条件付運航の週末

この冬最大級の寒波が日本列島の広い範囲を覆ったようで、昨日今日は全国的に大雪に見舞われたところが多くありました。

 

受験生の皆様方も大変でしたね。

でも、何よりも大変だったのは、輸送の現場に勤める皆様方だったと思います。

これだけの雪が降っていながら、鉄道はよく頑張ったのではないでしょうか。

東北方面はまだしも、東海道新幹線は昔から雪に弱いとされていますが、それでも数十分程度の遅れで走っているのは、私は立派だと思いますし、混乱を最小限に抑えることができたのは現場の職員の皆様方の努力のたまものだと考えていいと思います。

 

飛行機も、結構頑張ったのではないでしょうか。

欠航便や引換し便が多数発生しましたが、それでも、ずいぶん頑張ったと私は思います。

 

空港では、「〇〇行は、目的地悪天候のため、着陸できない場合は、羽田空港に引き返すことが予想されます。どうぞご了承ください。」というアナウンスがあちらこちらで聞こえてきますが、いわゆる条件付運航というやつですね。

でも、航空会社から「どうぞご了承ください。」と言われても、お客様はどうして良いかわからないのが本音だと思います。

 

では、この条件付運航というのは、いったいどういうことなのでしょうか。

 

航空会社的に考えると、条件付運航というのは、別に最初からお客様をけん制しているわけではなくて、実は、お客様の意思を尊重することができるかどうかの基準なのです。

 

航空会社では「Voluntary(ボランタリー)」と「Involuntary(インボランタリー)」という2つの考え方を使い分けています。

ボランタリーというのは、お客様の自由意思に基づく決断で、インボランタリー(通常、インボラと呼びます。)は不本意ながらという意味ですが、つまりお客様の自由意志に基づかない決断という意味でつかわれます。

 

どういうことかというと、例えば、お客様の所持している航空券が、「変更不可、払い戻し不可」だったとします。

通常、何もない時にお客様が「旅程を変更したい。」とか、「払い戻しをしたい。」と申し出た場合は、ボランタリー、つまり自分の自由意思でのお申し出になりますから、航空券の規定に従って「お客様のご希望はお受けいたしかねます。」ということになります。その航空券の条件では変更も払い戻しもお受けできませんよ、ということです。

ところが、条件付運航になると、インボラ扱いになります。

つまり、お客様の自由意思に基づかない決断ということです。

「本当は予定通り目的地へ行きたいのだけど、引き返してくる可能性があるなら、新幹線で行きますから払い戻ししてくれ。」とか、

「今日はやめて、明日にするから、予定を変更してくれ。」などという払い戻しや変更が、たとえ払い戻し不可、変更不可の航空券を所持していたとしても可能になりますよ、ということです。

これが、ボランタリーとインボラの違いで、航空会社の一つの判断基準になるのが、この条件付運航ということなのです。

▲クリックすると大きくなります。

 

さて、ではこういう条件付運航の便に乗って、実際に目的地に降りられなかったらどうなるのでしょうか。

これは、今日の羽田から広島の運航状況ですが、午前6:40発の日本航空253便は広島空港に着陸できずに羽田空港に引き返しています。

ところが、その次の午前8:40発の日本航空255便は、同じように広島空港には着陸できなかったものの、羽田空港には引き返さずに、そのまま福岡空港に向かって、福岡空港に着陸して、そこで運航打ち切りになっています。

羽田空港に戻ってくれば、そこで運航打ち切りとなり、航空券が払い戻しになります。

福岡空港へ到着すれば、航空券の払い戻しはありませんが、輸送の契約は広島までですから、航空会社がバスを用意して広島まで送り届けるか、新幹線の切符の代金をお客様へお渡しして、後はこのお金で広島へ行ってください。ということになります。

 

条件付運航のアナウンスで、「広島空港雪のため着陸できない場合は、羽田空港に引き返すか、福岡空港に向かうことがございます。」というのがこういうことなのですが、では、実際に羽田に戻ってくるのか、福岡へ行くのかということは、その時になるまでお客様に知らされることはありません。

