需要を開拓するということ。

いすみ鉄道が観光路線としてターゲットとしているお客様は、首都圏3500万人の人口の0.5%ですと申し上げました。
その0.5%の人が、年に2回訪ねてきてくれれば、いすみ鉄道はローカル線として、地域の足としての鉄道を維持することができますし、地域にもそれなりの経済効果を伴うこともできるでしょう。
そして、何より、その位の人数でなければ、いすみ鉄道のようなローカル線はお客様をさばくことができませんので、それが「器」です、ということです。
では、その0.5%のお客様はいったいどこにいらっしゃるのか。
例えば、今は団塊の世代に皆様方がリタイアされて、旅行需要が高まっていますから、観光バスツアーなどで、日帰りでいろいろなところへ出かけるマーケットというのは存在します。
これはどなたでもご理解いただけることだと思いますが、そういう一般的な観光のお客様は、おそらくいすみ鉄道にいらしていただいても
「な~んだ、何もないじゃないか。つまらないところだ。」となるでしょう。
だから、そういう既存のマーケットを追いかけても、いすみ鉄道のようなローカル線の商売は成り立たないわけです。
では、どうしたらよいかというと、いすみ鉄道は「何もない」わけですから、そこに需要を作り出すことをしなければなりません。
どんな商売でもそうですが、その需要を作り出すということができればその商売はうまくいくでしょうし、需要を作り出すことができなければ、その商売はいずれ衰退するのです。
私は長年成田空港で働いていました。
空港ですから飛行機が発着し、お客様が行き来します。
つまり現場です。
現場というのは毎日毎日お客様の動きを見ていますし、世の中の流れを肌で感じることができます。
だから、現場第一主義というのはとても大切なことです。
ところが、現場というのは所詮現場であって、それ以上ではありません。
商品開発などのマーケティング戦略の人たちから見ると、「ああ、現場の意見ね。その程度でしょう。」ということになります。
でも現場としてみれば、「俺たちは現場だ。お前たちのように机の上で物を考えている人間とは違うんだ!」となって、お互いに相反する存在となることがしばしばあります。
ここが、現場の人間が陥りやすいところです。
つまり、現場というのは毎日毎日のお客様や商品の動向が見えていて肌で感じているわけですから、「現状」についてはよくわかります。
でも、明日、来週、来月、来年にどのようなお客様が来てくれるかということは、現場の人間にはなかなかわからないのです。
この現場の人間が一番把握しているお客様を「顕在顧客」と呼びます。
今、実際にいらしていただいているお客様のことです。
そして、現場の人間ではなかなか把握することが難しい明日、来週、来月、来年来てくれるかもしれないお客様のことを「潜在顧客」と呼びます。
需要を開拓するということは、この「潜在顧客」をどうやって掘り起こすかということから始まるのです。
ところが、一口に潜在顧客といっても、今、目の前にいるわけではなく、未来、将来は誰にもわからないわけですから、そういう将来お客様になるかもしれない人がどこにいるのかを探すことは容易ではありません。
ジュースやビールなどの飲料メーカーでしたら、商品は一般の人を対象とした一般的なものですから、例えばビールでしたら初夏には「ホップの味にこだわる商品」。夏には「爽快感」。秋冬は「お鍋に合う濃厚な味」など、季節に合わせて需要を作り出すことが可能でしょうし、こういう一般消費者を相手にする商品であれば、マーケティング戦略担当者やコンサルタント会社がお得意とする手法があるのですが、「ローカル線をブランド化する」というようなきわめて特殊な商売は、今まで誰も手を付けたことがありませんので、教科書に載っているわけではありません。どこに潜在顧客が存在するかといったことを担当してくれるコンサルタント会社もありませんし、あったとしても、頼む前から効果は怪しいと覚悟しなければならないのです。
でも、そんなニッチな需要であっても、物の見方、考え方を変えることで、いとも簡単に見つけ出すことができるのが、商売というものの面白いところだと私は思います。
(つづく)