日本全国で見られる田舎の町おこしに代表されるように、一生懸命頑張っているのに、努力しているのに、なかなか結果が出ないものがあります。
結論から言って、私は、そういうところや、そういう人たちは、努力の方法論が間違っているんじゃないかと思います。
バッターボックスに立って、ヒットやホームランを打とうと思ったら、ピッチャーの投球を予測する能力や、投げてきた球を一瞬で見分ける能力、スイングフォームの研究などなど、たくさんの技術が必要です。
そして、そういう技術は、何年もかかって身に着けなければなりませんから、バッターボックスに立った時には、「準備できている状態」に自分自身がいなければならないんですね。
でも、準備できている状態にない人は、バッターボックスに立って、一生懸命バットを振っている。
本人は真剣に、まじめに、バッターボックスで力の限りバットを振っているんです。
ところが、バットはボールに当たらない。
空振りの連続。
そして、三振なんです。
で、面白いのは、そういう人に限って、「俺は一生懸命にやってるんだ!」と言ってることで、傍から見たらタイミングはずれているし、コースは見えていないし、言ってることとやっていることがどうもピンボケでずれている。
野球の話ではありませんよ。
日本全国いたるところで頑張っている人たちにありがちな話です。
では、バットをいくら振ってもボールに当たらないのに気付いた人たちは、次に何をするかというと、よく見られるのがコンサルタントにお願いすることです。
個人で実績のあるコンサルタントや法人に指導をお願いして、どうすればうまくいくのか、そのためにはどうしたらよいかを尋ねるわけです。
頼まれた方は得意分野ですし、実績もありますから、今までの経験から編み出した方法をわかりやすく教えますし、頼んだ方は高いお金を払っているから、一生懸命勉強します。
中には、予算を消化するためにコンサルに依頼して報告書を作ってもらって、それをファイルするだけで、「はい、やりました。」というところもあると思いますが、たいていのところでは、田舎の人たちが一生懸命勉強しています。
商工会議所や経営勉強会などの青年部のやる気のあるメンバーが毎週夜に集まって勉強会を開いて、世の中のことを勉強している。
そういう人たちはたくさんいます。
「俺たちは努力してるんだ。」とがんばってるんですね。
でも、私から見ると、そういう人たちは、コンサルの言うことを、フムフムと聞いて、解かった気になってるだけで、そういうことは努力とは言わないんです。
話を野球に戻すと、コンサルにお願いするということは、コーチを雇うのと同じです。
予算が許す限り、できるだけ優秀なコーチに来てもらって、相手のピッチャーの癖や選球眼、バッティングのフォームなどを一生懸命勉強しているのと同じことです。
でも、私はそれではダメだと思うんです。
なぜかというと、どんなに優秀なコーチに来てもらって、その人にいろいろ指導してもらったとしても、コーチが野球をやるのではなくて、バッターボックスに立つのは結局は自分で、バットを振るチャンスは3回しかないからなんです。
3つストライクを取られたらアウトですから、その3回のうちに塁に出なければ負けなんですが、いくら良いコーチに教えてもらったとしても、いきなりバッターボックスに立って、3回のうちにヒットを打つのは至難の業ですからね。
コンサルにお願いして、一生懸命勉強して、解ったような気になったとしても、例えばその町おこしや会社の立て直しをコンサルがやってくれるわけではなくて、自分がやらなければならないんです。
だから、どんなに一生懸命そういう努力をしたとしても、私はそれは努力とは言わないし、そんなことは止めたほうがいいと思うのです。
まして、田舎の町おこしというのは都会をビジネスの対象にしています。
地元の産品を都会に売り込んだり、都会の人の気を引いて、自分のところに観光に来てもらわなければなりませんし、そのためには海千山千のマスコミの人たちに取り上げてもらって紹介されなければなりません。
紹介されるまではもちろん大変ですが、運よく紹介された後、その効果をできるだけ長く持続させて、一度来てもらったお客様にリピーターになってもらわなければなりません。宣伝効果を持続させることや、リピーターとして継続させることは専門の知識ややり方が必要です。ところが、相手は都会の人ですから知識も経験も向こうのほうが上ですから、田舎の人が考える程度の方法では、お客さんとしてついてきてもらえないんですね。
