若桜鉄道SL社会実験

11日土曜日に鳥取県の若桜(わかさ)鉄道で行われましたSL社会実験に出かけてまいりました。
昨日のブログに掲載した石破大臣との「記念写真」はその時に撮影したものですが、このSL社会実験というのはいったいどんなものだったのかというお話をさせていただきます。
まず、若桜鉄道というのをご存じない方も多いと思いますが、若桜と書いて「わかさ」と読むこの鉄道は、鳥取県の東部に位置する約19kmの旧国鉄若桜線を引き継いだ第3セクター鉄道で、昭和62年に開業しています。
いすみ鉄道と同じような経緯の鉄道です。
この若桜鉄道は2009年に日本で初めて公有民営方式の完全上下分離を実施し、沿線の若桜町、八頭町が線路施設を所有する第3種鉄道事業者となり、若桜鉄道は運営を行う第2種鉄道事業者として経営をしてきた鉄道です。
上下分離方式というのは、当時は画期的であり、国交省はじめ全国自治体でも鉄道経営の理想的な形とされていましたが、沿線の人口減少による少子高齢化などの影響で、いくら上の部分だけとはいえ利益が出ないということがやがて明らかになります。考えてみれば、沿線を走るバスに営業補助を出しているわけですから、鉄道に路盤整備費用だけ負担したところで、うまく行くわけないのですが、やってみて初めて分かったという点では、若桜鉄道がパイオニアなわけです。
そして、公募社長にお願いしようということで、昨年9月に私たちの仲間である山田社長さんが就任したのですが、実はその前から、地元の人たちが隣町に保存してあったC12型SLを何とか自分たちの町へ持ってきて、磨いたり油をさしたりして整備を始めていて、山田社長になって、それを実際に線路の上で走らせてみようとなったのが今回の社会実験ということなのです。
昨日鳥取県議会議員の選挙が終わりましたのでもうお話ししてもかまわないと思いますが、地元の県議さんで福田俊史さんという方が、地域おこしに大変情熱を持っていらっしゃる方のようで、昨年いすみ鉄道に視察にいらしていただいたんです。その時に、いすみ鉄道でやっていることを見られて、自分の地元にお帰りになられて、若桜鉄道でも不可能ではないだろうということで、保存SLを動かしてみようということになり、地元の行政や警察なども協力して、今回の社会実験が実現したというのが裏話でもあります。
そういう点では、いすみ鉄道も今回のSL走行実験には一役買っているようなものですが、いずれにしても、車両検査をして車籍を復活させるだけの予算がありませんので、日中、列車の運転を止めて、線路閉鎖をした状態で、その線路の上を火を焚かないSLを走らせたわけですから、就任からわずか半年でこの社会実験を行った山田社長さんの手腕は大したものであり、その彼の実力を最大限に発揮することができたのは石破大臣をはじめとする地元の国会議員、県会議員、町会議員、そして2町の町長さん、役場の方々の鉄道に対する思いや、鉄道を何とか維持していかなければならないという固い信念のたまものなわけなのです。
ですから、今回、若桜鉄道にお邪魔して感じたことは、鳥取県の皆様方の危機感であり、地元の人たちが、「自分たちの町を自分たちの手で何とかしなければならない。」という熱意だったのです。





C12型SLに客車3両。反対側にはDD16型DLの5両編成の列車ですが、どの車両も営業用ではありません。営業用に整備して車検を取る費用がありませんから、営業用には使用できないのです。だから、お客さんは乗せることができません。お客さんは案山子(かかし)だったのです。


折り返しの八東(はっとう)駅では地元の八頭高校のブラスバンド部が出発式で演奏していましたが、そこに蒸気機関車の出発合図の汽笛が「ボーッ!」
この距離で汽笛が鳴って、先生のひきつった顔と生徒さんたちが耳をふさぐ様子をパチリ。
SLは火を焚いて蒸気圧を上げることはできませんが、コンプレッサーで圧縮空気を作りますので、汽笛を鳴らしたりシリンダーを動かしたりすることはある程度可能です。


発車していく列車を見送る人たち。
列車は時速10?程度でゆっくりと走り去っていきました。
その後線路はご覧の状態。いちいち細かいことを言う人は誰もいません。



賑わう八東駅構内ではカレー屋さんが営業していましたので、春田社長さんといただきました。SLカレーです。


そこへインタビューを終えた山田社長さんがやってきて、スタッフから大歓迎を受けていました。大人気のスターですね。

SLが発車して30分もすると、八東駅は静けさを取り戻しました。



こちらは桜が満開の若桜駅。
千葉から駆けつけてくれた池田さんがぬれせんべいを販売中です。
同じC12を運営する真岡鉄道さんもチームでヘルプに来ていらっしゃいましたが、本当に皆さん熱心です。

この後、シンポジウムが行われて、公募社長が勢ぞろいしました。
私の向かって右隣にいらっしゃるのは、JR西日本の米子支社長の松岡さんです。
実は、松岡さんはいすみ鉄道にキハ52とキハ28を譲渡していただいた時のご担当の方なのです。皆さん、感謝ですよ。
日本の公募社長が全員集まったこの地は、パワースポットだとおっしゃっていただきました。

その後はご多分にもれず懇親会になだれ込み。
最終列車に乗るために駅へ向かうと、大活躍のC12が夜桜の下でのんびりと昼間の余韻に浸っているようでした。
今回の観客動員数は約13400人。
主催者発表ではなく、地元の銀行の職員の皆様方が手分けして、ダブらないように数えた実測数ですから、目標の1万人を軽くオーバーしています。
そして、何よりすごいのが、このSL社会実験で鉄道会社が掛けたコストは250万円とのこと。
桁が違うんじゃないかと思いますが、本当なんですね。
お金を掛けずとも、やればできる。
そして、鉄道だからこそ、全国区にもなれるし、インターナショナルにもなれるという証明ができたと思います。
今回の件で、私は、地元がローカル線にどのようにかかわるか。ローカル線をどう利用するかということを本当に勉強させていただきました。
鳥取県議の福田さんがいすみ鉄道に視察にいらして、その成果が今回のSL走行社会実験だとすれば、今度はいすみ鉄道が若桜鉄道から学ぶ番だということは間違いないようです。
山田社長、ありがとうございました。
そして本当にお疲れ様でした。