新幹線の弱点 その2

本日はこの時間に帰宅できましたので、6月22日の続きです。

 

先週は暴風雨で新幹線が止まりました。

もちろん飛行機のダイヤも乱れましたが、新幹線の場合は、延々と数百キロつづく線路設備の途中どこか一か所でも「運転ができない状態」になれば、目的地へ行くことができなくなります。これに対して、飛行機ならば出発地と到着地の飛行場周辺の条件だけですから、途中がどうなってようが関係ありませんね。

でも、飛行機の場合は新幹線とは全く別の、例えば「機材繰り」などという問題で飛べなくなったりしますから、今、飛行機の路線と新幹線と両方持っているところは、ダブルトラックを維持するために、航空会社に撤退されないように努力をするべきですよ、と申し上げました。

なぜなら、延々と線路を建設した新幹線は絶対に撤退することはできませんが、航空会社はすぐに撤退してしまいますから、地元の皆様、特に地域行政の皆様方は、新幹線をヘルプする必要などなくて、航空路線をヘルプするべきなんです。

そう、新幹線は「儲からないからやめます。」と言えない構造になっているわけですから、地元として守るべきは航空路線であって、つまり、そういうことも新幹線の弱点なわけです。

 

さて、新幹線は高速鉄道です。在来線の2倍も3倍ものスピードで走行します。

ということは、かなりのハイスペックな設備を持ってオペレーションを行っているわけで、私はそれ自体が新幹線の弱点だと考えています。

鉄道というのは一番最初は非電化単線でした。

それが複線になり、あるいは電化されて、そして100年ぐらいかけて新幹線になって行ったのです。

新幹線をオペレーションするためには、高速鉄道に求められるすべての条件が揃わなくてはなりません。

条件が揃わなければオペレーションできないのです。

 

例えば、電化されている路線であれば、架線障害が発生すれば列車は走ることができません。

ところが、いすみ鉄道のようなスペックが低い非電化路線であれば、架線障害などありませんから全く問題ありません。

このように、スペックが高くなればなるほど、簡単に言えば、ひとつでも条件が揃わなければ走ることができなくなるというのも、これまた事実です。

停電が発生した場合はどうでしょう。

先週の新幹線の運転中止では、架線からの電気が切れた途端に列車は駅間で停止します。そして空調もすべて停止します。そうなると車内は蒸しぶろ状態ですね。高速走行のスペックを求められる新幹線の車両は窓が開きませんから、給電が停止して空調がきかなくなっても対応ができません。お客様は蒸しぶろ状態の中、何時間も車内で待機しなければなりません。

こういうことは頻繁に発生しますから、だったら空調用の予備発電機ぐらい搭載してもよさそうですが、本来高速性能を求められる新幹線電車には、そんな、使うか使わないかわからないようなものを常に搭載しておくことなど認められないというのが基本思想ですから、バッテリーのわずかな電力で予備灯が点くのが精いっぱいということなのです。

 

飛行機はどうでしょうか?

飛行機の場合は地上で待機を命じられたときには補助エンジンを作動させて電気系統だけは作動させることができますから、空調は確保されます。でも、この補助エンジンというのは連続使用時間が限られますから、いつまでも地上で待機させることは許されません。会社としては、出発のめどが立たない場合は飛行機をゲートに戻してお客様を空港ターミナルビルに降ろしてしまいます。

つまり、自機で対応できなければすぐに次の手を打つことができるのですが、新幹線の場合はそれがなかなかできません。

飛行機ならターミナルビルからホテルにご案内となるところが、新幹線の場合は最終的には列車ホテルとしてホームに列車を停止させて、その中で一夜を明かすことになりますね。

新幹線が駅間で停止するということは、飛行機が途中に不時着するなんてことよりはるかに頻繁に発生しますから、つまり、新幹線は「何かあったら停止すればよい。」のですが、飛行機の場合は「何かあっても止まることができない。」ですから、そもそもオペレーションに対する認識というか緊張感が違うわけで、つまり、新幹線の方が「Goか、No Goか」の判断基準がゆるいわけで、そういう点では飛行機に比べて新幹線は有利にできていますが、とりあえず止まればよいという判断基準で、駅間でも平気で停止して、送電が切れている中で何時間も待たなければならないという事態が頻繁に発生することを考えると、乗客にとってみれば、それは新幹線の弱点になるのではないでしょうか。

 

あくまでも墜落や脱線転覆などによる命の危険は計算に入れないという前提ですが、オペレーションにより多くの制約がある飛行機の方が、お客様にとって見たら空調がきかない密室に飲まず食わずで一晩缶詰めにされる新幹線より、飛ぶのか飛ばないのかサッサと決断してくれる飛行機の方が、いろいろサバイバルするための方法を自分で決めて行動することができますから、私のような人間にとって見たら、選択の優先順位が高くなるわけで、そういうところが新幹線の弱点のひとつではないかと考えるのであります。

 

ただし、「飛行機は飛ばないけれど新幹線は運行します。」ということも往々にして発生するわけで、どちらが良いかは、それぞれのお客様がそれぞれの特性をしっかりと把握して利用するというのが、今の時代の交通機関の使い方なのではないでしょうか。

だとすれば、新幹線と飛行機のダブルトラックが用意されている地域は、それだけで他に比べたら有利ということになると考えられますね。

 

途中で止まるかもしれないけれど、とりあえず動くから新幹線で行こう。

そういう人は、食料と飲みのものを確保して、一晩列車に缶詰になっても大丈夫なようにグリーン車に乗る。

私が天気の悪い日に新幹線に乗る時は、こうやって考えて準備してから乗り込みます。

 

飛行機が飛ばないかもしれないけど、とりあえず空港まで行ってみよう。

ネットで確認して、自分の乗る飛行機が「どうやら飛ぶようだ。」という時は、飛ばなかった時の周辺ホテルの空き状況を確認しながら、先方に状況を説明して空港へ行きます。

 

それぞれの弱点をあらかじめ知ったうえで利用するようにしてますから、昨年12月に千歳空港の大雪で全便欠航になった時でも、まず千歳空港で腹ごしらえをして、スーパー北斗のグリーン車で函館へ行き、タブレットで予約した函館駅前のホテルに泊まり、翌日の函館ー東京便に自分で予約変更して帰るなんてことをふつうにやるのですが、ひとつだけ持っている心構えは、「誰も助けてくれない。」ということ。鉄道会社も航空会社も、混乱時には乗務員や職員の人たちは手いっぱいになりますから一人一人を助けてくれるようなことはありません。助けてくれるかもしれませんが、長時間待たされた挙句、その時は振替便も列車もホテルも一杯になっていますから、やっぱり、自分のことは自分でやる。そして、逆に、困っている人がいたらお手伝いをしてあげるぐらいの気持ちでいれば、まあ、いちいち腹も立たないということです。

つまり、そういう時に駅員に食って掛かったり、腹を立てている人がいたら、そいつは自分が決断力も判断力もないということになりますからね。

今回の新幹線の列車ホテルでは、駅構内の売店が臨時営業したようですが、そういう点では鉄道会社もずいぶん臨機応変に対応したんだなあと感心しました。

 

でも、本当に一番良いのは、そういう時には無理して旅行をしようと思わないような、余裕のある人生を心がけることではないでしょうか。

 

(おわり)