車内販売について考える その3

JRの特急列車から車内販売が次々と姿を消しています。

走る区間とか、走る距離とか、時間帯とか、そんなことは全く関係ないといった感じで、どんどん車内販売をやめて行きます。

その理由は儲からないから。お客様が買わないから。というただそれだけ。

コンビニもあるからいいだろう、という言い訳を伴って、お客様に責任転嫁をしているように私には聞こえます。

 

では、どうして車内販売は儲からないのか。

この間から話題にしておりますが、車内販売は儲けるためにあるのではなくて、特急列車を利用していただくお客様に快適な旅をしていただくためのお手伝いをするという「ホスピタリティー」の観点が鉄道会社に欠如しているのです。

乗車券のほかに特急料金を払わされて、人によってはグリーン料金も払っている。

札幌から釧路を結ぶ「スーパーおおぞら」の場合、乗車券そのものの値段は6200円ほどですが、特急料金が別に3000円ちょっとかかります。グリーン車に乗ろうと思えば特急料金と合わせて6700円が乗車券のほかに必要です。高速バスならJRの乗車券代だけでお釣りが来るのにです。

特急料金3000円って簡単に言いますが、若いサラリーマンにしてみたら一週間の昼飯代に相当する金額だし、グリーン車に乗るとすれば、さらに1~2回飲みに行かれる金額が加算されるわけで、それだけ払っていながら、お弁当のサービスもなければドリンクサービスもない。タダでくれとは言わないから、お金を払って買いますからと言ったって、「車内販売はありません。ご了承ください。」ってなるわけですから、高い料金を払っていただいているお客様に、ホスピタリティーどころか苦痛を強いるのが特急列車の現状なのです。

そこで、私としては、ではどうして鉄道会社が車内販売で儲ける必要があるのかという疑問がわくのです。

 

車内販売で利益を出さなければならない最大の理由は、車内販売はJRではなくて関連会社がやっているサービスだからです。

本当ならば、乗車券や特急券、グリーン券を販売して収入が入っているJRが車内販売を担当すれば、その収入の金額である程度コストを賄えますから、車内販売の売り上げの中から利益を出す必要がないのでしょうが、鉄道会社は分社化が進んで、関連会社が職員を雇い、商品を仕入れるから、車内販売の売り上げの中ですべてを賄わなければならないわけで、そうなると価格はどうしても割高になるし、お客様が少なくて売り上げが上がらなければ、コストを賄うことができませんから、「儲からないからやめます。」ということになるのです。

 

だったらそんな要員など乗せずに、車掌が車内販売をやればいいんです。

グリーン車を連結するような特急列車なら、たいていは2人以上の車掌が乗っている。まして特急列車は駅間の時間が長いし、指定席なら車内改札も必要ありませんから、やる気になればいくらだって車内販売ができる。ワゴンを押して列車の中を移動している時間がなければ、グリーン車の脇にある車掌室の隣に物販コーナーを作って、お客様に買いに来ていただければよいわけで、いきなり「車内販売やめます。」と宣言する前に、まだまだやることはあるのではないか。特急列車の利用者で、普通の思考回路の人ならそのぐらいのことは考えるでしょう。

 

ところが、鉄道会社の理論では、車掌は運転取扱いをする保安要員だから云々とか、組合との関係があるから本来の業務以外のことはさせられませんとか、そういう手前勝手な、自分たちの側の理由が先に立って、お客様のことは後回しになるのです。そういうことを国鉄時代からずっとやってきて、利用者がいなくなっているのにまだやってる。だから、私はJR北海道の問題というのは、JR北海道の人たちでは解決できませんよと申し上げているわけで、一旦会社を清算して、労働条件などもすべて御破算にするぐらいじゃないと何をやってもうまく行きませんよと言っているのです。

 

では、その鉄道会社が国鉄時代からサービスのお手本と考えてきたのはどういうことでしょうか。

 

実は、鉄道会社は国鉄の末期ぐらいからサービスのお手本として航空会社のサービスを真似るところがありました。

観光列車のアテンダントとかグランクラスとかを見ていると、たぶん今でも航空会社をお手本としているのではないかと感じますが、その航空会社では、機内で飲み物や食事などのサービスがあります。でも、サービスを真似している割には特急列車の車内販売をやめてしまうのですから、航空会社と鉄道会社の両方を経験している私としては実に不思議です。

 

では飛行機の機内で提供される飲み物や食事と、特急列車の中の車内販売の飲み物やお弁当との違いは何なのでしょうか。

 

私が考える決定的な違いは何かというと、飛行機の中のお茶や食事は無料であるのに対して、特急列車の中は有料だという点です。

もちろんグランクラスのように無料のサービスはありますが、飛行機はエコノミークラスの一番後ろの座席までドリンクや機内食が無料です。(LCCは除く。機内食は国際線)

ではどうして無料かというと、それはそのサービスの料金が航空運賃に含まれているからです。

お客様へサービスをする、その部分の金額が、お客様が支払われた航空券に既に含まれている。航空会社はこのように考えています。

ところが、鉄道会社は乗車券と特急券と、人によってはグリーン券まで購入して高額な料金を払っているにもかかわらず、その金額の中にサービスの値段が含まれていないと考えている。だから、車内販売が有料になるわけで、人間というのはタダならば何でももらうけど、たとえ100円でもお金を払うとすれば考えてしまいますから、だから買わないのです。

