交通を補完する交通 3

交通機関というのはお互いに補完し合って成り立っています。

というお話をしてまいりました。

 

例えばこの夏、全日空が787に装着しているエンジンの緊急点検のためにたくさんの便が運休になっています。

東京ー札幌・大阪・福岡といったメインの路線で、夏休みの書き入れ時にたくさんの便が運休するということは経営的に痛いと思いますが、航空会社の経営ばかりでなく、お客様としては「予約が取れない」という状況になりますから、帰省や旅行などで「目的地へ行く」ということが達成できなくなります。これじゃあ、交通としてはダメですね。

でも、福岡や大阪なら新幹線で行くことができますし、札幌ならLCCもある。

新幹線やLCCが全日空の欠航を補完することになりますし、日本航空もこの夏は幹線に臨時便をたくさん飛ばす計画をしています。臨時便の中には国際線で使っている大型の飛行機を国内線に持ってきて飛ばす便もたくさんあるようですが、日本の航空会社はコンペティターの隙を見て、この時とばかり稼ぎまくるような品性ではありませんから、輸送のプロとして、少しでもお客様のためにできることをやる。そのためには国際線の飛行機を持ってきてでも臨時便を飛ばすということではないかと思います。

 

つまり、交通というのはそういうものであって、お互いに補い合って成り立っていると私は考えています。

 

でも、新幹線や特急列車の補完輸送をLCCや高速バスが行っている日常というのは、前にも述べましたが、新幹線や特急列車が料金が高いし、その割には速くはないという理由で、お客様が鉄道からLCCや高速バスに逃げているという現実があるわけで、ということは、新幹線や鉄道会社が、庶民の旅行者には乗りづらい、利用しづらい乗り物になっているのだと私は考えます。

 

「新幹線って高いよね。安い切符も大して安くないし。」

「特急列車って、料金高いけど別に速くないし。」

「車内販売もないし。」

「電車って座れるかどうかわからないでしょう。」

「荷物持って乗りたくない。」

 

こういういろいろな理由で、鉄道からお客様が離れてしまっていますね。

本来鉄道というのは庶民の乗り物であるにもかかわらず、今のJRの運営ではどんどん敷居が高くなってしまっているというのが、利用者にとっての現実なんです。

それはどうしてか。

鉄道会社にとってみたら、新幹線や特急列車だけをやっていれば、それだけで十分に儲かるからなんですね。

だから、余計なことはやる必要がない。

新幹線を運転していれば、在来線などどうでも良い。

会社によっては、あからさまにそういう態度が見えるところがあります。

 

でも、そうしている間に、お客様は正直ですから、水が高いところから低いところへ流れるように、鉄道会社からお客様がいなくなる。

「いや、新幹線はおかげさまで満席ですよ。」と言われるかもしれませんが、お客様がいなくなるというような会社が衰えていくような現象は、常に一番弱い部分から現れるもので、まずは田舎の鉄道からお客様がいなくなって来ている。

でもって、誰も乗らないから「廃止にします。」と言って、田舎からどんどん鉄道が無くなってくる。

人間の体で言うと、手足の末端から死んで来ている状況なのです。

 

でも、鉄道会社はつまりは旅客鉄道会社ですから、貨物や荷物の輸送などは自分の仕事ではありません。

株式会社ですから、自分の会社が儲かれば地域のことなどどうでも良くて、儲かる大都市の人間を新幹線に乗せる営業を中心にやっていればそれで良いのですから、旅客鉄道株式会社としては、やり方としては間違っていないんです。

ただし、人間の体で言ったら両手両足の末端から腐ってきているということは、その人間の体にとっては一大事。どういうことかというと、日本という国にとっては一大事なんです。

だから、今のまま旅客鉄道株式会社に輸送というものを任せておいたら、日本という国がダメになる危険性があるのです。

 

ここ30年は、鉄道がなくてもバスがあるじゃないか。貨物列車がなくてもトラックがあるじゃないか。

国の方針として、そうやってきましたが、その方針で30年やってきてどうなったのかというと、田舎は危機的状況になっているのはもちろんですが、都会人の生活まで立ち行かなくなる可能性が見えてきた。

それが、今回の豪雨災害で貨物列車の運転ができなくなって、国の機能に影響を与える可能性が大きいということがわかったわけです。

 

これが今回発表されたJR北海道に対する400億円以上の支援の理由です。

今までの理論で言えば、民営化した株式会社にどうして国が支援をしなければならないのか、というところで足踏みしていたものが、そういう話を超えて、今、国が支援すると言っている。

つまり、旅客鉄道株式会社に任せていたのでは、北海道の輸送がダメになる。北海道の輸送がダメになるということは、東京や大阪などの大都市の国民生活にかかわるということを、国がはっきり言いだしたということなのです。

 

新幹線だけ走らせていれば十分儲かるから、在来線などどうでも良い。

でも、一応国民の財産を引き継いだ鉄道会社だから、在来線は最低限のことだけやってましょう。

 

