大多喜直行高速バスについて

ローカル鉄道の社長としてこういうことを申し上げるとけしからんという人もいるかと思いますが、私は高速バス歓迎論者です。
地域の人口が減少している状況の中で、ローカル鉄道が生きていく道は、観光鉄道として地域外からお客様にいらしていただくことですから、どうやったらいらしていただきやすいかということを考えなければなりません。
ローカル鉄道はふつうの鉄道とどう違うのか。
ふつうの鉄道は「目的地へ行くために乗る」のに対して、観光鉄道としてのローカル鉄道は「乗ることそのものが目的である」わけで、これが決定的な違いでありますから、観光鉄道としてのいすみ鉄道を考えた場合、いすみ鉄道にいらしていただくためには、東京湾を丁寧にトレースするように走る遠回りな鉄道に乗ってくる必要はなくて、バスであろうが自家用車であろうが、いすみ鉄道としてはできるだけたくさんのお客様に乗りに来ていただけるのであれば、別にいすみ鉄道までの手段はどうでもよいわけです。
ところが、ローカル鉄道を応援してくれている人の中には、特にシニア層の方々の中には、律儀な方が多くいらっしゃるわけで、国鉄時代から日本全国のローカル鉄道が衰退してきた理由はモータリゼーションにあるということを身を持って体験されていらっしゃるわけですから、「ローカル鉄道に乗りに行くためにはマイカーや高速バスで行くことはけしからん。」とおっしゃるわけです。
では、例えば岩手県の三陸鉄道を応援しようとした場合、そういう方々は東北新幹線で盛岡まで行って山田線に乗り換えて宮古へ到達して三陸鉄道のお客様になるということをされる傾向にあります。
で、その人が三陸鉄道の宮古から久慈まで乗車して、とりあえず目的は達成となるわけですが、その行程を考えると、お客様のお財布から3万円がなくなっているわけです。
でも、宮古から久慈までの三陸鉄道の乗車券は1850円で、消えた3万円のうちの殆どは新幹線を走らせる鉄道会社に入っています。これが事実なんですね。
ところが、お客様としては自分の財布から3万円が消えているのですから3万円を三陸鉄道を支援するために支出しているという考えになっているわけで、「三陸鉄道に3万円支援した」と胸を張っている。でも三陸鉄道には1850円しか入ってませんから、三陸鉄道にとっては3万円のお客様ではないわけです。
だったら、バスでもマイカーでもいいから、できるだけ便利で安い手段で一人でも多くの人に来ていただいて、沿線地域で食事をして、沿線地域に宿泊をして、沿線地域でお土産を買っていただく方がはるかにありがたいわけで、それは三陸鉄道という会社が第3セクター鉄道でありますから、鉄道会社には1850円しか運賃が入らなくても、鉄道に乗りに来てくれるお客様が、2万円、3万円というお金を、新幹線の会社にではなくて、地域に落としてくれる方がはるかにありがたく、地域の中で三陸鉄道の存在価値が上がるからなんです。
こういう仕組みというか、カラクリを考えた場合、私は大多喜へ直行する高速バスが走っていることはありがたいと思うわけで、いすみ鉄道へいらしていただくお客様に、できるだけ多くの人にこの高速バスを利用していただきたいと思うのです。

さて、大多喜町がなぜこの高速バスを走らせているかと言えば、それは大多喜が東京の通勤通学圏であるということを知っていただくためだと私は考えています。
大多喜町の飯島町長さんはいすみ鉄道の会長でもありますから、私はよくお話をするのですが、町長さんが数年前から気にかけていることは、大多喜高校を卒業した生徒さんが、東京の大学へ行くために、何とか大多喜から通学できるようにしたいということです。
現状の交通体系では、高校を卒業した生徒さんたちが東京の大学へ行くためには東京に下宿をしなければなりません。それは親にとってみれば経済的にも大変だというのはもちろんなんですが、大学生になって一度都内へ出て行ってしまうと、その人はかなり高い確率で卒業後に大多喜に戻ってくることはありません。だから、大学生になっても大多喜から通えるようにしてあげれば、卒業しても近くで働いてくれるかもしれませんし、少なくとも大学生でいる間は大多喜の人口が流出することはありませんから、そのために東京へ通うことができる高速バスを走らせようと考えられたわけです。
その証拠に、このバスは昨年の12月中旬から運行開始しました。シーズンオフの誰も乗らない時期に走らせ始めたということで、「誰も乗ってないじゃないか。」と批判する人もいるようですが、私が重要だと思うのは、12月の中旬に走らせ始めることで、高校生の進路の意思決定に大きな影響を与えることができるという点です。どこの大学へ進学しようかと考えた時に、12月から走り始めていれば、「このバスは使える。」ということがわかるというもので、これが「新年度から運転開始」であれば、すでに進路が決定した後ですから、即効性がないのです。
私のブログを読んでいらっしゃる方でしたら、このバスのダイヤを見ればすぐに気が付かれると思いますが、このバスは、大多喜町の人が東京へ出たり、羽田空港から飛行機に乗って旅行に出かけるためのダイヤになっています。
大多喜を朝6時に乗れば7時には羽田空港、7時半には品川駅に到着します。
都内の大学にも会社にも十分に間に合う時間です。
大多喜を8時半に乗れば10時には品川に到着しますから、都内への買い物などにも十分活用できるダイヤです。
帰りも、品川を16:15、18:25、21:30に出れば、買い物、通学、通勤とあらゆる利用が考えられますし、飛行機で羽田空港に到着した人が大多喜へ戻るのにもとても便利なダイヤなのです。
ところが、地元民の利用に特化したダイヤ設定で問題となるのは大多喜町の人口であって、約1万人の人口の大多喜町民のうち、何人が東京都内へ通勤、通学、買い物に出かけるかということになりますから、現時点では利用客が少ないというのは当然なのであります。
でも、私は、交通はインフラだと考えていますから、「乗る、乗らない」ではなくて、「乗ろうと思った時に走っている」のが一番大切なところだと思いますから、せっかく走り始めたこの高速バスを、何とか軌道に乗せて、安定的な運転を確保できるようにしたいと考えていますし、そのためには、大多喜町の人たちに一生懸命「乗ってください」と働きかけるよりも、東京の人たちに「これに乗って大多喜にいらしてください。」という方が、効果が高いと考えています。そして、それは、いすみ鉄道の利用客を増やすのと同じ方法なんですね。
この高速バスの運賃は羽田空港からは1700円。品川からは1850円です。
高速バスですから必ず座れます。
土休日の一部の時間帯を除き、ほぼ定時に走れるダイヤだと思います。
都内はもちろん、川崎、横浜方面の皆様も、ぜひこのバスにご乗車いただいて、風光明媚なアクアラインを通ってスイスイと大多喜へいらしていただきたいと思います。
ただし、現時点では城見が丘駅近くのオリブというショッピングセンターに発着しますので、大多喜駅までは10~15分ほど歩きます。
でも、しっとりとした城下町を散策する気分で歩くのもオツなものですので、片道はこのバスに乗ってみるというのは選択肢としてはかなりポイントが高いと思います。
いかがですか?
今度の休みに、早速乗ってみませんか?
(つづく)