鉄との姉妹鉄道(駅)締結は、いすみ鉄道の後に山陽電鉄、JR東日本、京浜急行、西武鉄道と大きな会社が続いていますが、私たちはその先駆けとしての締結なんです。
・夏休みには親子鉄道体験イベントを行い、食堂車でカレーを食べてもらうなど、親子で思い出つくりをしていただきました。
・シングルマザー支援協会とタイアップして、子育てと仕事との両立に手一杯のお母さんたちと、何処へも連れて行ってもらえない子供たちを招待して、ローカル線で駅弁を食べて、原っぱで遊んでもらう無料ツアーも行いました。
・国吉にある出雲大社が朽ち果てようとしているのを知り、何とか立て直そうとキャンペーンを行い、今ではボチボチですが、女性の観光客が来るようになりました。
・大晦日にはキハによる終夜運転を行い、のべ300人の人にご乗車いただき、いすみ鉄道で「初日の出」体験を楽しんでもらいました。
・キハによる観光急行列車は急行料金がかかりますが、通学定期券で乗車する学生さんたちには、そのままご乗車いただく便宜も続けています。
すぐに思いつくだけでも、いすみ鉄道というツールを使って、これだけのことをやって、沿線地域に利益をもたらしているというのが、私たちいすみ鉄道職員の自負であり、プライドなのです。
でも、いすみ鉄道は赤字経営なんです。
沿線地域に利益をもたらすと言っても、金額に換算できない利益ばかりで、いすみ鉄道という株式会社は赤字なんです。
だから、私は株式会社の社長としては失格者でありますから、見る人たちから見れば、こうやって毎日ブログで偉そうなことや、わかったようなことを言ってること自体が批判に値することなんだと思います。
「赤字にするな。利益を出せ。」
そう言われてしまえば、その点では、私はダメな経営者ですから、関係者からは全く評価されていないんです。
いすみ鉄道関係者は私の顔を見ても、「社長、いつもご苦労さん。頑張ってくれてありがとう。」の一言もありません。
「どうすんだよ、この数字。これじゃ議会に何て説明したらいいんだ。」
と、私の評価は地面を舐める姿が似合うという程度なんです。
もし、いすみ鉄道が、利益を出すことが目的であるのなら、はっきり申し上げて、採算部門である観光鉄道に特化して、不採算部門である地域の足に関しては、できるだけやらないというのが、通常の株式会社としての正しい経営の仕方になりますから、そうやるしかなくなるんですね。
でも、いすみ鉄道の最大の株主は、千葉県をはじめとする地域の人たちですから、私はそういう株主の皆様方へは、決算書上の黒字という形では「利益」は出すことはできませんが、もっともっと目に見えない形での利益は、おそらく決算書上の赤字額をはるかに上回る金銭的利益をもたらしていると考えます。
ただ、残念なのは、いすみ鉄道のように、名前の上では株式会社ではあるけれど、公共にサービスを供給する会社が、数字に表れないような利益をどれだけ生み出しているかとか、公的財産としての会社そのものの価値がどれだけあるのかということに関して、財務諸表以外で会社の価値を表すシステムが、今の日本に無いことなんですね。
だから、財務諸表上で利益が出ていない株式会社の社長は、どんなに頑張ったってダメ社長であって、そのダメ社長にふさわしい処遇というのは、新年度から3割の給料カットということなのです。
アメリカでは、地域に公共的なサービスを供給する会社の価値を測る別の物差しがあると聞きます。
日本の地域問題とは比べ物にならないほど、広大なアメリカでは地域問題というのは深刻ですから、そういうシステムができているんでしょう。
アメリカ型経済を導入するのであれば、そういう部分もしっかりと導入してほしいですね。
この国では、偏差値が低かった人は仕方ないとしても、頭の良い人間でも、こういう基本的な部分を理解していないことがあまりにも多すぎるように思います。
早く新しい物差しを見つけ出して、それが一般常識として定着してくれることを願います。
問題なのは、私の気力がそれまで持つかどうかということですね。
私ももう6年になりますから。
それにしても、私もずいぶん我慢強い人間になったと、自ら感心します。
それは、いすみ鉄道をいつも応援してくれるファンの皆様方や、応援団、地域の皆様、そしてうちの可愛いスタッフの笑顔があるからなんだと思います。
皆さん、いつもありがとう。
本当に感謝しています。