田舎というのはのんびりとしていますし、それが田舎の良さでもありますが、一般的に言って、プランニングや実行力、取捨選択、研究開発など、さまざまなスキルで都会には及びません。でも、田舎で町おこしをやっている人たちは、そういう都会の人たちと勝負するのですから、いうなれば草野球の選手がプロ野球の選手に勝負を挑むのと同じなんですね。
だから、どんなにいいコーチに来てもらったとしても、ヒットを打てるのはわずかで、それが、日本全国で皆さん頑張って町おこしをやっているけれど、芽が出るのは数えるほどしかないという現実が証明しているんです。
さて、私がいすみ鉄道沿線の自治体の皆様方が「すごいなあ」と思うのは、公募社長を雇ったこと。
つまり私のことですが、私はコンサルじゃないんです。
私はアドバイザーではなくて社長ですから、自分でやるんです。
ということは、野球で言ったらコーチじゃなくて、代打なんです。
いすみ鉄道に来てから私がやってきたことをよくご覧いただいている方はすでにお気づきだと思いますが、私は、バッターボックスに入ることができない選手を打てるように指導するためにやってきたのではなくて、その選手に代わってバッターボックスに立って「打つ」のが仕事なんです。
だから、この5年間、次から次にヒットやホームランを打っているわけで、普通の人が「ストライク3回しかないチャンス」が、いすみ鉄道の場合は「3回もストライクが来るチャンス」になっているのです。
これはとても不思議なことなんですが、私は、いすみ鉄道の社長になった時点で、自分にそういう選球眼や打撃力など、代打としての力があるとは気づいていなかったんですが、やっているうちにコツがわかってくると、本当に不思議なことに、どういうバットの出し方をしてもヒットになるし、最悪、デッドボールでもフォアボールでも、塁に出られればヒットと同じですから、それでいいわけで、この5年間、まるで「あぶさん」のように、ずっとそうやって代打稼業を続けているだけなんです。
代打ですからチャンスの時に打てて当然で、別にえらくもなんともないんですが、えらいなあと思うのは、私のことを発掘して採用してくれた地域の首長さんたちで、彼らには選球眼があったということだし、彼らが私を選んでくれなかったら、今の私はなかったわけで、私が自分で気づかなかった力を見出して、引き出してくれたんですね。
だから私は、私を選んでくれた地域の人たちに喜んでもらうようないすみ鉄道にするのがテーマだといつも申し上げることにしているんです。
「いすみ鉄道の社長はマニアだから」という人たちもいるようですが、マニアだということは「野球が好き」ということですから、そんなのは当たり前のことで、じゃあ、マニアだったらヒットが打てるんですか? ホームランが打てるんですか? と聞けば打てるわけないんです。
マニアならいろいろ講釈はならべることができるでしょうが、実際にバッターボックスに立ってヒットを打つためには全く別の技術が必要で、そういう技術は、必要な時になって身に着けようと思ったってもう遅いですから、いつか必要になるかもしれないという段階で一生懸命頑張らなければならない。
そういうことを、「努力する」と言うんだと私は考えるのです。
これは余談ですが、野球が嫌いな人が野球選手になったとしても、上達できるとは思いませんが、「うちの会社にはマニアはいらない。」と言っている会社って、野球嫌いな野球選手を採用するように見えて、私はいいサービスを提供する会社にはなれないんじゃないかとも思いますが、意外とそういう会社って世の中にたくさんあるんじゃないでしょうか。
だからと言って、マニアなら採用されるわけではありませんよ。
ただ、マニアであるということは、本人が知らないうちに努力していて、その仕事に対する準備ができている人が多いんじゃないかなあと思うわけです。
汗だくになって空振りをして、「こんなに頑張ってるのにどうして結果が出ないんだ?」と言っている方がいたとしたら、それは努力をしていることにはならないんです。
そこんとこ、よーく考えてみてください。
(つづく)
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