ファイナル・カウントダウン

いよいよあと4日。
4日後の31日に2つのローカル線がその使命を終えて廃止されます。
1つは長野県の長野電鉄屋代線。
しなの鉄道(旧信越本線)の屋代駅から分岐して須坂へと走る全長24kmあまりの路線。
もう1つは青森県の十和田観光電鉄。
こちらは青い森鉄道(旧東北本線)の三沢駅から分岐して十和田市までの約15kmの路線です。
どちらも長い歴史がある路線ですが、それ以外にも共通することがいくつかあります。
【共通事項】
1:私鉄である。
JRでもなければ、旧国鉄のローカル線を引き継いだ第3セクターでもありません。
純粋な私鉄。時刻表の表記では「会社線」です。
2:旧国鉄の本線から分岐する路線である。
信越本線、東北本線といった旧国鉄の大動脈の基幹駅から分岐する路線です。
3:新幹線が新しく開業している。
長野新幹線や東北新幹線が新しく開業し、沿線の近くを走っています。
4:電化路線である。
どちらも電化されて、東京で活躍した車両を払下げてもらって使用している。
5:設備の老朽化
開業から長い年月が経って設備の老朽化が目立ち、新しい設備投資が必要になってきている。
6:冬は雪におおわれる厳しい気候地帯。
青森県は今年の豪雪で大きな被害が出ました。長野県の屋代線沿線も冬は厳しい気候です。
7:地元の支援を得られない。
長野電鉄屋代線は廃止反対運動が熱く行われましたが、地元の人たちは鉄道の廃止は反対だけど、自分たちで寄付を募るなどの具体的な支援行動を起こすところまでは行っていませんでした。
十和田観光電鉄に限って言えば、沿線での廃止反対運動もほとんど聞こえてきませんでした。
こういう同じような環境の2つの鉄道が、長年地域の足として走り続けてきた生活路線であるはずなのに、いとも簡単に廃止されてしまうのです。
私は不思議でなりません。
私なりの分析です。
1:私鉄であるということ。
関連事業の中にバス部門があります。どちらかというと鉄道会社というよりもバス会社といえる企業です。
鉄道の代替輸送手段として、バスを運行することが可能なわけです。
十和田観光電鉄の場合は、通常1年前とされている廃止の申請が昨年の夏。つまり、申請から半年程度の期間で廃止されてしまう訳ですが、地域輸送という考え方で行けば、「バスで運行します。」とすれば良いわけです。
お客様を運ぶという仕事としては、何もコストがかかる鉄道線路を維持する必要はないのです。
2:旧国鉄から分岐する路線。
このような路線は、東京から運んできた乗客や物資を内陸部へ運ぶ、または内陸で産出された資源や産品を東京などの大都市へ運ぶために建設されました。
屋代線も十和田観光電鉄も、かつては国鉄と線路がつながっていて、貨物列車や旅客列車が直通運転を行っていました。
長野電鉄の屋代線は、上野から湯田中へ行く急行列車が直接乗り入れていて、スキー客などでにぎわっていたところです。
ということは、すでに建設された当初に求められていた本来の役割は終了しているのです。
3:新幹線効果?
高度経済成長期に地方では新幹線待望論がありました。新幹線が来れば発展すると信じられていたのです。でも、20年30年後、新幹線が実際にできてでみてどうでしょうか。
人の流れは新幹線の駅へと向かいます。
新幹線の駅周辺だけが発展するようになります。
十和田観光電鉄は十和田市の人たちが東北本線の特急に乗るために三沢駅まで利用しましたが、新幹線ができて、十和田市の人たちは七戸十和田の駅まで車で行って新幹線に乗るようになりました。
ましてや、七戸十和田駅付近の駐車場は無料なのですから、なおさらです。
人の流れが変わってしまったわけです。
かつての基幹駅にとっては新幹線逆効果と言えると思います。
4:電化路線である・5:設備の老朽化
かつて、国鉄の幹線からの列車が乗り入れるに当たり、同様の電化を行ったり、鉄道に賭ける期待から電化設備を設けたりしました。それらは50~60年、それ以上経って老朽化し、電柱や架線のみならず、変電所設備まで更新が必要になりました。億単位のお金が必要になったわけです。
電車をやめてディーゼルカーにすればコストも下がるし、良いと思います。
事実、電車をやめてコストが低いディーゼルカーに変更した路線もあります。
ただ、電車とディーゼルカーでは根本的な問題として運転免許が異なりますから、現状の運転士さんが運転できなくなります。
様々な問題が副次的に発生してくるのです。
6:雪に覆われる地域
一昔前までは、冬場の雪の季節にはバスでは対応できないからという理由で鉄道を残すことがよくありました。北海道の深名線なども、並行する道路ができるまでという条件で鉄道が存続していました。少子高齢化と人口減少が続く地方でも、沿線の道路設備がほぼいきわたった今では、冬場のためには鉄道が必要という議論はされなくなっているのかもしれません。あくまでも健常者の論理と言えるでしょうが。
7:沿線の支援。
これが一番重要なポイントです。
廃止反対運動は起こりますが、沿線の人たちが実際に鉄道を支援しようという運動は起こらかったのです。
これが、いすみ鉄道などの第3セクター鉄道と私鉄の大きな違い。
第3セクター鉄道は国鉄(国)が切り捨てた生活路線を地元が守り運営してきた路線。だから、地元の人たちの愛着度が強い。
それに比べて私鉄は「自分たちの鉄道」という意識になりきれないようです。
私鉄のある無人駅を訪ねたところ、地元の人が「鉄道会社は駅のトイレをきれいにしてくれない。」と言っていました。
いすみ鉄道沿線では、私が就任する前から、近所の人が自分たちで駅のトイレをきれいにしたり、駅構内の草刈りをして、花を植えてくれていました。
赤字の路線では鉄道会社は設備投資をしたくてもすることができません。
だから設備が古くなったり掃除が行き届かなかったりする。そんなときに地域の人たちが「汚い」と文句を言うことは簡単ですが、なかなか自分たちで率先して環境美化に努めることはしないのです。
でも、そういう土壌を作っていかなければ、自分たちの鉄道を自分たちで守ることはできない、と私は思うのです。
「乗って残そう」といくら掛け声をかけても、廃止反対の住民集会の会場に入りきれないほどの人たちが集まったとしても、その集会場の駐車場が満杯で交通整理が出るほどで、誰も鉄道に乗って廃止反対集会に来ないようでは、「ダメ」とは言いませんが、その方法は有効ではないわけです。
鉄道に限らず地域の公共的なものは、今、どこも同じような状況になっているのではないでしょうか。
そんな時こそ、地域の人たちが自分たちで守っていくという姿勢を示すべきだと思います。
十和田観光電鉄の場合は目立った廃止反対運動すら起こらなかったことがとても悲しく思います。
沿線には2つも3つも高校だあるわけですから。
バスでは運びきれなくなるのは目に見えているのです。
あとは、鉄道を廃止してしまった地域としてのさまざまな弊害が、数年後にボディーブローのように効いてこないことを祈るばかりです。

[:up:] 長野電鉄 屋代線 旧営団地下鉄の日比谷線で活躍した電車が走る。
[:down:] 十和田観光電鉄 こちらは東急の電車が活躍。
両線の電車はかつて日比谷線や東横線ですれ違っていたことを考えると興味深いですね。