交通を補完する交通 2

交通というのは、それぞれみんな補完し合って成り立っています。

 

自宅から駅までのバス。

駅から目的地までの電車。

そして駅から目的の場所までのバスやタクシー。

みんなが駅前に住んでいて、目的地が全部駅前にあるのなら電車だけで良いけれど、実際にはそうではありません。

 

域内輸送というエリア内の交通だけではなくて、都市間輸送のような長距離も同じです。

新幹線だけあれば十分というわけではありません。

新幹線の駅まで、どうやっていくのか。

新幹線の駅には、まるで大河に合流するような支流ができるだけ多く集まっていることが必要です。

飛行場も同じ。

飛行機に乗るためには皆さん飛行場までどうやって集まってくるか。

羽田空港などは首都圏各地から高速バスが頻繁に走っていて、そのバスのルートが支流のように羽田空港に集まっています。

 

交通というのは、このように体系をなしているものですから、どうあるべきかということは、トータルに考えなければ成り立たない総合システムなのです。

 

路線網だけではなくて、列車そのものも同じです。

特急列車を走らせるためには、それを補完する各駅停車が必要です。

特急列車に乗って大きな駅まで行くと、そこで各駅停車に乗り換える人がいます。

その人の目的地が各駅停車しか停まらないところであれば、長距離は特急で行くけど、最後の数駅は各駅停車が必要です。

新幹線で行っても、新幹線の駅の近くが目的地でない人たちは、新幹線の駅から各駅停車や快速電車に乗り換えて、数駅先の目的地へ向かいます。

特急電車や新幹線は稼働率が高く、儲かりますから、ともすれば特急列車や新幹線だけをやっていることが最良の経営だという考えになりやすいですが、特急電車や新幹線が成り立つためには、連絡輸送としての補完機能がなければならないというのが、本来の意味での交通です。

 

それとは別に、需要に応じた補完というのも必要です。

例えば飛行機と新幹線と高速バス。

飛行機は値段が高いけど速い。

新幹線は値段が高いけど速い。

高速バスは値段は安いけど時間がかかる。

それぞれに特徴というのがあって、お客様が選択しています。

ところが、飛行機と新幹線と高速バスでは事業者が違いますから、それぞれ連携が取れていないし補完し合っていないんです。

 

その原因は私は鉄道事業者にあると思います。

飛行機に勝つために、この30年で新幹線はどんどんスピードアップしてきました。

確か、東海道新幹線の最高時速は210キロで、東京から新大阪までは3時間10分だったはずですが、今はどうでしょうか? 

品川と新横浜の2駅に余分に停まるようになったにもかかわらず、30分以上も早くなっている。

これはこれで素晴らしいことではありますが、でも、新幹線って高いですよね。
東京から大阪まで、本来の移動に対する運賃は8750円。

でも、そのほかに特急料金が5700円もかかります。

「高いなあ」と思う人は自由席。それでも自由席特急料金は4870円です。

そして、始発駅からなら良いけれど、途中駅からじゃ座れない可能性もあります。

 

「お客さん、何言ってるんですか? 自由席ですから仕方ないでしょう。」

 

運賃の他に4870円も特急料金を徴収しておきながら、会社の言い分はそういうことでしょう。

 

4800円あったら、一週間分の昼飯代ですよ。

安い居酒屋だったら2回行かれます。

別に、目が回るようなスピードの列車に乗って、急いで行く必要などないけれど、じゃあ、もう少し安い列車はありませんか? と聞こうものなら、「各駅停車で乗り継ぎですね。大阪までなら、熱海、静岡、豊橋、大垣、米原で乗り換えて、朝出たら夜には着きますね。」という答えが返ってくる。

 

いや、そうじゃなくてさあ、特急料金5000円は払いたくないけど、1500円ぐらいの料金で乗れる急行列車ってないんですか?