最近のLCCなどでは、機内でのドリンクや食事が出ないところがほとんどですが、不要なサービスを省いている分お値段をお安くしますよというのが彼らのサービスですからお客様も納得している。だからLCCに乗るのはお客様の選択であって、ここにフルサービスの航空会社との棲み分けができていると考えられますが、鉄道会社ではサービスの選択どころか、価格の柔軟性も航空会社には全く及びません。それで、「お客が乗らないから本数を減らします。」「お客が買わないから車内販売をやめます。」と言っているのですから、私は不思議でしょうがないんです。

航空会社のサービスを真似するんだったら、そういうところを真似ればよいわけで、なにもお姉さんたちを一列に整列させて、列車に向かって決まった角度でお辞儀をさせるところなどはどうでもよいのです。

 

同じサービス業で、良いサービスの典型と考えられているところに、ホテルがあります。

でも、ホテルにはピンからキリまであって、いわゆる格式の高いホテルからビジネスホテルまで様々です。

では、格式の高いホテルとビジネスホテルの違いって何なのでしょうか。

どちらもフロントはちゃんと接客対応できていますし、部屋の広さには差があるかもしれませんが、ベッド、デスク、テレビ、お風呂にトイレなど、基本的な設備は一緒です。

では、何が違うのかというと、ホテル全体の設備やシステムなんですね。

例えば格調高いホテルにはレストランや宴会場があって、コンシェルジュなどのサービスの人材もそろっていますからチェックインすると部屋まで荷物を運んでくれたりします。ところがビジネスホテルではレストランも宴会場もないところが多いし、フロントでカギを受け取ったら自分で部屋に行くのは当たり前で、中にはフロントの代わりに機械が立っていて、その機械で受付をして精算をして、出てきたカードを持って部屋へ行くだけ、などという所もあります。

つまり、格式の高いホテルのサービスというのは、直接何か品物をもらったりするだけではなくて、ホテルに一歩入った時から有料無料にかかわらず受けられる設備やシステムなどの体制が整っているわけです。

 

私はこれがグリーン車を連結するような特急列車の姿だと考えています。

高速バスがビジネスホテルならば、グリーン車を連結するような特急列車というのは、昔からの伝統を受け継ぐ列車でありますから、当然格式高いホテルと同じだと思います。そして料金的にもそうでしょう。だとしたら、それなりのサービス体制を整えてお客様をお待ちするぐらいのことをやっても良いのではないでしょうか。

 

つまり、簡単に言えば、車内販売なんて無料にしたらいいと思うのです。

特急列車であれば少なくとも特急料金を別に払っているわけですし、グリーン車ならその上さらにグリーン料金を払っている。その特急料金やグリーン料金にサービスの値段が含まれていると解釈するだけで、ドリンクや食事などは無料にすることができるわけです。東京から大阪まで、たった45分ぐらいの飛行時間でも、機内のあらゆる制約を克服して400人以上のお客様全員にドリンクサービスしているのが航空会社ですから、その何倍もの時間を走る特急列車の車内で、ドリンクサービスぐらいやろうと思ったらできるはずで、グリーン車には飲み物にプラスして駅弁の一つや二つ出したってコスト的には全く問題ないはずです。

要は、特急料金やグリーン料金に対する考え方が、鉄道会社の側では50年前と同じ認識であるのに、お客様は違ってきている。だから、特急列車の利用客が減ってきているわけで、この50年間鉄道会社は何をやって来たのかといえば、どんどんスピードアップをして、札幌から函館まで3時間を切るような特急列車を一生懸命走らせてきて、それなりにお客様も付いてきていたのですが、速度の見直しで4時間かかるようになってしまった。でも料金は同じだし、だったら高速バスでもいいんじゃないか。という時代になってきて、お客様が減ってきているということなのです。ならば、その遅くなって時間が余分にかかる分を特急料金からお客様に還元すれば、お客様だって納得するし、利用者だって、「じゃあ特急列車で行こうか。」という気持ちになるというものだと私は考えています。

 

いすみ鉄道では、社長である私がこういう考え方ですから、お客様が激減する冬の期間中、急行1号の指定席にお座りいただいたお客様に無料の「朝食サービス」を実施しています。

指定席料金が300円かかりますが、その300円を原資として、アテンダントのお姉さんたちが「どんな朝食が喜んでもらえるか」ということを一生懸命考えて、車内で提供しています。つまり、300円は指定席料金なのですが、いすみ鉄道から見たら300円で朝食をお出ししているわけで、でもお客様にしてみたら、指定席に乗ったら朝ごはんが無料で出てきた。ということになりますから、1月2月の寒い時期の朝の急行列車に10人以上のお客様にご乗車いただけるわけで、だとしたら、そのお客さま方は急行券付1日フリー乗車券1500円を別に買ってくれているので、私たちは300円分の朝食を1500円+300円=1800円で販売していることになるのです。

 

そして、こういうことが商売だと私は考えています。

 

だからJRだって前日までの予約に合わせてグリーン車の人数分の駅弁を無料配布用として、それにプラスして車内販売分を積み込めば車内販売だって十分コストが負担できるようになる。どうしてこのぐらいのことを考えられないのか。いや、考えているかもしれないけれど、どうしてやらないのか。私には不思議なんです。

 

「車内販売は高いから買わない。」

というのであれば、その部分に逆にビジネスチャンスがある。

民間企業ならそんなのはわかりきっていることなのですが、公務員と元国鉄職員の会社には理解できないのでしょうね。

 

(つづく)