世の中は誰が動かしているか。

私は今年6月で53歳になります。
50代というのは微妙な年齢で、50も半ばを過ぎると、会社の方から「そろそろお暇(いとま)していただく時間ですよ。」と言われかねません。
昭和の時代はサラリーマンの定年が55歳で、それが58になり、60になり、63になり、65までになるという風に推移してきましたが、これは何も人間の気力体力が伸びてきたのではなくて、国が年金を払う都合で引き上げられてきただけなので、一般的には50も半ばになると、だんだんと気力も衰え、体力も無くなっていくのが人間というものです。
では、いったい誰が世の中を動かしているのかというと、気力も体力も一番充実しているのが40代の人たち。
第一線で活躍する企業戦士と呼ばれる人たちは、だいたい40代です。
日本航空も全日空も、機長さんの主流は40代で、熟練した技術と、的確な判断力を求められる高度な仕事は、やっぱり40代がピークで、50を過ぎると、経験の蓄積はあるものの、身体がきつくなったり目が見えなくなってきたりして、どちらかというと後輩の指導や管理部門の仕事の割合が多くなったりします。
つまり、世の中は40代の人たちが中心になって動かしていて、国際情勢などにも常に敏感になって情報を仕入れて、日々の業務を行っているわけです。
ところが、都会ではそうだけど、地方へ行くとまったく事情が違います。
地方で、世の中を動かしている(と自分たちが考えている)のは、60代や70代の人たちというのが現状です。
東京や大阪などの大都市の企業が、気力も体力も旺盛な40代が一生懸命支えているのに対し、地方へ来ると、第4コーナーを回って、あとはゴールまでどうやって「自分だけが」逃げ切るかという年齢の人たちが中心になっているわけですから、これでは地方都市が東京や大阪などの大都市にかなうわけないのです。
これが、今の日本の都会と地方の構図というか構造です。
こういう地方の構造の中で、実は可愛そうなのは地方にいる30代40代で、東京の会社なら、バリバリの働き盛りという年齢なのに、田舎にいるという理由だけで、上がつっかえているもんだから、「お前はまだ早い。」とお父ちゃんたちに言われてしまって、活躍できずにくすぶっている。
そうこうしている間に息子だって40、50を越えて、いい年になってしまうわけで、その年齢になって上からバトンを渡されても、東京ではすでに使い物にならない年齢なわけですから、やっぱり、東京にかなうわけないのです。
だから、この構造を変えない限り、将来的にも地方に未来はないというのが私の物の見方です。
今、いすみ鉄道沿線にはドラマの撮影のためにNHKの撮影チームが毎日のように来ています。
大河ドラマのプロデューサーをやっている方も来ていますが、監督もプロデューサーもカメラクルーも皆さん40代です。
NHKでもそういう年齢の人たちが中心となって働いているのですが、片や大多喜町で大河ドラマを誘致しようとしている実行委員会のメンバーの人たちは、皆さん60代から70代の長老の域の方々。
そういう人たちが、自分たちの町で大河ドラマをやってほしいと陳情に行く相手がバリバリの40代で、つまりは自分の息子の年齢なわけです。
そして、陳情ですから、自分の息子の年齢で、世界を相手にバリバリと仕事をしている皆さんを説得して納得してもらわなければならないわけです。
自分の息子の年齢である彼らに「わかりました。」と言ってもらわなければならない。
家では自分の息子に向かって「お前のような若造に何がわかる。」 「お前にはまだ早い。」と言っているのに、東京の会社に要望を出す相手が息子の年齢なのですから、そういう人たちを説得できると思う方がおかしいわけです。
だから、こういうことが都会と地方にはギャップとして存在し、それが日本の構造になっているということをまず理解するところから始めないと、物事は何も変わらないわけです。
私は、常日頃から物事をそういう見方で見ていますから、地元の長老たちが大河ドラマの誘致のために実行委員会を作り、何年も要望書を提出しているのに一向に振り向いてもらえないのに対して、いすみ鉄道にはテレビが来たり雑誌が来たり、ひっきりなしにマスコミで取り上げられているのです。
これは、偶然なんかじゃないんですよ。
要は物事の本質はどこにあって、それを誰がやっているかということを見極めて、彼らがどうしたら取り上げてくれるか、振り向いてくれるかということを考えて、いすみ鉄道は実践しているわけで、だから、いつも、「いすみ鉄道を利用しない手はないですよ。」と地元で申し上げているのです。
かつては「大多喜町の下請け」とさげすまれていたいすみ鉄道が、今や牽引車になっている、というのも事実であって、それを素直に受け入れない限り、沿線地域に未来はない。
と、私は考えているのです。
いかがですか? 皆さん。
田舎であればあるほど、インターネット環境など最先端の技術が必要であるし、最先端の物の考え方が必要になる。
それを理解して、そういう算段をしたところだけが、浮上できるというのが、世の中なのだと思います。
つまり、今までと変わらない限り、何も進まないということです。
そして問題なのは長老の域の方々ばかりでなく、その下でくすぶっている30代、40代のおじさん達も、いつまでも親の保護の下に身を寄せているんじゃなくて、思い切って巣から出て、自分たちで物事を考え、実践していく勇気と、責任感と行動力を示さないといけないんです。
なぜなら、そういう皆さんの姿を、中学生、高校生になった子供たちが見ているから。
そう遠くない未来に彼らが地域の牽引車になるのに、その姿を親が見せなければ、永遠に地域に未来がない。
恐ろしいのは、自分が気づかない間に、世の中を動かすという責任を放棄しているということなのです。
応援団の掛須団長や、鈴木助役が正面からの風に立ち向かって、自分たちで一つのプロジェクトを進めてきた姿こそ、若い人たちのお手本になる。
今回のみんなでしあわせになるまつりを見て、いすみ鉄道沿線地域にもそういう流れが出てきたのかもしれないと思えたのが、この地域の可能性なんじゃないでしょうか。