一株式会社としては間違っていないんですけど、そろそろそういう考え方で物事を判断するのはやめるべきだ。

というのが、昨今急速に国民に浸透してきているのです。

 

さて、では多額の税金を投入されるJR北海道はどうしたらよいのかというと、これはもっともっと大変なことになります。

何が大変かというと、JR北海道は安全、正確、低コストできちんと、一生懸命列車を走らせてきています。

社員一人一人が、自分の仕事を一生懸命やっているというのが事実です。

ところが、その事実を踏まえた上で会社が立ち行かなくなって、国から税金を使って巨額の経営支援を受けるのです。

 

ということは、今後、さらに努力をしなければならないのです。

それはどういう努力かというと、東京や大阪など、まったく自分たちの営業エリア外の国民から、「JR北海道はがんばってるねえ。」「いやあ、やっぱりJR北海道って必要だよ。」という評価を受けなければならないわけで、つまり、目の前にいる乗客からの評価に加えて、まったく関係ない国民からも評価されなければならない。

この部分が大変な負担になってくるということです。

だから、観光鉄道として現在目の前にいる外国人を一生懸命運んだとしても、はたして国民から評価を受けるかどうか。

この部分が非常に大きなところだと私は考えます。

 

そして、そのためにはまず、仕事のやり方そのものから変えなければならないと思います。

 

「車内販売がない? どうして?」

乗客から質問を受け車掌さんは何て答えますか?

「売り子を乗せて人件費をかけても利益が出ないというのが会社の判断です。」

おそらくそんなところでしょう。

でも、私がお客だったら言いますよ。

「あなたは何をしてるんですか? 南千歳から次のトマムまで1時間停まらないでしょう。釧路から白糠まで1時間停まらないでしょう。その間、車掌のあなたが車内販売やればよいじゃないですか?」ってね。

 

「いや、私は保安要員ですから。」とか、

「時刻表には出ていませんが、運転停車というものがありまして・・・」

などというような言い訳は、もう通じないということです。

 

「組合との労働協約がありますから、本来の業務外のことはできないんです。」

そんなことを言おうものなら、大変なことになりますよ。

北海道民ばかりでなく、東京の人からも大阪の人からも、

「お前らの給料は誰が払っているんだ。」

ということになりますからね。

 

だいいち、そんな面倒な労働協約なんてものがあるんだったら、そういう使いづらい人は特急列車になど乗務させないで、外部から新規に採用した車内販売要員に保安要員としての教育、緊急事態の教育をすればよいのです。半年も教育すれば立派な保安要員になりますし、そうすれば、車掌なんて職務は不要になるんです。実際に、航空会社は保安要員が客席のサービスをしているのですからね。高速バスは控えの運転士がコーヒーサービスしていますよね。

 

つまりはそういうことなのです。

 

今までの仕事のやり方では、これはから認められないのです。

いくら、安全、正確、低コストできちんと与えられた仕事をしていたとしても、その上で、何ができるかを求められるのですから、かなり厳しい将来が待っているということなのです。

 

でも、私は未来は明るいと思いますよ。

 

だって、高速バスやトラックなどの長距離のドライバーなんていなくなるんですよ。

バスはせいぜい主要駅までの輸送で、長距離輸送は鉄道という時代が来るのです。

宅急便だって、郵便だって、札幌から帯広、釧路、北見、網走などは今後どうやって運ぼうかという時代です。

 

そういう時に、バスのお客も郵便も宅急便も、みんな一緒に乗せて走らせることができるのが鉄道で、何両つないだって運転士は1人なのですから、これからは鉄道輸送復権の時代なのです。

そういうことを、実験としてでも良いから、まず北海道でやりなさい。

これが、400億以上の補助金を国が北海道に投入するということではないでしょうか。

 

なんか楽しそうでしょう。

 

宅急便なんか特急列車で運んだら「半日」で着くんですから、北海道中即日配達が可能になるんです。

どうしてやらないのでしょうかね。

 

「いやいや、何を言ってるんですか。規則というものがあるんですよ、規則が。」

 

関係者はそう言うでしょうね。

そんなことを言ってるからダメなんです。

だいいち、国が大金を投入するなんて規則ありましたっけ?

旅客鉄道会社は荷物輸送ができるんじゃありませんでしたっけ?

 

やろうと思えばできるんです。

できない理由なら中学生でも言えます。

どうしたらできるようになるかを考えるのがプロフェッショナルですから、できない理由を言っているような人間は、お辞めいただいた方が、会社のためはもちろん、日本という国のためになるのです。

 

特急列車が長距離バスのお客様も宅急便も郵便も、みんな一緒に乗せて運べるとすれば、特急列車が高速バスや荷物や郵便の輸送を補完する構図が出来上がりますから、お金が他へ逃げなくなりますから、やってみる価値がある。

 

今まで補完してもらっていた相手を補完できるようになれば、お客様もお金も戻ってくるし、信頼性も上がるということなのであります。

 

(おわり)