時間はかかってもいいけど、乗り換えなしで、座って行かれて、懐にやさしい列車ですよ。

 

「お客さん、何言ってるんですか? うちはねえ、新幹線の会社なの。新幹線があれば十分でしょう。」

その言葉の裏側には、お前のような貧乏人は相手にしないよ。という心が見えている。

困っている人に手を差し伸べようという姿勢が見えません。

 

「じゃあしょうがないな。バスにしよう。」

 

これがお客様の結論です。

そしてバスを調べてみると、時間はかかるけど5000円も出せば必ず座れる快適シートが待っている。

確かに電車に比べれば窮屈だけど、新幹線の半額以下で、座席に電源が付いていてWifiが使えれば、まあ、時間がかかるのは許容範囲内です。

 

「あの~、寝台車じゃなくて、座席の夜行列車ってないんでしょうか? 急がないんですけど。」

 

そういう需要にも一切答えてこなかった。

だから、みんな無くなっちゃった。

面倒くさいんですよ、一晩中列車を走らせるって。

だいいち割に合わない。

新幹線だけやってれば十分でしょう。

お客さんは新幹線の時間に合わせて旅行計画を立てて、新幹線の時間に合わせて行動してください。

 

その結果、どうなりました?

今、首都圏から全国各地へ延びる夜行バスの路線網ってものすごいんですよ。

バスの台数が何台か数えてみたことないけれど、夜行列車全盛時代の鉄道の座席供給数よりも、もしかしたら多いかもしれません。

つまり、時間はかかってもよいけれど、安く行きたいという需要は今の時代でも確実にあるわけですが、鉄道会社はそういうところに見向きもしてこなかったのです。

なぜなら、新幹線だけやっていれば十分に儲かるから。

 

そして近年はLCCの時代。

鉄道の切符が、運賃と特急料金で成り立っているところ、LCCはその運賃の部分だけで飛行機に乗せてもらえるシステムで、それでいて特急列車よりも速いのですから、成田や関空まで行かなければならないという多少の不便さは我慢してでも皆さん利用するようになりました。

 

つまり、どういうことかというと、新幹線というシステムを実は高速バスや飛行機が補完しているのです。

いろいろな理由で、新幹線を選択しない、できない人たちが高速バスや飛行機に流れているということは、都市間輸送という点において、高速バスや格安航空機が新幹線を補完しているというのが現実になっています。

 

さてさて、補完機能って、どういうことでしたっけ?

大河の水に合流する支流と同じ役割をしているのが、補完機能でしたよね。

でも、新幹線を高速バスや飛行機が補完しているということは、考え方を変えれば、新幹線って、支流の無い大河だと言えるのではないでしょうか。

 

もちろん、都市間輸送の交通システムとしては、新幹線も飛行機も高速バスもありますから、どんどんパイが膨らんできているでしょうし、それはそれで文化や文明が発達するうえでは喜ばしいことだと思いますが、こと鉄道事業に関して言えば、支流の無い大河など本来はあり得ませんし、商品構成で言えば、売れ筋商品だけを取り揃えていては、売り場というのは成り立たないのですから、私は、ある意味危険な状態だと見ています。

それはどういうことかというと、事業として儲かるところをやるのは当然として、儲からないところはやらないというのが危険だと思うのです。

 

鉄道会社というのはイコール旅客鉄道会社ですから、貨物なんか関係ない。

ましてアボイダブルコストとかで貨物会社から入ってくる線路使用料も微々たるもの。

そういう貨物列車のために、設備投資などできませんからね。

本当なら、旅客列車と貨物列車って、お互いに補完しあうものなんですけど、実は相反するものになっていた。

 

じゃあ、どうすればよいんですか?

貨物列車が走らなくなったら困るでしょう?

 

最近そういう議論がありますが、でも、本当にそうなのですかね。

 

40年前のスト権ストの時に、労働者の皆さんは、「俺たちが輸送をやめたら、この国はマヒする。」と言って、国への見せしめのために鉄道を何日も止めました。

でも、この国はマヒしませんでした。

どうしてか?

40年前の時点ですでに貨物列車をきちんとトラックが補完していたからです。

 

今回は労働者のストライキではありませんが、結果的に貨物列車が止まることになりました。

では、国の輸送はどうなるでしょうか?

 

私がここで言わなくても、いずれ結果は出るでしょう。

 

そして、もし、貨物列車が止まっても、たいして影響がないようなことになるとすれば、それはそれで恐ろしいことになると思いますよ。

 

だから、長距離の輸送を行う鉄道事業者は、新幹線だろうが貨物列車だろうが、きちんと補完する機能を自社内に持っておくべきだと、私は考えるのです。

 

(つづく)