お客様にしてみれば、羽田に戻るよりも福岡空港に降りてくれた方が、新幹線で広島まですぐに向かえますからありがたいはずですが、そういうところでのお客様の都合というのは、いくらインボラと言っても、航空会社は考慮はしません。

 

では、なぜ始発の253便が羽田空港に戻って、次便の255便が福岡空港へ行ったのかという疑問がわいてきます。

その理由は、運航上の判断ということで通常は片づけられてしまうのですが、それでは元も子もありませんから、今夜はちょっとだけ解説してみましょうか。

 

始発の253便広島行の飛行機は、通常ならば、羽田から広島空港へ到着した後、日本航空254便として広島(9:10発)羽田(10:25着)として羽田空港に戻る運用が組まれています。そして、羽田到着後、その同じ飛行機が、羽田11:15発の日本航空259便としてもう一度広島へ向かうという運用になっています。

だから、今日の場合も、羽田空港に戻して、しばらく待機した後に、259便としてもう一度広島へ向かったわけです。(この便は広島に着陸しています。)

 

ところが、次の日本航空255便の飛行機の運用はというと、定刻の場合、10:10に広島空港に到着した後、日本航空3403便として札幌へ向かう運用が組まれています。だから、羽田空港に戻らずに、福岡空港へ向かったのです。そして、福岡空港でお客様を全員降機させた後、福岡発札幌行の日本航空3515便として、その飛行機が札幌へ向かいました。

実は、本来の日本航空3515便に使用する機材は、名古屋を朝出て、札幌へ飛んで、札幌から福岡へ飛んできた機体の折り返し便が使用されるのですが、名古屋―札幌が名古屋空港の雪のため大幅に遅れていたため、広島から福岡へ255便をダイバートさせ、その機体を福岡発札幌行の飛行機に使用したのです。

では、日本航空3515便として福岡から札幌へ着いた飛行機はどうなるかといえば、すぐ折り返して日本航空520便として羽田へ向かいます。

 

 

札幌ー羽田線は、通常はB777やB767の大型機材ばかりが飛んでいますが、この520便はB737で運航されています。

その理由は、福岡から飛んできた飛行機が使用されるからで、では、この520便が18:55に羽田空港に到着したらどうなるかというと、この飛行機は19:55発の日本航空671便となって大分に向かう運用が組まれていて、大分に21:40に到着して、大分空港で一晩駐機した後、翌日の初便となって羽田へ戻る運用なのです。

 

航空機というのは、このように、目まぐるしくあちらこちらへの運用が組まれていて、天候で欠航や遅延が発生している中においても、できるだけ他の区間のお客様にご迷惑をおかけしないように、こまめに運用変更を行って、定時運行を目指しているのです。

 

鉄道の列車の運用も同じですが、決して、悪天候だからと言って、安易に欠航や運休を決めているのではなくて、輸送の使命を最大限に全うするために、現場で、できる限りの対応をしているというのが実際のところなんです。

もちろん機体や車両の編成の運用ばかりではなく、それを運行する乗務員の運用変更も同時に行われます。ということは、乗務員の方々は、突然の乗務変更や運用変更にもきちんと対応しなければならないということになります。

 

だから、私は、これだけ全国的に雪が降っている中で、航空会社も鉄道会社も、現場の皆様方は良くやっているなあと考えるわけで、そういう姿勢が、プロフェッショナルの働く姿として、美しいなあと思うのであります。

 

遅延や運休、欠航に遭遇された皆様は、大変だったと思います。

でも、輸送事業の現場で一生懸命奮闘している職員の皆様方には、できるだけ温かい気持ちで、感謝の念を持って接していただきたいと思います。

 

皆様、本日もお疲れ様でございました。

 

それにしても、飛行機の世界って、なんて面白いのでしょうか。

この趣味は止められませんよね。

昔はプロでしたが、今は単なる趣味なので、気楽なものでございますが。